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南イタリアのド田舎へ転勤 社食の Spaghetti al Pomodoro が・・・

(前号からの続き)

1992年1月のこと。海外出張の経験もないマルドメ(まるでドメスティック)な私が、32歳で東京青山の本社からイタリアのド田舎へ転勤。初めての海外駐在

ランチャーノという人口3万5千人の田舎町に、ホテルはひとつだけ。選択の余地なくチェックイン。

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10階建てのビルの外観はホテルには見えず、長年外壁補修もしていない古ぼけたアパートのよう。
たしかに見かけ通りで、6階まではアパート、7階から上がホテルという棲み分けになっている。
建物の入り口のドアはがたつき、フロントの高木ブーのようなおやじはイタリア語オンリー。フロントまわりやロビーは照明が薄暗く、なんとなくかび臭い。
エレベーターは年代物で、ガタンという大きな揺れとともに動きはじめ、途中で止まってしまわないのが奇跡のようだ。
廊下や部屋の床は大理石。高価なのかもしれないが冷たく突き放されているような感覚。「なぜお前がここにいるのだ」と聞こえてきそう。
自宅を選び入居準備が完了するまでの間、このホテルに滞在し続けるかと思うと気が重い。

ホテルの10階の窓から見えるオレンジ色の屋根の景色は、素敵な異国の街の風景などと感じられず、屋根たちが孤独な自分をあざ笑っているような錯覚。

Lanciano 屋根

なにか夕食を摂らねばと、ホテルを出て近くのピザ屋へ飛び込む。
ほぼ満席のテーブル席にはもちろん全員イタリア人。私が店の扉を開けるなり、全員が振り向き私に注目。「誰だ、見たことないな。中国人か?なんでここに中国人がいるんだ?」と言わんばかりの冷たい視線
ホテルのフロントの高木ブー同様、ピザ屋の店員も英語はまったく通じず。

そういえば3か月前、上司から転勤を言い渡されたときに、「ヨーロッパは英語が通じるから、赴任前にイタリア語のレッスンを受ける必要ないよ」と言われたのを思い出した。騙されたと思った。

到着したその夜から、ノスタルジック。
あー、日本に帰りたい。こんな異国のド田舎で生活するなんて想像できない。
部屋のテレビは衛星放送などもちろん入らず、イタリアの国営放送RAIと民放がいくつか。全く理解不能。

翌日、早速、仕事始め。
日本を代表するインターナショナルでエクセレントカンパニーと評されているわが社の現地法人が、まさかこんなド田舎に、こんなこぶりな建物だとは全くの想定外。ここは、二輪車を年間たったの2万台ほどしか生産していない小規模な生産販売会社。

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これって左遷以外の何物でもない、という絶望感
これまで青山の本社の財務部で働いてた32歳の若者が早くも左遷?

この会社の経理財務部門で私はこれからの数年間を過ごす。
私の周りに座っているイタリア人たちが、イタリア語で会話している。
100%理解できない。
同じ職場の仲間のはずだが、溢れるほどの孤独感

この会社には日本人は私のほかに3人。しかし、それぞれ生産・品質・営業を担当していて、3人とも同じ敷地の中だが、他の建屋に事務所があるので、この建物には管理部門である私一人。日本語を話す相手は誰もいない。

3か月後には、家族が赴任してくる。それまでに住まいを見つけて準備をする必要がある。
早速、総務の担当者Roccoと、私のアパートについて相談。私は、和伊辞書をめくって言いたい単語を見つけて、適当に並べて紙に書く。
そんなメチャクチャなメモでも、主題がアパートだとわかっているからRoccoはどうにか理解してくれる。
しかし、Roccoから質問されてもチンプンカンプン。キーワードを紙に書いてもらって、どうにか理解。

イタリア人とのコミュニケーションは、こうして始まった。

出勤初日に、唯一楽しみを見つけることができたのがせめてもの慰め。

会社の食堂でのランチだ
一食の個人負担が、当時70リラ(約50円、まだユーロが導入されていなかった)で、イタリア料理のフルコースだ
Primo(パスタ類)、Secondo(肉か魚)、そしてFrutta(果物)。
飲みたければ、Vino(ワイン)も無料で飲み放題だ!

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南イタリアのこの地方に、かの有名なDe Ceccoの工場があり、会社の食堂ではこのDe CeccoのSpaghettiを使っている。そして、南イタリアの太陽をいっぱいに浴びたトマトは日本の物とは甘味と香りがケタ違い。

また、南イアリアは魚介類をよく食べる。Spaghetti Vongoleも絶品だ。Biancoはもちろんだが、トマトであえたRossoも味わい深い。

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そして、Secondoのステーキだ。ソースなどはまったく使わない。塩と胡椒だけ。付け合わせもいらない。肉のうまみだけをひたすら楽しむ。これがイタリア式だ。

書き忘れてはいけないのは、Vinoだ。
最近、日本でもよく出回っている Montepulciano d' Abruzzo というワインは、ここAbruzzo州が産地だ。 安くて実に美味しい。庶民の味方。

ステーキといえば、トスカーナ地方の Bistecca alla Fiorentina(フィレンツェの骨付きステーキ)が最高だ。

ボクは、Firenzeで食べるステーキが世界で一番おいしいと思う。アメリカンステーキなど比べ物にならない。

Firenzeへお出かけの際は、ぜひ Ristorante La Loggia でBisteccaを食べてみてください。味も景色も最高です。値段も最高ですが。

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話はそれたが、まずは食事には困らないどころか、満足度は高いことがわかってほっとした。毎日出社する楽しみがひとつでも見つかってよかった。

そして、日が経つにつれ、海外での仕事の辛さに苦しめられることになっていく。

(次号に続く)

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