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【読書】2023年11-12月に読んだ本

子らの成長に伴い、なんとなく本棚部屋として曖昧に運用していた部屋などを整理し、子供部屋を2部屋作りました。本棚スペースは削減。いよいよ電子書籍を考えねばなりません。新書や文庫は電子書籍のほうがいいかもしれませんね。結構な頻度でポイントセールやってますし。
昨年末に読んでいた3冊を紹介します。


松沢裕作『生きづらい明治社会 ─不安と競争の時代─』(岩波ジュニア新書)

p69-71には、今日の日本における苦労の源流のひとつが示されています。金を持たない信用度の低い明治政府は高い税金をかけられなかった。だから富の再分配機能を十分に持てなかった。したがって人々には「ひたすら自分でがんばる」しか選択肢が残っていなかった…。

ここには実は飛躍があります。クーデターで発足した国家は世界中に山ほどあるでしょうし、建国時点で金がなく信用がなく再分配機能をもたない国は多数あったはずです。どんな国でも自動的に「ひたすら自分でがんばる」に繋がってしまうわけではない。

本書ではこのリンクとして、江戸時代後半に広まった「通俗道徳」を置いています(p73)。通俗道徳は自助努力・自己責任を是とする思想です。
その通俗道徳が明治20~30年以降にどのような影響をもたらしたのかについては、『修養の日本近代(大澤絢子)』もご参照ください。


佐藤俊樹『社会学の新地平 ─ウェーバーからルーマンへ』(岩波新書)

この本はすごいですよ。副題には二人の社会学者の名前が冠せられていますが、全4章278ページのうち、3章分、実に7割弱(191ページ分)がウェーバーのプロ倫の説明に充てられています。ルーマンが前面で説明されるのは240ページ前後の10ページくらい。

そのような内容の本に『社会学の新地平』という大げさな題を与えた著者や発行者側の事情を考えてしまいました。誰にとっての新地平なのか。それは、カビの生えた読み方をしてきた市井の頑迷な読者にとっての新地平なのです。

著者は、プロ倫を単体で読んでもよく分からない、と繰り返し説きます(例えばp123)。プロ倫以外のテクスト、すなわち当時の時代背景、親族の事業状況、前後の著作、ウェーバーの社会人人生などを総合して読むよう促しています。
また、日本で主流であった読み方─マルクス主義と強引に接続した読み方─が端的に誤りであることを何度も指摘します(例えばp116)。

このようなことは、学会や学術論文や論争に日常的に触れている研究者にとっては当然のことなのかもしれませんが、特定の信条を本から拾うことを目的に読書するような私たち人文書籍ファンにとっては、間違いなく新地平に映るでしょう。p257では優しい書き振りではありますが、本を読めてない私たちへのお小言をいただきました。

だからこそ、抽象的な概念や術語をただ要約して整理するのではなく、できるだけ著者と同じ種類のデータも見ながら、著者が何を考えようとしていたのかを考える。そうすることで初めて、著者が何をとらえようとしていたのか、何を言いたかったのかも見えてくる。ウェーバーでもルーマンでもそれは変わらない。

p257

はい。でも、ルーマンを読むためにルーマンが読んだのと同じ本を読むのは、人生が何回あっても足りない苦行のように思います。言うは易しですねえ。


岡田幸彦、原辰徳『サービスサイエンス』(放送大学教材)

放送大学の教科書には良い本がたくさんありますが、本書も素晴らしい御本でした。

果て無きOJTの中で「後工程はお客様」と教えられてきた私たち国産製造業間接部門ホワイトカラーにとっては、p43-44に示されたShostack型ブループリントは、オペメカを記述するための統一理論のように映るはずです。これにもとづいて早くあの業務のSOPを作らなくては…!とワクワクしてしまいましたね(するな

本書で扱っているのは、職場の業務品質に設計の概念を取り込む方法の歴史です。サービス業だけを対象としたものではなく、製造業、士業、官公庁、アジャイル大好きテック系企業、個人事業主まで─風俗など性的サービス業も加えられるかもしれません─、どんな方でも本書から多数の示唆が得られるでしょう。

また、いわゆる家族サービスという点では、旅行におけるユーザ体験を例に”楽しい体験”の組み立てを試みた第12章「サービスシステムの価値共創のメカニズム」(p185~199)が勉強になりました。


電子書籍も便利でいいのですが、たまに大型書店に行って偶然の出会いに任せるというのも楽しいんですよね。上記の『サービスサイエンス』はまさにその一つでした。koboかkindle用にポチる本を探すために書店の店内をぐるぐる歩くのは、ちょっと寂しいものです。

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