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明日の叙景:新作「すべてか弱い願い」インタビュー

遂に今年も残り1ヶ月を切りました。年の瀬というやつですね。2020年は最高だったぜ!…って人はあまりいないんじゃないかと思いますが、私は職を追われることもなく、住む場所を脅かされることもなく、健やかに過ごしていました。トレーニングという趣味も出来たので、それなりに充実した1年だったのではないでしょうか。(なおバンドは全然動いてない模様…。来年はやりたい!)

そんな2020年も終わりに差し掛かる頃、12/4に国内でも数少ないポストブラックメタルバンド"明日の叙景"が5曲入りEP「すべてか弱い願い」をリリースしました。兼ねてより親交のある(というかボーカルが学生時代の同期)バンドで、毎回素晴らしい作品をリリースしていて、身内という点を抜きにして大ファンです。

例によって作品をリリースするタイミングでインタビューをさせてもらいました。

今作は今まで以上にメロディの煽情力が高く、表現として正確かどうか分かりませんがとても"キャッチー"な部分が多く、且つ感情表現の深いところはとことんまで潜るような作りになっていて、5曲ですが飽きさせません。現時点の彼らの集大成といえる作品になっていると思います。


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明日の叙景/インタビュー

・先ず結成の経緯をお願いします。

等力(以下等):2014年頃に中学、高校あたりから知り合いだったベースの関とドラムの齊藤とインストバンドを始めたんですけど、ボーカルが欲しいねということになって、2015年にTwitterで布さんと出会ってお誘いしました。その体制でピッタリ5年くらいやっているという感じです。

・はい、ありがとうございます。次に明日の叙景の影響を受けた音楽を教えてください。それと、サウンド的に激情ハードコアやブラックメタルとされることが多いと思いますが自分たちではどちらの音楽をやっている意識が強いですか?

等:よくメンバーとどういう音楽を聴いているかという話をしていて、あまり共通で「これだ」というバンドはいないんですが、DEAFHEAVENには良く聴いていると思います。メンバーによってどの時期から聴き始めたかの違いはあるんですが、特に「Sunbather」あたりからのDEAFHEAVENはよく聴いていると思います。


あとは最近になって気付いたことですが、メンバーが良くOATHBREAKERを聴いていたというのはありましたね。ただ、"こういう要素はOATHBREAKERやDEAFHEAVENっぽいよね"という答え合わせのような感じで使われることが多くて、何か特定のバンドを強く意識していることはないですね。

それと、ハードコアとしてやっているか、ブラックメタルとしてやっているかということに関しては時期によりますが、1stアルバム以降はブラックメタルであることに拘ってやっています。サウンドがブラックメタルそのものかどうかは置いておいて、ブラックメタルをやる意味を考えながらやっていますね。どちらかというとメタルに寄ってきていると思います。

・なるほど、初期作品はハードコアらしい印象が強い部分もあると思いますが、変遷の理由などはありますか?

等:メンバーで一緒に演奏する時にハードコア的な一瞬のインパクトよりも、ブラックメタルの方が合う気がしました。それと自分たちのプレイスタイルやクリエイティビティの繊細さもブラックメタルの方が相性が良いのかなと思っています。

・布さんの書く歌詞についても初期作品と近年の作品では、かなり変わってきていると思います。それについてはどうですか?

布:1stEPやアルバムは神秘性を感じる歌詞にしたいなと思うところがあって、使う言葉も形式ばっているものを選んだり、日常ではあまり使わないような言葉を使ったりしていました。というのもシャウトボーカルはメロディを歌うよりも制約があるし、堅い言葉の方が映えるような気がしていたんですよね。でも、そこから第三者が読んだ時に意味が分かるかな?ということを考えたり、メンバーが等身大さや、素朴さを求めていると思ったので、自分の歌詞を書くスタイルもそっちに寄せました。話し言葉をスムーズに歌詞に乗せることが出来たら、聴いてくれる人にも伝わりやすいかなとも考えています。


ちなみに今作の歌詞については、5曲すべてストーリーテリングのような歌詞になっています。

等:初期に比べて、スコープが大きくなっているというか、俯瞰の視点から見た物になってきているような気はしますね。

・人の視点から見てた歌詞が、神視点のようなものに変わってきている印象ですかね?

