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出張先で有給休暇くっつけて遊んでもいいの?

日本の会社員のみなさん、
出張先で仕事を終えた後、すぐには出張から戻らず、何日か有給休暇を取って、その地で観光したりリゾートしたりしたことありますか?

残念ながら私は38年間の会社員人生で一度もありませんでした。

というか、そういう経験をお持ちの方は、ほとんどいないのではないでしょうか?日本では。

日本の会社は、夏のお盆の時期と年末年始に、一週間とか10日程度の一斉休暇がありますよね。
その一斉休暇にくっつけて有給を取得したことありますか?

残念ながら私は38年間の会社員人生で一度もありませんでした。

会社の就業規則で禁止事項とされていたわけでもないのに、です。
そして私だけではなく、ほとんどの従業員が出張や一斉休暇に有休をくっつけたりしないのです。

日本は、「みんなが働いている時は自分も働くべき。みんなが休んでいるときに自分も休む」精神に満ち溢れている。
典型的な集団主義ですよね。

日本の会社で働くほとんどのサラリーマンの方たちは、結果として、2週間とか一か月とかの長期休暇を一度も経験することなく定年を迎えているのではないでしょうか。

滅私奉公? 働くために生きている? 自由より他人の眼が大事?

私は22年間、4か国で、日系の海外子会社に駐在していました。定年前の最後の6年間はドイツとイギリスの子会社の社長を務めていました。

そこで、とてもとても貴重な経験をしました。
まさに日本と海外(欧米)の文化の違いの典型とも言える経験です。

イギリスでの経験です。ローカルスタッフのトップ(つまり私に次ぐNo.2のポジション)で、すべてのローカルスタッフを掌握し、彼らに指示する立場のポジションに就いているイギリス人の話です。
彼の名前はロバート。
ロバートは、頭脳明晰、何事にも論理的に思考し、説明できる。
仕事の進めも早く、企画力にも長けている。
資料の作成も上手で、プレゼンもわかりやすい。
部下や周囲から、そして日本人たちからの信頼も厚く、つまりエリート

私の会社は世界各国に300を超える海外子会社があり、数万人のローカルスタッフが働いている。
その世界中のスタッフのなかから、優秀で将来は高いポジションで活躍が期待される人材を日本へ集めて、年に一度、集合研修を行っている。
その年は、ロバートが欧州の数千人のなかから研修メンバーに選ばれたのでした。欧州からは、たった2人だけの選抜でした。
彼は選ばれたことと、初めての日本での一週間の出張研修の貴重な機会を得たことで、大喜び。

そんな彼が、日本へ出かける前に私に有休の申請書を提出したのでした。
日本での一週間の集合研修が終わった後、そのまま日本に残り2週間の有休を取りたいと

彼曰く、「大丈夫、部下からの報告や部下への指示はすべてメールと電話で行うので、何も支障は無い。社長(私)にも何も負担も迷惑もかけない。」
「会社の規定にも、出張先で有休を取ってはいけないとは書いていない。」

たしかに「出張先で有休を取ってはいけない」という就業規則はないが、先にも書いたとおり、わが社の日本人たちだれもが心得ている暗黙のルールに背くロバートの有休申請だ。

もしその有休を許可して、日本で観光をしているロバートが会社の役員と街中でばったり鉢合わせでもしたら・・・。
すぐにその役員は私に電話をしてきて、「お前のとこのロバートが日本出張中にふらふら遊び歩いていたぞ。お前はそんな甘いマネジメントしているのか!」と、大目玉を喰らいかねない。いい悪いは別にして、これが日本企業のありえそうな姿ではないだろうか。

申請書を手渡されたとき、おもわず私の口から出た言葉は、
「ロバート、そんな有休が許されるかどうか、常識で考えればわかるだろう!

ところが、彼はきょとんとして、私が何を言っているのか理解できない様子。

私はすぐに状況が飲み込めた。つまり、常識が違うのだ。

欧米の社会(会社)では、出張先で有休を取ることはまったく後ろめたいことでもないし、わがままなことでもない。自分の仕事に支障がなければ堂々と取るのが常識なのだ。他人の眼を気にすることもない

この常識の違いをどう埋めればよいのか。つまり、彼の有休をどのような理由で却下すれば、彼は納得するのか。

欧米人は納得できない不合理な指示にはとことん反発する。とくに自分の権利を侵害されるような指示や命令には強硬に抵抗する。

私は、いったん返事を保留して、却下する理由を考えた。
とにかく、許可する選択肢は消して、却下する理由を考え続けた。

就業規則には書いていなくても、日本の常識からすると出張先で有休なんてありえないのだ、と説明しても、彼の期待(初めての日本での観光)が大きいだけに、納得しないだろう。

理由をはっきり伝えずに「とにかくダメだ」では、私に対する不信感をずっと引きずるだろう。信頼関係にヒビが入るのは避けたい。

考えて考えて、最終的にたどり着いた答えは、
ロバート、もし君が日本で有休を取って、観光している最中に事故に遭遇して異国の地で死んでしまったとしたら、あなたの妻や両親は悲しんだ後、どういう行動に出るだろうか?可能性は低いと思うが、有休を認めた会社に賠償責任を求めて訴訟を起こすということがありうると思わないか?だって、会社が飛行機代を負担して日本へ送り出している最中の出来事だからね。会社としてはそういうことまで想定しなければならない。そうなった場合には、裁判には日本の親会社も巻き込むことになるだろう。会社はそういうリスクをはらんだ許可を出すわけにはいかないよ。
もし、日本で休暇を過ごしたいのなら、研修が終わった後、いったんイギリスにもどって、翌日から有休を取って自費で日本へ行くなら私は有休を許可する」

彼は、不満を隠せない様子ではあったが、納得せざるを得ないと判断したのだろう。「わかりました。有休申請は取りやめます。」

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日本では、学校での登校・下校中、会社での通勤中の事故に対して、学校や会社の責任が問われるが、欧米では100%個人の責任であって学校や会社の管理外。

海外で飛行機事故が発生した場合、日本の会社は出張か休暇にかかかわらず自社の社員が巻き込まれていないかすぐに調べるが、欧米の会社では休暇の場合には関知しない。

上のふたつは、会社が掌握すべきと考えている範囲が異なる事例だ。

たかが、有休を断るだけのことなのだが、ここまで飛躍した理由を持ち出して却下する説明をしなければならないことに、企業文化の違いの大きさをあらためて実感した出来事でした。




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