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その名はカフカ IV

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長編小説『その名はカフカ』収納箱その④です、その③はこちら→https://note.com/dinor1980/m/m036e5e244740
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その名はカフカ Modulace 5

その名はカフカ Modulace 4 2014年10月プラハ  レンカが事務所に来たらすぐに話し合いを始められるようにと、エミルは普段の持ち場である受付ではなく、来客のない時は会議室として使われている応接室で仕事をしながら待つことにした。特別何もなければレニはもうすぐ出勤するんじゃないかな、と思いながら時間を確かめると、午前九時五分前だった。レンカの出勤時刻は常に不規則だ。エミルよりも早く来ていることもあれば、午後になってやっと現れることもある。しかし二人とも何となく相手

その名はカフカ Modulace 17

その名はカフカ Modulace 16 2014年11月マリボル 「あ、また全然話聞いてないね、マーヤ」  そう咎めるように言われて、マーヤは「聞いてはいたけどつまらないのよ、あなたたちの話は」と心の中でつぶやきながら、申し訳なさそうに微笑んだ。  マーヤはマリボルに戻って以来、仕事が終わったら必要最小限の買い物を手早く済ませてまっすぐ家に帰ることを習慣にしていたが、この日は同年代の同僚の二人に誘われて、夕食は外で済ませることにした。スラーフコは新しい職場で夜のシフトも入

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その名はカフカ Modulace 18 2014年11月ドイツ・オーストリア国境  EU圏内の国境において隣り合う国同士が緊迫した関係で軍が目を光らせているなどという状況はほぼ皆無で、真夜中の国境辺りはそこかしこで闇で動く人間がゴソゴソ活動している。だから何を見かけても驚かないし相手にもしないが、その代わり俺のように一人で徘徊している人間の邪魔をする奴もいない。そんなことを考えながら、イリヤは明確な目的地も分からないまま道の両側に背の高い針葉樹がそびえ立つ細い車道を歩いて

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その名はカフカ Modulace 19 2014年11月パッサウ  暖炉に火は入っていなかったが、運転手の男が言ったように、家中には暖房が行き届いており、応接間の中も一晩中暖かかった。暖炉の前のソファで、人が一人座れるくらいの間隔を置いてレンカの隣に座っているヴァレンティンは、イヤホンを耳から外すと 「せっかく面白いところだったのに、どうして切ってしまったんだい?」 と、全く面白いことなどなさそうな表情でレンカに言った。ヴァレンティンに貸していたのは予備の子機のようなもの