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小説のつづき 4
彼女は、ジョージア オン マイ マインドを、ジャズ風のアレンジで弾いた。
出てくる音は思いのほか大きくて、ぐっと心を揺さぶるようだった。
オルガンの重厚な音から、エレクトリックピアノのタッチをいかした音まで、一
つの楽器からは出てると思えないようなたくさんの音が重なりあって、そして静か
に消えていった。
僕は、久々に音楽を聴く感動を味わっていた。
演奏が終わって「どう?」と彼女が立ち上がった。
まっすぐな視線がじっと僕に注がれる。
椅子から乗り出すようにして聴いていた僕も、立ち上がって自然と彼女に近づいた。
彼女の顔をこんなに近く真正面から、見つめ続ける勇気は、僕には、なかった。
窓の外を見るように彼女に背を向けて、彼女の手を僕の胸にあわせるように重ね
た。柔らかな彼女のからだが背中にいきづいた。
そのままの姿勢で、彼女の呼吸にあわせるように、じっと立ち尽くしていた。
彼女は、顔を傾けて僕の肩にあずけた。あたたかさが体をおおった。
外の陽が少し傾いて、僕の持ってきたバラを逆光ぎみに、中心は暗く、花弁のふ
ちを鮮やかに輝かせている。
ほのかな彼女の香りに包まれて、静かに手を放し向かい合うと、少し上気した顔
を振りはらうように、早口に彼女は話しはじめた。
「このアレンジXX君好みでしょう。今日来てくれるまでズッとどう弾こうか、いくつかパターン考えてたんだ。なるべくシンプルな方がお気に入りだろうと思ってでもそうすると、こいつ音がアコースティックじゃなくて平板だから、よけいむづ
かしくて、」
じっと目を見ながら、まだ話し続けようとする彼女に、とてつもなくどきどきし
ながら、そっとくちづけをした。
彼女は「アッ・・」といういうような、みじかな声を出して、体を少し後ろにず
らした。
そして「また、私の演奏聴きに来てくれる?」ときいた。
僕は、思いきり抱きしめたい気持ちをようやく押さえて「もちろん」と答えた。
つづく。