布:今作もあくまで人視点の歌詞です。ただ、1st EPとアルバムでは他人や自分にしか視点がいってなかったものが、今作では世界や神様、空間、時間などスケールの大きいものに焦点が当たっています。


・ありがとうございます。それでは新作「すべてか弱い願い」について質問していきたいと思います。先ずジャケットのアートワークについてですが、前作の丁子紅子さんの描いたジャケットも印象的でしたね。今回の佐藤Tさんによるアートワークはどのようなものなのでしょうか。

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布:僕がTwitterで見つけて依頼したんですけど、描かれた人物も魅力的で、加えて日常で使う生活感のあるものが随所にモチーフとして描かれていて、そういった部分に等力が惹かれたと言っていましたね。

等:そうですね。依頼することが決まった時にどういう絵を依頼しようかとメンバーと相談していたんですけれど、話していく中で出来上がった絵のようなイメージが浮かんでいましたね。これは今作の歌詞にも言えることなんですけれど、やはり新型コロナウイルスの感染が拡大している中で作っていた作品なので、そういった情勢が反映された作品にはなっているとは思います。

・ゴミが散乱する暗い部屋の中で佇む少年と赤い空から隕石が降ってくる窓の外の対比が面白い絵だと思います。

布:日常と非日常が隣り合った絵になっていると思います。

・なるほど、分かりました。それでは1曲ずつ聞いていきたいと思います。先ず1曲目の「修羅」について。今回初めてMVを撮っていますがこれは何処で撮られた物ですか?


等:これは千葉の九十九里浜から少し離れたところですね。スタジオ音楽館系列のビーチサイド音楽館というスタジオがあるんですけど、そことその付近で撮っています。

・海で撮った理由みたいなものはありますか?

等:これは僕が作った曲で完璧に僕のインスピレーションの話なんですけど、この曲は全体的に南米ぽいコード進行で作っていて、転調を繰り返す曲です。それで少し変な話なんですけど、「ARIA」というアニメがあって、舞台が火星に移転されたネオ・ヴェネツィアという場所なんですが、そのBGMが凄く南米ぽいんですよね。そういう異世界感が面白いなと思って音楽的なインスピレーションで海に行きましたね。一方で布さんの歌詞のインスピレーションがあって、それとどう結びつけるかというところを撮影してくれた横田さんと話し合って作りました。

・なるほど、面白い成り行きですね。歌詞についてはどうですか?

布:端的にいうと女子高生がデモに参加するという内容です。

・女子高生がデモ…?

布:政治家や特権階級の人たちの不祥事と不公平さに対するデモを想定しています。

・作品のリードトラックと言えるようなエピックで気持ちのいい曲ですね。今回からギターが一本追加されていますね、理由はありますか?

等:そうですね。単純に出来ることが増えるので…端的にいうとそれだけです(笑)。自分たちの緻密に積み上げていく作曲スタイルと、ギター2本というのが相性が良いよねと思ったからです。当たり前のことなんですけど(笑)。

布:等力は昔、ギター2本はなんか微妙だから嫌だって言ってたよね。

等:最初はあまり作曲技術がなくて、ギター2本の絡みをあまり考えられなかったということと、僕がハードコア上がりなのでギター1本の方が演奏しやすいというのがあったと思いますね。明日の叙景以外のところで曲を作ることもあるんですけど、その中でギターが2本あると色んな曲が作れるんだな〜と思ったところもあります。当たり前のことだけど(笑)。

・なるほど(笑)。それでは次の曲「私はもう祈らない」についてお願いします。

等:この曲が今作で一番最初にできて、一年くらい前に出来たんですけど、UNREQVITEDとのスプリットを出した時に王道ポストブラック路線の曲って面白いねと思って、それをもう少し飛躍させた曲が作りたくて作った感じですね。今まであまり出来なかったメロディアスな所でブラストビートを入れました。この曲からエンジンがかかって、他の曲も作っていったような感じです。比較的オーソドックスなポストブラックらしい曲だと思います。


・確かにストレートに疾走してて、今までありそうでなかった曲ですね。歌詞についてはどうですか?

