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Tensegral Voice Work②タテのユニット「ヒトゆえのシステム」

ヒトゆえのシステム / タテユニット

今回はタテです。プライマリーユニットと元々呼んでいました。プライマリー、というのは色んな意味で使っています。「一次的」という意味と、「人間の特性として持ちうる機能=最重要な機構である」という意味でプライマリーとしています。※1

まず、タテのユニット、ですが、こういうルックスになります。VerticalUnitと普段は呼んでいますが、まあちょっと硬いので、タテユニットとここでは呼びます。

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ぱっと見「タテ」の構造になります。プライマリー、一次、なわけでなので、直接に甲状軟骨にアプローチすることができるシステムです。甲状軟骨が動けば、声帯に影響が出ますから、直接的に声帯の張力に影響を与えられるだろうということです。

(胸骨甲状筋も含まれていますが、おそらく、喉頭を下げるための役割だけでなく、甲状軟骨が傾くための「ピボット」的な役割を兼ねているのではないかと推測しています)

舌骨ユニットはまるで前後でしたが、こちらはタテ。タテユニットで発声をしていくと、基本的には丸い音色が出てきます。裏声、ミックスボイス、これらはタテのユニットの恩恵ではないかと推測します。

タテのユニットとして考えられる筋肉群は、下から胸骨甲状筋 / 甲状舌骨筋 / 茎突咽頭筋 / 口蓋咽頭筋 / 軟口蓋 / 軟口蓋の挙上筋群 です。輪状甲状筋は共用部と考えます。

特に、今回は輪状甲状筋と、軟口蓋-口蓋咽頭筋に注目して考えてみます。輪状甲状筋は、甲状軟骨、もしくは輪状軟骨を傾けることで声帯の伸展をさせる有名な筋肉ですね。※どちらが傾くか、はどちらが土台になるかで変わると考えられます。

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ですが、この輪状甲状筋だけで歌唱時に音程をかけのぼるには限界があるだろうと考えます。特にそれでいて地声感を出そうというなら、なおさらのことです。地声感を出すときは声帯を縮めるベクトルが加わるわけですから、それに反発するベクトルをより強く加えなければ音高は上がっていきません。

そうすると、他にも声帯の伸展に参加すべき筋肉があるだろうと考えます。それが軟口蓋機構です。軟口蓋テンセグリティと言いましょうか。

軟口蓋テンセグリティ

軟口蓋からは、「軟口蓋を下げる筋肉」として口蓋咽頭筋という筋肉があります。

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ただ、筋肉は、「筋肉の始まりと、終わりが、どちらが土台になるかで作用は変化する」というのが大事なところです。軟口蓋を挙上させる力がなければ、軟口蓋は土台にはなりません。これは解剖学の教科書通りの動きです。軟口蓋が「アンアンカード状態」なわけです。

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しかし、軟口蓋が挙上する力がはたらくと、軟口蓋が静止してくれます。アンカード状態です。この場合、軟口蓋が土台になります。軟口蓋のアンカー化です。口蓋咽頭筋によって甲状軟骨に傾きを与えられる可能性があります。※2

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軟口蓋にこだわる歌手が多いのも説明ができそうです。「軟口蓋をあげろ」という指導が多いのは、「軟口蓋を土台にして、口蓋咽頭筋で声帯を伸展させろ」という意味なのかもしれません。これが重要です。口蓋咽頭筋だけではどうにもなりません。軟骨を傾けるだけの力を出すには、軟口蓋が土台になるだけのパワーが必要です。

また、軟口蓋を閉じ切らなくても、つまり完全な閉鼻(へいび)状態にしなくても口蓋咽頭筋は声帯の伸展に関わることはできると考えます。結局、釣り合えばいいのです。

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この場合、軟口蓋テンセグリティの拮抗相手は声帯筋になります。声帯筋は、声帯を縮める筋肉ですから、この軟口蓋テンセグリティとは逆方向のベクトルになります。

声帯筋の力が100パーセント、じゃなければ、軟口蓋テンセグリティも100パーセントの力で引き合う状態じゃなくて良いのです。軟口蓋が閉じ切らず、鼻にわずかに抜けた柔らかい音色でも、声帯を引っ張る力が働く、ということです。声帯と、そのほかの伸展筋群は釣り合います。これが大事なことです。

