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あなたの「ビジョン・方針・事業計画」が、組織を混乱させているかも!

海外で仕事をするうえで、異文化を理解すること、海外現地法人のマネジメントについて考えるべきことなどを、記事にして投稿しています。

今回は、日系企業の海外現地法人の社長として赴任した「久保田さん」が直面した問題についてドキュメンタリー風に取り上げてみます。

*********************************************************************************久保田さんは、フランスの販売現地法人の社長として、先月着任したばかり。
久保田さんの前任者の木村前社長からは一週間の引継ぎを受けた。主な特約店の販売状況、主要なローカルスタッフのこれまでの実績や今後の期待度、現地法人としての財務状況などを説明されたが、あまりアタマに残らないまま、一週間が過ぎ去り、木村前社長は帰国していった。当社の海外現地法人の社長の任期は短いことが多く、木村前社長の任期も2年であった。

海外現地法人の責任者を初めて経験することになった久保田さんは、どこから手をつけてよいものやらよくわからぬまま、まずは木村前社長が2年前に打ち出した方針や中期3か年計画に関する書類を手に取り読み込んでみた。

久保田さんには、前社長の方針に賛同できない点がいくつかあった。そこで自分の信じるビジョン・方針・中期計画を策定しようと考えた。まずはローカルスタッフの中心人物である副社長のアンドレと営業部長のクリストフを呼んで、前社長の方針や中期計画がどこまで浸透し、計画が進んでいるのかについてヒアリングを行った。

ヒアリングの結果、明らかになったことは、2年前の前社長の計画はほとんど進んでいないことであった
彼らの話によると、
「木村前社長のさらに前の久我社長が4年前に事業方針と中期3か年計画を打ち出した。これに則って、詳細な事業計画を展開し、関係者に説明し意思統一を図り、さらに特約店にも順次説明会を開催し、システムの刷新などもすすめてきた。すべての準備が整うまでに約2年かかった。これから実行に移して成果を刈り取っていこうというときに、次の木村前社長が赴任してきた。そして彼から方向性の異なる方針と中期計画が示されてしまった。せっかく2年もかけて準備した久我前々社長の計画に急ブレーキをかけて方向転換することは、社内のスタッフや特約店に対してはばかれるし、システム投資などを無駄にしたくなかった。
これまでの人事異動の実態からすると、木村前社長もおそらく2年で交替だろう。当面の間はこれまで準備してきた久我前々社長の計画を継続して進めていこうと。」

幸い、木村前社長は自分の打ち出した計画の進捗状況を定期的にチェックすることもなかったので、二人は2年間、日々の事業運営の報告をするだけでよかった。

久保田さんは、前社長が打ち出した方針や事業計画が、ローカルスタッフたちに「無視」され続けたことに愕然とした。一方で、会社トップの打ち出した方針や事業計画を、各部門、各スタッフ、さらには特約店など外部の関係先まで含めた広い裾野を巻き込んで展開するには、相応の時間が必要であることをあらためて実感したのであった。
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会社のトップ(とくに日本本社から少し目の届きにくく裁量権の広い海外現地法人のトップ)を務めるひとにありがちなことは、「とりあえず前任者否定」という姿勢だ。

あらたに着任した新社長は、前任者の方針や事業計画を否定して、新たな方針や方向付けを打ち出す。これによって、自らの存在感を高めようとする。前任者の方針を継承するとどうしても自分が「小物」に見られてしまうという焦燥感。意識するしないに関わらずその傾向は見て取れる。

これが、社長のマネジメントが現場から乖離(かいり)していく第一歩だと言える。ひとたび、溝ができてしまうと、広がることはあっても縮めることは容易ではない。なぜなら、社長のプライドがジャマをするからである。

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さて、アンドレとクリストフから貴重な事実と木村前社長への批判ともとれる正直な意見を聴くことができた久保田新社長は、どのような行動に出るのか。

物事を客観的に見て、冷静に判断することが得意で、自己の顕示よりも、現地法人の発展やローカルスタッフの活躍に焦点を当てようと考えた久保田新社長。

彼は、以下の3点を自分なりに整理し、今後の方針や事業計画をどのように路線変更すべきか考えることにした

① 前々社長の方針と計画が目指すところを自分なりに解釈し、現時点でその計画がどこまで達成できているのか、そしてこの先の見通しを確認する。
② この計画を策定した4年前から現在までの事業環境の変化と今後の変化の予測。
③ 現在、日本本社が我が現地法人に何をどの程度期待しているのか。

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短い任期で交替していく組織の責任者は、自分の在任期間でやり遂げられることは限られていると理解すべきでしょう。
後任やさらにその次の代も含めた長いスパンで方針や事業計画を立てることで、現地のスタッフと一体となって現地法人を発展に導くことができるのだろうと思います。環境変化に対応するには、必要に応じて計画のローリングを行えばよいのだろうと思います。


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