布:これは…古い村の因習によって仲を裂かれてしまった男女の話です。女性視点で書いています。今作の中でも一番ストーリーテリングの要素が強い歌詞ですね。

・ありがとうございます。次の曲「影法師の夢」。これはプレイスルー的なビデオがアップされていますね。


等:はい、「修羅」を撮ったスタジオと同じ場所で撮影しています。これは齊藤が作った曲なんですけど完成度が高いのでリードトラック扱いをしました。動画を撮った「修羅」と「影法師の夢」に関しては、どの楽器もどこかしら目立っているパートがあるというか、かなりフレーズも詰めているので選んだところもあります。

・作曲者的に聴きどころはありますか?

齊藤:他の曲もそうなんですけど、今回打ち込みでドラムのフレーズを構築していったのもあって、色々今までやってみたかったフレーズに挑戦しています。「影法師の夢」もリニアフレーズ的な物を入れていて、構成的にはパズルというか前半で出てきたフレーズと同じフレーズなんだけど、違う雰囲気に聞こえるようなフレーズの組み方をしていますね。

・ありがとうございます。次の曲「青い果実」ですが、これも美しい曲ですね。イントロのフレーズとかとても好きです。

布:これは僕の鼻歌から作った曲ですね。僕の好きなアニソンから着想を得たメロディを等力が完璧な形に仕上げてくれたような感じです。

・ポストブラックっぽさもありつつ、所謂シューゲイザー的な要素も感じますね。

等:この曲は布さんの持ってきたイメージと、僕がシューゲイザーの要素を入れた曲がやってみたくて、それが合致した形になってると思います。今の状態に僕が更にアニソンっぽいメロディを入れようとしてメンバー皆に全力で反対されるということもありましたね(笑)。

・そうなんですね(笑)

等:今回はかなり作って壊して、作り直して…というプロセスを繰り返してますね。

布:曲作りに対してのやりとりがバチバチだったもんね(笑)。

等:アルバムを作った時のコミュニケーションの量と冗談抜きで10倍くらい違いますね(笑)。

・え、そんなに違うんですか(笑)?

等:そうですね、曲を作り直した回数も今作はめちゃくちゃ多いです。「影法師の夢」もメロディをどうするかという問題で3〜4パターンくらい違うメロディを作って、アレンジを進めていって、結局最初に作った形に戻ってくるというプロセスがありました。

・その甲斐のある良く練られた作品になっていると思います。最後に「生まれたことで」ですね。

等:この曲は最初のフレーズは僕が持っていったんですけど、そのあとの展開は皆で作っていきました。

・凄く壮大な雰囲気のある曲ですね。

等:そうですね。他の曲もそうなんですけど、今回はストーリーテリングを意識して作っていってて、この曲は最初から語りが入ってますけど。最後の曲なので、そういったギミックを全部使おうと思って曲に詰めています。

布:これまでの作品が最後の曲で多幸感ある感じのメロディというか、比較的アッパーな感じで終わっていたので今回はバッドエンドで締めたいと思い、メンバーに作ってもらいました。

・終盤、だんだんと不協和音になっていく感じがとても不穏な感じが出てて良いですね。それでは作品についてはこれくらいで終わりたいと思います。これからの活動としてはどのようなものを考えていますか?

等:最近の情勢もあって、少し考え方が変わってきた部分がありまして、今までは音源を出してそれをライブでやって完成するというのが無意識にあったと思うんですけれど。今回の作品がストーリーテリングに重点を置いているということも含めて、パッケージングされたもの、ライブをしなくても完成されたもの、作品単体で強いものを作らなければいけないなという意識に変わっていきましたね。とにかく場数をこなして広げていくというよりは良い作品を作っていきたいなと思っています。今は次のアルバムに向けて制作をしていきたいと思っています。

布:現在の状況だと、皆平等にライブに来られる環境ではないですよね。これは4way splitを出したときにもライブの公平性として触れた問題なんですけど、もしライブをやるとしたら、しっかりと良い映像を撮ることを前提として、どのような境遇にいる人にもなるべく公平に届けられるように配慮して開催するのが理想かなと思います。


「人生のFavorite Album(上)/最近良く聞くアルバム(下)」

等力さん(GUITAR)

coalter of the  deepers - NO THANK YOU

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leprous - THE CONGREGATION

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布さん(VOCAL)

COCK ROACH - 赤き生命欲

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protoculture - circadians

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斉藤さん(DRUM)

SUGIZO - C:LEAR

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CHON - CHON

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関さん(BASS)

Opeth - Ghost Reveries

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Dark Tranquility - MOMENT

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