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Passing Bellを聞きながら

Passing Bell -帰郷-


お盆になると聞きたくなる歌がある。
僕にとってその歌が小山卓治の「パッシング・ベル」だ。
もう何十年も前の夏、同級生同士結婚した夫婦が離婚した。
しかし事はそれで終わらず、悲劇的な事に夫が自殺してしまった。
丁度お盆の頃で、みんなと同窓会をしてそれぞれの街へ帰ろうとしていた時、Rが死んだというニュースが飛び込んで来た。
僕は当時出たばかりの小山卓治の「Passing Bell」という歌に
そっくりな状況に泣けたんだ。

詞:小山卓治 曲:小山卓治


夕刊の片隅 懐かしいあいつの顔写真
その晩電話のベルがいつもより静かに鳴った
俺達はバッグに黒いスーツをつめ込み
それぞれの街からあいつの眠る街へ急ぐ
ディランを口ずさみながら
むし暑い夜を抱いて
苦い握手と笑顔
昔とおんなじジョーク

テーブルの周りで俺達は
思い思いの形のグラスに
1本のシャンペンを注いだのさ

この街には敵とそして犠牲者しかいない
ここから最後まで逃げだせなかった男
13階のオフィス 仕事が終わったその足で
廊下のダストシュートに頭から飛びこんだらしい
あいつはいつも言ってた
俺はクズみたいな男さ
弱音さえ吐けなかった
負け犬に乾杯

テーブルの周りで俺達は
思い思いの形のグラスに
1本のシャンペンを注いだのさ

この街を最初に飛びだしたのは私だった
ヒットチャートを昇って輝く笑顔を手に入れた
シルクハットに恋してみんなが肩をすくめた時
私を照らすのはまあるいスポットライトだけ
あの曲憶えてるでしょ
イントロはピアノとバイオリン
さあ歌うわ私
拍手をちょうだい

テーブルの周りで俺達は
思い思いの形のグラスに
1本のシャンペンを注いだのさ

昔からみんなに優しい男と呼ばれてた
疑うことも知らずにあの子と一緒になったんだ
この春に生まれた子供にあいつの名をつけた
ありふれた暮らしのどこが悪いんだい
こんな目に会うくらいなら
死に急いだやつが利口だ
息子の魂のために
グラスを上げてくれ

テーブルの周りで俺達は
思い思いの形のグラスに
1本のシャンペンを注いだのさ

身の上話など俺には関係ないことだ
流れ者にだって楽しむ権利はあるさ
みっつ目の名前で新しい仕事を始めた
今ではあの街の顔役に収まった
しこたま儲けた金で
みんなに酒をおごれる
だけど今夜初めて
泣けてくるのはなぜだ

テーブルの周りで俺達は
思い思いの形のグラスに
1本のシャンペンを注いだのさ

時計はいつまでも遅すぎる夜を指している
若さなんて棒に振るもの 俺達の口癖だった
雨の夜のために残しておいた哀しみを
テーブルに並べて俺達は静かに笑う
ラジオは調子っぱずれ
ふるさとの歌を歌ってる
外はどしゃぶりの雨だ
さあもう1杯やろう

テーブルの周りで俺達は
思い思いの形のグラスに
1本のシャンペンを注いだのさ


あれから何十年めかの夏に
同級生のT君から電話がありました。


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