見出し画像

正十二面体スピーカーを3Dプリンターで作る (1)

YouTubeで私がよく見ているチャンネルには、COLORS、NPR Tiny Desk Concert、ARTE Concert、hr-Bigband–Frankfurt Radio Big Band、1theK (원더케이)などがありますが、神戸在住のシンガーソングライターTsudio Studioさんの『微風ゾーン』も欠かさず見ています。あのゆるりとした雰囲気が大変よい。

家族4人で微風ゾーンを見ていて、妻が「あのスピーカーいいなあ」とつぶやきました。自宅兼スタジオにつるされている正十二面体スピーカーです。よし、ならば作ろう。


あの正十二面体スピーカー

既製品、自作問わず、既に多くの作例がある多面体スピーカーは、しばしば「無指向性」スピーカーと呼ばれます。無指向性とはどのような状況のことを指すのでしょうか。

B. Rafaely(2009)は、無指向性ではなく”全指向性(omni-directionality)”の定義を以下のように与えています。

入射音の方向によって変化しない,あるいは方向による変化が可能な限り小さくなるように設計された応答
“A response that does not vary with the direction of the incident sound, or whose variation with direction is designed to be as small as possible”.
B. Rafaely, "Spherical loudspeaker array for local active control of sound"
J. Acoust. Soc. Am. (2009)

いろいろと文献を見てみると、近年の多面体スピーカーに求められているのは可聴領域における全指向性ではないようです。むしろ逆で、超狭い音場を実現するために利用されているようでした。

たとえば以下の文献(Arnelaら, 2018)では、特定の空間にのみ可聴領域の音場を発生させる超指向性スピーカー(パラメトリックスピーカー)のために、搬送波としての超音波を全方向に出力する全指向性スピーカーをモデル化し、作製し、解析しています。狭小音場(可聴領域)のために全指向性スピーカー(超音波)用いる、ということですね。このようなパラメトリックスピーカーのキットは秋月電子から販売されているようです。

このあたりのパラメトリックスピーカーの利用や特性については、中島ら(NTT docomo テクニカルジャーナル)が分かりやすかったです。

https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol14_1/vol14_1_025jp.pdf


何のために作るのか

正十二面体スピーカーの作例の振幅f特はあまり見かけませんが、アレイスピーカーの一種ですから特定の中高音域でlobeが発生するように予想します。不勉強なので”広い音場”というもののメリットをよく知らないし、そもそも本当に広いのかも分からない。

正十二面体スピーカーで何が達成できるのか、どのような困難があるのか、既存の設計指針にはどのようなものがあるのか、ほとんど分かりません。こういう事前情報を作るところから始めなければならないようです。

すると、それなりの回数の試行錯誤を求められそうです。直方体の箱に比べて多面体は作製の手間も多そうですから、既存の製作方法では早々に戦意喪失するかもしれません。何か新しいツールが必要です。

それに、正十二面体スピーカーの設置方法の第一候補は「吊るす」です。従来のように、厚く重い木材を貼り合わせて作っていては吊るすことは難しいでしょう。木材以外で作らねばならない

FRPや金属板でも使えば薄くて強度のある筐体を作製できるのかもしれませんが、今度は箱鳴りしないように補強を十分に施さないといけない。・・・でも、あの多面体内部の補強なんてどう考えればいいのでしょうか・・・

今回の作製の前提条件は以下のものです。

  1. 何度も作り直すのが簡単であること

  2. 軽い素材で作れること

  3. ただし振動に対する強度対策は十分であること

これらを同時に満たす作製方法を、私は1つしか存じ上げません。

3Dプリンターです。


Anycubic Kobra Go導入

3Dプリンターなら、補強と同時に筐体を作製でき、何度も作り直せます。使用する樹脂はPLA(ポリ乳酸プラスチック)やABSが一般的ですが、市場にはセルロースナノファイバーを錬合したPPのフィラメントも存在します。これなら吊るせるほど軽量で、かつFRPといい勝負ができるかもしれない。

Fusion360で3Dモデルを作製し、Curaでスライスして、Anycubic Kobra Goで印刷する、という作製方法を採用しました。Kobra Goの印刷サイズは高々200mm立方体サイズですが、パーツごとに分割すれば何とかなるのではと想像します。

Fusion360 はまだ勉強中です。まずはThingiverseでPattyChuck氏のモデルを拝借し、Curaでスライスして、15時間かけて印刷しました。


完成して2分後に子供に破壊された

今後は3Dプリンターまわりの学習状況や、多面体スピーカーの論文や作例紹介などを予定しています。どうぞお楽しみに。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?