カッチー

兵庫県在住、京都育ち シルクスクリーンや銀塩写真を愛するアーティスト ベンガル猫のエン…

カッチー

兵庫県在住、京都育ち シルクスクリーンや銀塩写真を愛するアーティスト ベンガル猫のエンジェルと二人暮し ガーデニングにもいそしみ目標はWine&ROSESな日々かな

最近の記事

小説のつづき Part 2 6b

庭園美術館を過ぎて恵比寿に向かう途中、少し入り組んだ住宅街に鈴木の住む古いマンションがあった。 少し離れた駐車場に車を停めると、冬枯れの街は冷たく静かだった。 黒木は常に鈴木を使っているわけではない。 しかし、今回のデュオのレコーディングは大編成じゃなくピアノとのトリオが軸になるので派手なアレンジよりじっくりミュージシャンの持ち味を引き出してくれる鈴木を選んだのだ。 鈴木は、譜面とアレンジのデモテープを用意して黒木が来るのを待っていた。 挨拶もそこそこに、レコーディング

    • 小説のつづき Part 2 6

      月曜日、黒木達に緊急会議の招集がかかった。 サニーニュージックがJBXに、ついに売り上げNo.1の座を奪われたのだ。 オリコンなどの資料を見ていれば近いうちにそんな日が来るとは思っていたが、現実にこの結果を見せられるとやはりショックだった。 サニーミュージックの社長以下、役員が並ぶ会議で黒木達は激しく叱責された。 現場を預かるプロデューサーやディレクターは黙りこくっていた。 しかし、黒木が突然発言を求めた。 担当部長がどぎまぎしながら黒木を見つめた。 黒木は今まで現場から

      • 小説のつづき Part 2 5

        レコーディングエンジニアの原田は、三人それぞれのパートを小刻みに演奏させては、微妙にマイクセッティングを詰めてゆく。 ピアノと二人の立ち位置、二人の間隔。 その度に、シンジとカズヤはまるでカメラ撮影のモデルのように向きを変え移動する。 ユミはレコーディングという懐かしい緊張感の中で、別れてきた彼のことを思った。 彼にもこの場を見て欲しい。この場にいて欲しい。 誇らしいような、心細いような、揺れる気持ちでいっぱいになる。 ほんの一瞬ぼんやりしていると、原田が通しでやってみよう

        • 小説のつづき Part 2 4

          黒木が慌ただしく去ってゆくと、夕陽をかき消すように厚い雲が広がり、 すぐにみぞれ混じりの雨になった。 みぞれは、パチパチと音を立てて窓ガラスにあたり砕け落ちてゆく。 シンジがユミに聞いた。 「黒木さんと、何を話してたんだよ」 「まず、スケジュールを早めてレコーディングする」 「それは聞いたよ」 「黒木さん詳しくは話さなかったけど、サニーミュージックが思ったほど乗り気じゃないみたい」 「そうだよな。だいたい初めからこんなところに押し込んでさあ。 オレおかしいと思ってたんだよ

        小説のつづき Part 2 6b

          小説のつづき Part 2 3

          黒木が向かう河口湖の別荘は、サニーミュージックの創業メンバーが、銀行筋の保養所が売りに出ているのを知って、会社に買い取らせたものだ。 時間をかけて、スタジオ機能を持たせるように改造され、音が良いと一時は盛んに使われていた。しかし今、コンピュータに打ち込んだ音楽データをメールでやりとりして仕上げるような時代になってミュージシャンが一同に集まることも激減し、黒木のプロジェクトが終われば売りに出されることが決まっていた。 車を止めてドアを開けると、一気に冷たい空気が流れ込んだ。

          小説のつづき Part 2 3

          小説のつづき Part 2 2

          ユミがオーディションを受けたサニーミュージックは、かつて音楽業界の挑戦者だった。 日本で最後のエレクトロニクスメーカーとアメリカのメジャーレーベルが手を結んで日本の音楽シーンに満を持して登場した。 発売するレコードは音楽業界を席巻し、やがてCD開発メーカーの優位を活かし絶頂へと登り詰める。 しかし今、その面影はどこにもない。 音楽に造詣の深かった社長が退任してからは、ますますそのシェアーを落としてゆく。今では、優秀なスタッフはゲーム部門へと移り、会社も国内音楽市場への興味を

          小説のつづき Part 2 2

          小説のつづき Part2 1

          ユミは、曇り空に鈍く光る河口湖の湖面を見つめていた。 すごく寒くて冷たい風に涙が出そうだ。 やっぱり、来なければよかったんだろうか? 神戸にいれば、彼とも会っていられたのに。 急に懐かしい思いがよぎる。 部屋を飛び出すとき携帯を持って出ればよかった。 だけど、今はまだ電話できない。 アマチュアなシンジとカズヤを短期間でプロに育てていくのはとても荷が重い。 二人ともプロデューサーの黒木が選んだだけあって凄くいいものを持っている。 我の強いシンジは特に才気に溢れている。 で

          小説のつづき Part2 1

          小説のつづき Part2 7

          朝からピアノを調律する音が響いている。 もう随分時間が経ったが一向に終わる気配がない。 ユミは冷たく晴れ渡った光の中で、濃い目のコーヒーを煎れる。 金色の細かな泡がたくさん立つと少し幸せな気分になる。 そして、部屋中にモカの甘い香りが広がる。 いつもの倍の時間をかけてデキャンタは一杯になった。 ユミは調律の音を聴くたびに子供の頃を思い出す。 毎年、春になると調律師のおじさんが朝からやってきた。 そして、調律が終わるまでの時間はとても長く落ち着かなかった。 両親と調律のおじ