だから、もし声帯にぎゅっと力を入れた強い発声をしたいのであればこの軟口蓋のシステムもフル活動させた方がいいでしょう。そうすれば、声帯筋の強い力と、軟口蓋テンセグリティの強い力が、釣り合うからです。ベルティング歌手が強い閉鼻(へいび)状態で歌うこともこれで説明がつきます。

また、こういう見方もできます。こういう見方、というよりここがタテのユニットのコアとなる考え方かもしれません。

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先程のイラストに胸骨甲状筋がたされました。引き下げ筋が声帯の弛緩に関与すると考えます。そうすると、胸骨甲状筋と口蓋咽頭筋&軟口蓋が綺麗な綱引きをするということになります。

軟口蓋テンセグリティを拡大していく

※加筆中です※

さて、軟口蓋テンセグリティ、もう少し拡大していくことができます。軟口蓋がどこに付着していくか、ということを考えれば一気にテンセグリティ構造が広がっていきます。軟口蓋は、硬口蓋に付着します。いわゆる「上あご」。上顎骨です。

この上顎骨は、独立して動かすことができません。というより、頭部の中で動くのは唯一、下顎骨のみ、です。

そして、頭部は、頸椎によってのみ動かされます。そう考えれば、軟口蓋テンセグリティは頸椎にまで及びます。まあこれは舌骨テンセグリティにおいても同じことではあるのですが、軟口蓋テンセグリティにおける頸椎のアライメントは極めて重要です。頸椎アライメント次第で、口蓋咽頭筋のベクトルが大きく変わるからです。

つまり、タテのユニットで声帯伸展をしようというなら、最適な頸椎/頭部のアライメントが明確にあるということになります。この場合だといわゆる「うなじを意識しなさい」といったキューに期待される姿勢でしょう。もしくは「上アゴを開けなさい」でしょうか。

口蓋咽頭筋はさわれる

また、口蓋咽頭筋はさわれます。見ることも可能です。「口蓋垂」の横側のところですから、割とわかりやすい部分かもしれません。輪状甲状筋の厄介なところは、見ても触ってもわからないところでした。笑 これは発声マニアならきっと気持ちがわかってくれるはず。

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口蓋垂の後ろのアーチが口蓋咽頭筋と認識しています。

うまく触れれば、裏声などで高音を発声すると内側に迫ってくるのがわかるはずです。よくわからないというひとももちろんいると思いますが、結局、発声がある程度うまくいっている人ほど知覚できやすい傾向にあります。単純に軟口蓋テンセグリティが発声に参加できていないだけなのかもしれませんね。

※パッサージョ、筋加算仮説

これは仮説というかほぼおまけの妄想ですが。根拠があまりないのですが、現象としてはありうるなあという感じです。

パッサージョ、ブリッジ、呼び名は何でもいいのですが、いわゆるミックスボイスなどで高音を出していくときに、テナーの男性であればE4が最初のパッサージョ、二つ目がA4あたりになります。仮設は、「一つ目のパッサージョでは、輪状甲状筋だけでは地声感を持って出すのは難しい、この時点で更なる伸展のためのベクトルが必要になる」というものです。

パッサージョのたびに筋肉が加算されていくのではないかと考えます。一つの筋肉の収縮が強まっていく、のではなく、別の筋肉が加わっていくと考えるのです。

たとえば、男性のE4。多くのアマチュア初学者はここでセカンダリーユニットである舌骨上筋群を選択してしまう,,,ですが、それでは叫び声にしかなりません。パッサージョは超えられますが超えたことにはなりません。ですから、口蓋咽頭筋を選ぶ必要があります。おそらく最初のパッサージョは、プライマリーユニットだけで処理できる能力が必要です。

それより上、二つ目のパッサージョを超えるのであれば、タテユニットだけでいく場合はいわゆる頭声的発声を選択することになりますし、舌骨ユニットを選ぶ場合は、ベルティング的な発声になると考えられます。

パッサージョを抜けるために、母音をせまく、広く、これはよく議論されることですが、そもそもタテユニットで駆け抜けるのか、舌骨ユニットで駆け抜けようとしているのか、身体がどちらを選択しているのかを考えなくてはなりません。(現象としては、タテユニットで駆け抜ける人たちは母音を広くしてバランス調整しているケースが多いようにも感じます。舌骨ユニットは逆です。)

※パッサージョ、筋遷移(=移り変わり)仮説

似ていますが、こんなふうにも考えられますね。「音域によって、使っている筋肉が移り変わっていく,,,」もちろん0-100の世界ではありますが、歌手の発声感覚を考えるとなくはなさそうです。

