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その名はカフカ IV

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長編小説『その名はカフカ』収納箱その④です、その③はこちら→https://note.com/dinor1980/m/m036e5e244740
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2024年4月の記事一覧

その名はカフカ Modulace 16

その名はカフカ Modulace 15 2014年11月エゲル  一つの生命体が自分の傍に座っている、とは先ほどから感じていたが、テンゲルは目を開けることもその生命体に声をかけることもできなかった。いや、そうしようと思えばできたのかもしれないが、まだ暫くこうして横になっていたかった。危険はない。自分の傍に自分の許可なくやって来られる人間は、この世で一人しかいないのだから。そして、もし人間ではない生命体だったとしたら、やはりテンゲルにとって危険なことなどあり得ない。  今回

その名はカフカ Modulace 17

その名はカフカ Modulace 16 2014年11月マリボル 「あ、また全然話聞いてないね、マーヤ」  そう咎めるように言われて、マーヤは「聞いてはいたけどつまらないのよ、あなたたちの話は」と心の中でつぶやきながら、申し訳なさそうに微笑んだ。  マーヤはマリボルに戻って以来、仕事が終わったら必要最小限の買い物を手早く済ませてまっすぐ家に帰ることを習慣にしていたが、この日は同年代の同僚の二人に誘われて、夕食は外で済ませることにした。スラーフコは新しい職場で夜のシフトも入

その名はカフカ Modulace 18

その名はカフカ Modulace 17 2014年11月パッサウ  暖かいところに連れて行ってくれとは言ったけど、まさか本物の暖炉のある部屋に案内されるとはね、と思いながらレンカは暖炉の中で赤く光る炭を見つめていた。ヴァレンティンはレンカが立っていた川辺から少し離れた路肩の駐車スペースに止めてあった車までレンカを連れて来ると「その運転手が目的地は把握している。後で僕も行くよ」と言って姿を消した。レンカが助手席に乗り込むと、車は十分ほど街中を走った後、大きくはないが上品な造

その名はカフカ Modulace 19

その名はカフカ Modulace 18 2014年11月ドイツ・オーストリア国境  EU圏内の国境において隣り合う国同士が緊迫した関係で軍が目を光らせているなどという状況はほぼ皆無で、真夜中の国境辺りはそこかしこで闇で動く人間がゴソゴソ活動している。だから何を見かけても驚かないし相手にもしないが、その代わり俺のように一人で徘徊している人間の邪魔をする奴もいない。そんなことを考えながら、イリヤは明確な目的地も分からないまま道の両側に背の高い針葉樹がそびえ立つ細い車道を歩いて

その名はカフカ Modulace 20

その名はカフカ Modulace 19 2014年11月パッサウ  暖炉に火は入っていなかったが、運転手の男が言ったように、家中には暖房が行き届いており、応接間の中も一晩中暖かかった。暖炉の前のソファで、人が一人座れるくらいの間隔を置いてレンカの隣に座っているヴァレンティンは、イヤホンを耳から外すと 「せっかく面白いところだったのに、どうして切ってしまったんだい?」 と、全く面白いことなどなさそうな表情でレンカに言った。ヴァレンティンに貸していたのは予備の子機のようなもの

その名はカフカ Modulace 21

その名はカフカ Modulace 20 2014年11月リュブリャーナ  ただ待つ、というのは辛いものだな、という台詞を頭の中で何度か繰り返し、スラーフコはハンドル越しにメーターパネルに表示されている時刻を確かめたが、まだマーヤが車を離れて五分くらいしか経っていなかった。  この日のためにマーヤとスラーフコはヴクの同僚の仲介で中古車を手に入れ、リュブリャーナまでやって来た。目的が目的だけに、スラーフコの仕事用の車は使う気にはなれなかったし、レンタカーも足が付きそうだとマー

その名はカフカ Modulace 22

その名はカフカ Modulace 21 2014年12月ブルノ  ハルトマン病院長とレンカの契約更新のための会議は2006年以来、毎年六月の第一日曜日に、会場は病院内の会議室ではなく、病院長の自宅で行われていた。妻に先立たれ、子供たちも独立した後は病院の近くに構えていた邸宅が無駄に大きく感じられて、今は街はずれに以前の邸宅の半分ほどの規模で、庭が敷地の七割を占める家に一人で住んでいる。それでも人の出入りが多い家だが、レンカとの会議の際には庭先に配置している警備員以外は誰も

『その名はカフカ』Modulaceに関するあまり長くない追記

 本記事は先日連載を終了しました『その名はカフカ』の第四部Modulace(転調の意)の解説記事です。  今年二月から約二ヶ月間に渡って連載しました全22話を納めたマガジンはこちらです↓  これまでの解説記事よりは長くならないはず……と思いながら書き始めましたので、連載をお読みくださった方にサラッとお付き合いいただければ幸いです。  本記事で「その名はカフカって、何?」と思われた方はこちらからどうぞ↓ 執筆の速度と投稿頻度 今回も第三部Disonance同様、書き始めて