          小説のつづき Part2 7

          小説のつづき 15

          翌日、会社を終われたのは7時を少し回っていた。特急に乗っても三ノ宮には8 時頃になりそうだった。 携帯で連絡を取り合っていつも待ち合わせに使う喫茶店で落ち合う事にした。 「遅くなってすまない」 「ううん、いいの、今日は夕方までレッスンしてたから大丈夫よ」 「お腹は、空いてないのかい?」 「空いてるはずだけど、緊張してるから、よく判らない。コーヒーだけでいい」 「わかった」 彼女は、僕に話を促すように視線を投げかけた。 「昨日、一晩考えたよ」 「えっ、眠ってないの?」 「

          小説のつづき 15

          小説のつづき 14

          「そんなもの、止めろよ!東京なんか行く必要ないよ!彼等がメジャーデビューし た瞬間、ハイご苦労様でしたって言う契約だろう。デビューまでの全国ドサまわ りで、しんどい所だけの仕事じゃないか。いくらSミュージックって言ってもど うせギャラだって安いんだろう。今の落ち着いた生活の方が絶対いいじゃない か。どうしてそんな話持ち出すんだ」 「XX君、お願い、そんな風に言わないで。私だって悩んでるのよ。でも、このツ アーに参加してプロデュサーに認められれば、レコーディングもメジャーデビ

          小説のつづき 14

          小説のつづき 13

          旅行から帰って一週間後、僕達は約束通り、大阪で会う事にした。ユミからは、 電話で落ち着いて話ができるところがいいからと場所のリクエストがあったそ こは、南にある電鉄系のホテルのスカイラウンジだった。 ロビーに7時までには行けると僕は伝えた。 彼女の旅行の時とは打って変わった、少し沈んだ電話の声が気にかかった。 僕は、上手く仕事の切りを付けてホテルへ6時半頃についた。ホテルの外はター ミナルに出入りする人や、ビラを配る人、待ち合わせをする人たちで一杯で、1 2月に入って更に混

          小説のつづき 13

          小説のつづき 12

          駐車場に車をとめて、旅館の玄関をくぐると、年輩の中居さんが、えらく丁重に 僕達を迎えてくれた。 ちょっと暗く狭い玄関は、土間のように黒い土の上に御影石が敷かれ、上がり框 も磨きこまれて黒光りしていた。 部屋に案内されるまでの廊下からは、美しい中庭が見渡せた。 中居さんが、ユミを、奥様、奥様と呼ぶのを、僕がおかしそうに眺めると、彼女 は、少しはにかみながら、目だけ僕に怒ってみせた。 部屋には、掘りごたつが仕立てられ、茶菓子とみかんが置かれていた。 僕達が座ると仲居さんは、あら

          小説のつづき 12

          小説のつづき 11

           僕の携帯電話に珍しくユミから電話が入った。ちょうど、会社からの帰り道。彼 女は、その時間を選んでかけて来たようだ。 「こんばんわ、今電話いい?」 「ああ、ちょうど帰り道、車を運転中だけどいいよ」 「来週とか、忙しいの?」 「いや、まだそれほどでもない。」 「じゃあ、どこか、出かけない?大阪とか神戸とかを離れて温泉とかはどう?」 「いいねえ」 「XX君、会社休めそう?行くなら平日の方がいいでしょう」 「ああ、そうだね、また出張した事にするかな、一々面倒臭いけど」 「まあ

          小説のつづき 11

          ロールフィルム その2

          先日、ロールフィルム コダックTRY-Xを現像したが、まだ印画紙プリントは出来ていない。イルフォードのバライタで重厚な仕上げにしたいんだけど。 暑くて気合いがでない 笑  で、スキャナで読み込んでみた。スキャナはエプソンのGT-X980 ルーペでネガを見ても思ったのだが最近TRY-Xの画像ていうか粒子ていうかが綺麗になったような気がする。 アサヒカメラの廃刊になる前の号 フィルム特集で様々なフィルムを現像プリントしてカメラマンの赤城さんだったかが、TRY-Xってこんなに粒

          ロールフィルム その2

          小説のつづき 10

          二人で泊まろうと僕が決めた日は、日曜日だった。レイトチェックアウトを決め 込んで会社には月曜日の休暇届も出しておいた。彼女は、どうしても外せない結 婚式の仕事があるから会えるのは夕方近くになると言っていた。 僕は、3時頃Oホテルにチェックインすると、冷蔵庫からウイスキーを取り出し て水割りをつくった。 彼女が来る前にゆっくりと酔っておきたかった。 ベッドに腰掛けて、窓の外に拡がる海をみながら、少しづつ水割りを飲んだ。部 屋は、セミダブルのベッドが二つ、丸テーブルと椅子が二脚、

          小説のつづき 10

          小説のつづき 9

          「かまわないさ、君と二人だけでもう一度始められたらって神戸の家に行った時 から思ったんだよ。やっぱり君がいい」 「XX君ね、よく考えて。私と別れて、今の奥さんと結婚したんでしょ。私より奥 さんの方が良かったんでしょう!又、悲しい結末だけはいやよ。せっかく巡り合 えたんだから、今のままじゃ駄目なの?」 「僕は、もっと君を感じていたいんだ。話すだけじゃなくて、抱きしめたり、体 を重ねたり、五感全部で君をつかまえたい」 「じゃあ奥さんや子供達はどうするの。そのままで私とまた始めるの

          小説のつづき 9