例えばいわゆる「胸声区」。これが舌骨ユニット+輪状甲状筋による声帯の伸展だったとします。第一パッサージョを迎えるあたりから、舌骨状筋群の活動が弱まり、次第に舌骨ユニットは活動を低下させ、輪状甲状筋+口蓋咽頭筋のユニットが優勢になる。人によっては第一パッサージョでは筋の移り変わりはなく、そのまま舌骨ユニットで超越するかもしれません。

これであれば、「声の一本化」というのも現実的になってくる気がします。つまり、強烈なミックスボイスやベルティング的なものではなく、胸声、頭声のギャップをなくす、ということです。加算していくとなると、比例してより声帯筋の活動も強めていくことになるわけですから。

※それにしても、こうして書いていると、もしかしたら声区とは声帯の厚さ薄さだけではなくて、タテユニットなのか、舌骨ユニットなのか、で本当は感じ取っている人もいるかもしれませんね。ずっとタテユニットと舌骨ユニットが一定量活動している人にとっては「裏声と地声がよくわからない」なんていう話になりがちです。


タテユニットのための頸椎アライメント

上述したように、軟口蓋テンセグリティは頸椎までの地続きになります。そもそもタテユニットのなかにほぼほぼ頸椎が組み込まれていると言っていいのですが、ここでは「舌骨上筋群封じ」という目線で考察してみましょう。

これは舌骨ユニット=舌骨テンセグリティの時にも書いたことと重複しそうですが、歌の先生はよく「顎を前に出すな、うなじを高くしろ、顎を引け」と言います。

これらほとんどが舌骨ユニットに頼らず、タテユニットの活動を強めていけ、という意味だと捉えることができます。

「顎を引け」=「頸椎伸展+上位頸椎屈曲」と考えると、GHS(オトガイから舌骨までの距離)が短くなるわけですから、舌骨上筋群は弛みます。つまり、弛緩(しかん)傾向になります。セカンダリーユニットに頼りにくくなります。

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ですが、それまで舌骨ユニットに頼って音高を調整してた人にはやりにくくて仕方ないはずです。脳は舌骨上筋群への神経信号を送ってしまうわけですから、まずそこをうまく断ち切らない限り、外からのアライメントを揃えたとしてもうまくいきません。

「基本的には」舌骨ユニットに頼らないアライメントで歌いやすさを覚えるまで、タテユニットを育てるべきですし、ここには徹底的なトレーニングが必要です。この辺りの矛盾を解除しない限り、低い音域から舌骨ユニットに頼る学習者にとっての姿勢指導は「歌いにくい、窮屈なもの」にしかなりません。

※「基本的には」とは書きましたが、例外もあります。舌骨上筋群を使いながらもそのまま舌骨ユニットも一定程度、成熟していくケースもあります。つまり、ずっと複合的に練習しつつ、両ユニットとともに成長させるということです。この辺は理論からメソッドをどう切り分けるかの問題かもしれません。

指導におけるプライマリーユニットの役割

現場においては、ほとんどの指導はプライマリーユニットを使えるように指導していくことが専らでしょう。アマチュア歌手の場合は、とにかく最初のパッサージョでセカンダリーユニットを強く働かせてしまいます。

元々声楽や合唱をやっていた場合など、クラシック的な教育を長年受けていたのでなければそのパターンに当てはまるのが普通です。音域が上がるにつれて音量も膨らんでいく、などわかりやすい特徴です。

また、プライマリーユニットが成熟していくことを阻害する条件もあります。それは例えば「舌骨位」ですが、これはまた「舌骨位」のセクションで書きましょう。

※1 これは「哺乳類の中でも、立位姿勢を基本姿勢とする動物が主に持つ発声ユニットなのではないか」という私の仮説からです。二足歩行動物であれば、舌骨ユニットを使う動物が多い、これは口腔の体積がタテ方向に成長していないからです。
※2 口蓋咽頭筋が声帯の伸展に関わるというのは解剖学的な見解ですが、おそらく海外であれば大元の論文があるのではないかと思っています。もしどなたかご存知でしたらご連絡いただけないでしょうか。....追記  お名前は伏せますが、この記事を読んでいただいたボイストレーナーの先生から、参考文献を教えていただきました。ゼムリン言語聴覚4版にて確認ができます。貴重な情報をありがとうございました。


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