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「共助死」 風水害時の共助的行動に伴う人的被害について

7月7日のNHKニュースでの報道 「共助死」

 7月7日のNHKニュースで、「災害「共助」活動での死亡 20年余で11人 “慎重に考えるべき」が報じられました。当方はこの話題についてしばらく前から取材を受けており、当日はスタジオから出演しコメントさせていただきました。

 風水害時の共助的な行動に伴い犠牲者が発生するケースがあるという、もうなんとも言えない痛ましい話題です。番組では「共助死」という言葉が使われました。番組前夜の7月6日時点で検索したところでは、ネット上にこの言葉は存在しませんでした。新語ということになると思います。

 こうしたケースがどれくらいあるのかということについて、当方の調査によると、という形で紹介されていますが、これは当方が論文等の研究成果としてまとめたものが紹介されたものではなく、NHKからこうしたケースがこれまでにどの程度あるのか、といった問合せを受け、当方が調査してきた1999年以降の風水害時に生じた人的被害に関する資料をもとにあらためて検討したところ、直近の2023年6月の事例まで含めた1527人のうち、少なくとも11人程度が該当する可能性があるという大まかな結果を得た、というものです。

「共助死」に対する当方の問題意識

 「共助的な行動に伴う犠牲者」という被害事例が、近年の当方の調査の中で時折見られてきたことには、強い懸念を持っていました。最初に気になったケースは平成30年7月豪雨災害時の岡山県倉敷市でのケース、次は2019年台風19号災害時の宮城県石巻市のケースでした。ただ、あまりにも痛ましく感じることなどから、これらのケースについては論文等への明示的な記述を躊躇していました。しかし、今回の報道でも触れられた2021年8月の長崎県西海市における民生委員の遭難事例(冒頭写真の現場)に触れて更に衝撃を受け、この事例については発生時の状況等を以下の論文中で触れました。

本間基寛・牛山素行:令和3年8月の大雨での降水量と犠牲者発生の関係性の検証,自然災害科学,Vol.41,特別号,pp.1-18,2022

 また、西海市のケースをはじめ、災害時の共助的な行動に際しての安全確保の重要性については、静岡新聞の「時評」欄寄稿記事でも複数回触れてきました。こうしたケースについての当方の考え方は、まずはこれらをご覧いただければと思います。

風水害時の共助的な行動に伴う犠牲者(共助死)の暫定的な定義

 風水害時の共助的な行動に伴う犠牲者(共助死)というのはあまりにも痛ましいことで、繰り返されることがないよう力を尽くしたいという気持ちが強くあるところですが、こうしたケースをどのように捉えていくかは、当方としてもいろいろと試行錯誤している段階です。

 今回の取材を受けて検討した際、私は「共助死」の定義を次のように考えました。いろいろな定義が可能と思いますが、ここではごく狭義に捉えてみました。これはあくまでも現時点の暫定的なものです。

  • 災害時に、近隣住民・自治会役員・親戚知人など、地域的または個人的なつながりのある人が、避難の手助け・避難の呼びかけ・救助活動・担当地区内の見回りなど、自分・家族以外の人の安全確保行動に寄与することを目的とした行動中に死亡または行方不明になったとみられる被災形態を指す

    • 消防団、警察官、消防職員、行政職員の遭難例は含まない

    • 勤務先での業務、勤務先建物の修理点検などに伴うケースは含まない

    • 自宅の浸水防除・修理、同居家族の救助・援助などに伴うケースは含まない

    • 土のう積み、倒木処理、川や水路関係の作業、舟の係留など、直接人を対象としない作業に伴うケースは含まない

    • 個人的な「様子を見に」だけの行動に伴うケースは含まない

 今回のNHKの取材を受け、上記のような狭義のケースに絞って検討してみたわけですが、それでも1999年以降で少なくとも11人、さらには近年ほぼ毎年のように見られていることに改めて愕然としました。

広義の「自助・共助的な行動に伴う犠牲者」は全犠牲者の2割近くに上る可能性

 当方では以前から、風水害時の死者・行方不明者のうち、「移動や避難の目的ではなく、自らの意志で危険な場所に接近したことにより遭難した者」を「能動的犠牲者」と定義してきました。こうした犠牲者は、集計期間にもよりますが、全犠牲者の4分の1程度に上っています。

1999~2022年の風水害犠牲者中の能動的犠牲者の割合 牛山調査

 能動的犠牲者の細分類の1つとして「防災行動」という分類も定義してきました。何らかの形で防災行動をとっていた中で遭難したというケースです。「共助的な行動に伴う犠牲者」はこうした「防災行動」犠牲者の更に一部ということになります。

1999~2022年の能動的犠牲者の細分類 牛山調査

 「防災行動」に伴う犠牲者も様々なケースがありますが、その多くは個人、家族、地域的つながりなど、個人的な防災行動にともなうものです。「自助・共助的な行動に伴う犠牲者」と言えるかもしれません。また、様々な場所の「様子を見に」行くといった行動も、何かしらの被害を懸念しての行動な訳ですから、これらも広義の「防災行動」とみなせるかもしれません。そう考えますと、「広義の自助・共助的な行動に伴う犠牲者」に伴う犠牲者は1999~2022年で見ますと、141+85+70=296人。全犠牲者1521人の19%にのぼることになります。

 なお、警察官、消防職員、消防団員、行政職員をどう捉えるかはまだ迷っているところです。特に消防団員は、公助と共助の中間的な立場と言えますし、警察官の中には非番だったが避難誘導にあたり亡くなられたケースもあったりします。本稿ではさしあたり「広義の自助・共助的な行動に伴う犠牲者」にとりまとめております。まだまだ検討が必要ですが、いずれにせよ風水害時に何らかの積極的な行動をとっていた、というか、とっていたが故に命を落とされた方が、かなりの規模存在している可能性があるというのが現実のようです。(本節7/7 13:51加筆)

 なお、「能動的犠牲者」などの定義については、最近の論文では下記で述べています。

牛山素行:風水害時の避難に伴う犠牲者について,自然災害科学,Vol.41,No.3,pp.189-202,2022

 なお、こうした当方の風水害人的被害に関する調査は基本的に、報道や行政などから得られた情報、当方自身の現地での観察、地理情報や気象データなど一般に入手可能な情報から総合的に推定しているもので、ご遺族などにコンタクトして情報を得ているものではありません。

共助的な行動を非難する意図はありません

 上記のnote記事でもその趣旨を書いていますが、当方は、こうした共助的な行動をとって犠牲となられた方を非難する気持ちは全くありません。善意の気持ちで行動されたであろう事は明らかであり、ひたすら痛ましく思い、こうしたことが繰り返されてほしくない、という気持ちを強く持っています。

 共助の重要性はよく言われており、それ自体はおかしな事とは思いません。しかし、風水害のように、危険性が次第に高まっていき、その高まりのタイミングが読みにくい現象に対しては、私たちのようなごく一般の人が他人を「助けに行く」事については、慎重な上にも慎重でなければならないと思っています。

 共助という行動はよいこと、というイメージが強いと思います。それゆえに、共助に対してネガティブなことを言うのは躊躇するところがあります。しかし、「共助というよいこと」のために、正しいことを行わなければという使命感を持って行動して命を落としてしまうようなケースは言うに及ばず、本当は自分自身の命をかけるようなことはしたくないが人目を気にして危険な行動をとらざるを得ないような立場におかれ結果として命を落とすようなケースなどが発生することは、なんとしても回避しなければならないと思っています。どうしたらよいのか、本当に「正解」がないところだと思いますが、現実を直視し、考えていかねばならないことだとも思います。

記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。