見出し画像

ドイツで経験した人事考課の大失敗

サラリーマンのみなさん、毎年のことですが、人事考課の時期になると、気が重たくなるのではないでしょうか。

中学生や高校生のときと同じように、働き始めてからも一年間の自分の成績表が会社によって作成され、それを受け取らなければならないのですから。

その成績表の結果次第で、来年の給料やボーナスがほぼ決まってしまう上、昇格などにも影響するわけですからね。

みなさんの会社ではどのような観点で人事考課が行われているでしょうか。

人事考課は大きく、「能力評価」「業績評価」「情意評価」の3つに分かれます。

1.「能力評価」とは、仕事経験や教育訓練を通して「ストック」された職務遂行能力が評価の対象となります。
2.「業績評価」は、業務によって実際に生み出された(顕在化した)成果を対象にしています。
3.「情意評価」は、仕事に対する姿勢や勤務態度などを対象にしています。

一般的に日本では、この3つの評価軸を一定の比率で組み合わせて評価している会社が多いと思います。

日本の慣行として、新卒一括採用し、終身雇用を前提として、さまざまな職種を経験させて職務遂行能力の向上を促す、というのが社会的にマジョリティではないかと思います。

したがって、職務能力の向上度合いを評価する「能力評価」が重視されがちです。経験を積んでさまざまな職務に通用するスキル・能力を高めていくことが「高い評価」を勝ち取ることにつながるわけです。そして、いかに前向きに仕事に取り組んでいるかなどの姿勢を評価する「情意評価」も必ずと言ってよいほど、人事考課に組み込まれているはずです。つまり、将来の可能性を秘めているかを重視しているのです。

「情意評価」が重視されがちな日本では、必然的に「報・連・相」に重きが置かれることになります。事細かに報告や相談してくる部下は、上司にとっては「あー、アイツは情熱があって前向きだな」と認知されやすくなるからです。
これが高じて、「ゴマスリ」やら「おべっか」もはびこってきやすいわけです。

一方、その年度にどのような実績や成果を上げたかについての評価軸である「実績評価」については、ルール上は一定の比率で加味されるかもしれませんが、実質的には過小評価されがちです。

こういう日本の人事考課の制度・慣習が世界に通用すると思ったら大間違いです。

欧米では、人事考課は「実績評価」のみといっても過言ではありません。この一年間にどのような成果を出したか、だけです。
将来の可能性よりも足元の実績重視です。今年の会社の業績にどれだけ貢献できたか、です。

「情意評価」などもありません。したがって「報・連・相」という習慣もありません。欧米では、事細かに上司に相談しているようでは上司から信頼されません。「Working well independently」という言葉があって、要は自分一人で最後まで仕事をやり遂げられることが大事なのです。いちいち上司に相談しているようでは能力不足とみられてしまうのです。

もし、あなたが欧米の会社で部下を持つマネジャーの立場で赴任したとして、日本と同じように部下の評価をしようとしてしまったら、現地スタッフと全く議論がかみ合わなくなってしまいます。

なぜなら、彼らは「実績評価」を基準に評価をするのが当然であって、もしあなたが「情意評価」軸で評価をしても全く理解されないからです。

*********************************************************************************

私は22年間にわたって、日系自動車会社の海外現地法人に駐在していました。駐在国は4か国に及びましたが、最後のドイツでは現地法人の社長を務めていました。
そこで人事考課について、大失敗しました

私の直属のドイツ人部下の人事考課です。
彼はドイツ人従業員の最上位にあたる立場で、一年間の実績は申し分ない結果を残していました。

が、私に対する報告タイミングや接し方に関しては、私として納得がいくものではなかったのです。日ごろから注意はしていたつもりでしたが、なかなか改善していませんでした。

年度末の人事考課の際の面談時には、その点を加味してボーナスを予定額から1割ほど減額する旨を口頭で伝えました。

日本では、こういう場面では、たいていの従業員は上司の指摘やボーナス減額判断に対して、「ご指摘ありがとうございます。今後さらに精進するよう頑張ります」と、ココロのなかはどうあれ、表面上は素直に聞き入れるものです。

ところがドイツ人の彼は、顔を真っ赤にして私にこう言いました。
「I cannot agree with you.!! あなたの言っていることは受け入れられない。私は期待以上の実績を上げた。勤務態度が多少あなたの期待に添わないところがあったとしても、それは会社の評価制度の対象になっていない。冗談じゃない。いい加減にしてくれ!」と吐き捨てて、部屋から出て行ってしまいました。

さすがに私は戸惑ってしまい、総務部門に相談したところ、「彼はあなたを提訴する可能性がある」と脅かされて、結局、私は彼に対する評価を修正して、ボーナスは満額支払うという判断をせざるをえなくなりました。

社長としては失格ともいえるほどの大醜態をさらしてしまったのです。

*********************************************************************************

海外での「実績評価」に関連して、もうひとつ付け加えます。

MBO ( Management By Objectives) という 言葉があります。
日本語にすると、目標管理制度です。
従業員別に毎年その年度の目標を設定し、年度末にその達成度を評価する人事評価制度です。

これは単なる人事評価のための道具ではなく、上司と部下とのコミュニケーションツールであり、組織の目標達成や人材育成に活用すべきマネジメントツールでもあるのです。

海外でも、人事考課のタイミングで部下と十分なコミュニケーションをとることは、日本と同様に大切なことです。

価値観や文化の異なる現地のスタッフと十分なコミュニケーションをとることは、日本におけるそれと比べると数倍のエネルギーが必要ですが、そういうプロセスを経て、外国人(日本人)であるあなたが部下から信頼され、同じ目標に向かってスクラムを組むことができるのです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?