上司の残業依頼を平気で拒否する部下たち "My boss is not my father"
さて、今日の夜は友達との食事の約束。早めに退社しよっと。
机の上を片付け始めたその時、ツカツカとボク(吉田)の机に近づいてくる足音。いやな予感。顔を上げるとやっぱり、上司の向井。
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向井課長:あれ? 吉田クン。今日はもう引き上げるの? 早いね。
実はちょっと今から手伝ってほしい仕事があるんだ。悪いけど、残業頼む。
ボク:え? えーっと、向井課長、今日はちょっと約束があるので、そろそろ失礼しようかと・・・・。
向井:なんだよ(ムカっ)、デートか?
ボク:いえ、そういう約束じゃないんですけど・・・。
向井:友達とアソビの約束? 悪いけどそれ、今度にしてくれないか。
大事な仕事で部長からの急な指示なんだ。アメリカで品質問題が出てしまって、その対策を考えるのに、キミの知恵とアイデアが必要なんだ。このテの問題は加納クンが担当なんだけど、キミもわかっていると思うけど、彼では手際よく問題解析して対策できるとは思えんのだよ。明日の朝、緊急対策案を部長に提案しなきゃならないんだよ。キミ、状況わかるよね?
吉田:は、はい。わかります。そういう状況ならば、しょうがないですね(汗)。
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結局、友達との約束をドタキャンして残業することになった吉田クン。
このような「上司からの浪花節的残業依頼」。いまでも日本のあちこちの会社で起こっているのでしょうか。
かくいう私も20代のころ、上司からこういう指示を受けたことがあります。
「明日の朝、6時に会社に来てくれないか。どうしても人手が必要なんだ。でも組合に見つかるとまずいから、タイムカード打たないでこっそりと出社してくれよ。」
いまどきの会社では、タイムカードなんて昭和的なシステムは姿を消しているかもしれませんが(笑)。
納得いかない残業指示でも断れない日本のカイシャ文化。これは元をたどると、「集団主義」に行きつくのでしょう。
「終身雇用」を前提とした、結びつきの強い集団に所属するメンバーは、「無条件の忠誠」を誓う限り、生涯にわたって集団から保護される。
無条件の忠誠を誓うということは、納得のいかない命令や指示でも拒否できないということ。無茶な転勤要請なんかも無条件の忠誠のひとつでしょうか。(ちょっと極端な表現ではありますが)
最近は、日本独特の終身雇用制度も崩れつつありますし、「集団主義」に背を向けて、起業の道を選ぶ若者も増えてきてはいるようですが、それでもまだ企業に就職して「無条件の忠誠」を迫られている人がたくさんいるのでしょう。
ところが欧米社会では、まったく景色が異なります。
"My boss is not my father".という言葉があります。
つまり、「上司というだけで尊敬する対象となるわけではない。父親と違って上司の指示は絶対的なものではない」ということです。
はっきりしていてわかりやすいですね~。
社員は全員、入社時に会社と契約を結びます。その契約書の中には「Job Description」が含まれていて、自分の業務範囲が明確に規定されています。
上司の指示がこの「Job Description」の範囲内であれば受け入れますが、そうでなければ拒否します。
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Thomas (上司): Hi, Elena, 悪いけど、今日残業してくれないかな。キミのグループのEvaが今日中に終わらせるべき資料が、まだ完成していないんだよ。同じグループなんだから手伝ってあげてほしいんだ。
Elena(部下): Thomas, それは私の仕事ではありません。わたしには関係ないことです。
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Elenaは、この日の夜は友達と食事する約束があったのですが、約束があることを理由に残業を断ったのではありません。なので、そのことをThomasに話したりはしません。プライベートのことは仕事とは切り離します。自分の仕事ではないから断ったのです。
結局、Thomasは急遽、Evaの資料作りを自分で手伝うことになり、Evaの資料作りが終わった後、自分自身のしごとに取り組み、オフィスを後にしたのは、夜中の12時を回っていました。
欧米では、日本のような「人間関係重視の浪花節タテ社会」は存在しません。「個を尊重する、論理性重視の契約社会」です。
「個人主義」がその根底に流れています。
わたしも22年間の海外駐在の間、何度か痛い目にあいました。
彼らは、「Job Description」の範囲内の仕事であっても、今日の今日になってから残業を指示されることをとても嫌います。なぜなら、定時後のプライベートの時間を仕事によって奪われることは人生の優先順位に背くと考えるのでしょう。
もしあなたが、欧米で働くことになり部下を持つことになったあかつきには、「浪花節が通用しない契約社会」であることを念頭に置いておくとよいと思います。
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