モーターパラグライダー体験談

空を飛ぶ夢を抱いて、私はモーターパラグライダーの世界に足を踏み入れた。雲の上から見る景色に憧れ、鳥のように自由に風を切る感覚を味わいたいと、30万円以上もの大金を投じて機材を揃えた。全ての機材は、指導してくれる先生から購入した。先生は機材の販売も手がけており、「最高品質の道具で、最高の飛行を」と熱心に勧めてくれたのだ。

いよいよ初飛行の日。早朝から飛行場に到着し、興奮と緊張で胸が高鳴る。発着エリアを確認すると、中央を横切るように1本の農道が走っているのが見えた。「着陸時は注意が必要だな」と心に留めつつ、離陸の準備に取り掛かる。

風向きが絶えず変化し、離陸のタイミングを計るのが難しい。何度も失敗を繰り返し、汗だくになりながら挑戦。ようやくパラグライダーが膨らみ、足が地面から離れた時の喜びは言葉では表せないほどだった。

高度が上がるにつれ、想像していた爽快感とは裏腹に、恐怖心が湧き上がってきた。「ここから落ちたらどうなるのか」という不安が頭をよぎる。

畑やビニールハウスの上空に差し掛かると、突如として強い上昇気流に遭遇。機体が急激に持ち上げられ、高度が一気に上がっていく。予想外の出来事に心臓が口から飛び出しそうになる。

ようやく降下の時が来た。先生の指示に従い、螺旋状に高度を下げていく。意外にも、この過程は順調だった。緊張しながらも、少しずつ降下し、地面が近くにつれ安堵感が増していった。

着陸エリアが見えてきた。中央を横切る農道が目に入る。「車が来ないことを祈ろう」と思いつつ、最終アプローチに入る。

着地点まであと十数メートルというところで、突然の出来事が起きた。農道をゆっくりと走行していたワンボックスの乗用車が、私の降下経路と交差したのだ。

避けようと必死に操作するも、間に合わない。私の足がワンボックスカーの側面に横からぶつかった。衝撃と共に体のバランスを崩し、地面に落下。そのまま数回転がってしまった。

幸い大きな怪我はなかったものの、ワンボックスカーには目に見える損傷が。驚愕した運転手の怒りの矛先は、当然のように私に向けられた。

賠償責任を負うことになった私は、指導してくれていた先生に助けを求めた。しかし、先生の反応は冷淡そのものだった。

「うまい人なら、こういった状況は避けられるものだ。私に責任はない」

その言葉は、まるで氷の刃のように私の心を切り裂いた。その瞬間、私の中で何かが折れた気がした。

結局、私はモーターパラグライダーを諦めることにした。空への憧れは、現実の重みと責任の前に消え去ってしまった。

高価な機材との決別を決意し、オークションサイトに出品した。思い出が詰まった道具たちが、次々と見知らぬ人の手に渡っていく。複雑な思いを抱えながらも、最後の一つが売れた時、どこか肩の荷が下りたような気がした。

時々、空を見上げると、あの日の苦労と恐怖、そして一瞬の興奮が蘇る。離陸の困難、上空での不安、予期せぬ上昇、そして最後の失敗。これらの経験は、夢を追うことの難しさと、現実との折り合いをつけることの大切さを教えてくれた。

そして、あの先生の冷たい言葉は、いまだに耳に残っている。夢を追う者と、それを指導する者の間にある深い溝を、私は身をもって知ることになったのだ。

思えば、先生にとっては機材を売ることが主な目的だったのかもしれない。生徒が空を上手に飛ぶことよりも、高価な機材を販売することに重きを置いていたのではないか。

オークションで売り払った機材の代金は、新たな趣味の資金となった。地に足のついた、しかし同じくらい情熱的な何かを見つけようと、私は今も模索を続けている。空を飛ぶ夢は終わったが、新たな冒険への扉は、まだ開かれたままなのだ。

この経験から、夢を追う際には、その道を導く人の真の意図を見極めることの重要性も学んだ。時に、夢は地上に足をつけたまま、慎重に歩みを進めることで、より確実に達成できるのかもしれない。そんなことを、今でも空を見上げるたびに考えてしまうのだ。

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