和製MMTで国民の底上げは出来るのか?

MMT、現代貨幣論が財政を語る上で頻繁に登場するようになって久しい。

時に誤解され、時に悪用されるMMT理論を私なりに咀嚼、今後の財政政策について、私見を述べたいと思う。

まずは和製MMTの中心人物と言える中野剛志氏の対談記事をベースに和製MMTとは何ぞやという話から始めたいと思う。

https://diamond.jp/articles/-/230685

簡単に申し上げるとMMTとは、中央銀行で自国通貨を発行する国家に適応されるナショナリズム財政学である。(私の造語)

政府が国債を発行し、市中銀行を経由して、日本円を発行する日本銀行に国債が渡る。そして、日銀に政府は金利を払い、満期になったら償還しないといけないのだが、日銀は生み出した利益は国庫に振り戻される。つまり、いくら借金しても日銀が引き受ける限り国はいくらでも借金が出来る。とこういう理屈だ。

経済は物価に大きな影響を受ける。

インフレ時は黙っていても民間が金を使う。

民間は手元に現金を置いておくより投資し、物価上昇を上回る売上増を達成しようとする、個人は価格が上る前に欲しい物、必要な物を購入するから民間の業績は上がり、時間差はあれど個人の所得も増える。

デフレ時はその逆だ。

だから、MMTでは政府はそのトレンドに逆行する大馬鹿者になってジャブジャブ金を使って、無理やり需要を作り出し、デフレを脱却させ、インフレに持っていく必要があるのだ。と、かなり端折ったがMMTは概ねこういう趣旨。

ではここで、最終的な政策決定には影響がほぼないのだが、各論で一番納得がいかない部分、MMTの言う"信用創造"という言葉についてだ。

世の中一般で言う信用創造とは、銀行の機能を指し、その機能とは銀行が手元に持っている現預金を全て預金として持っておく必要はなく、一定量確保(これを預金準備率といい、日銀に預けておく必要がある)すれば、残りは他に使っていいというルール。預金は中々引き出されないという預金者の行動から出来た仕組みだ。今の日本は預金に対して1%の現金を確保していれば、99%は他に貸付なり投資なりの原資としてよい。

ここでは簡単な貸付で説明をする。

株式会社Aが稼いだ1億をB銀行に預けた。B銀行は預金準備率に基づき100万を日銀の当座預金へ、残りの9,900万を株式会社Cに貸し付けた、株式会社Cは、その借りた9,900万をD銀行に預けた、D銀行は以下同じ流れ。そうすると、理論上、原資の1億は預金準備率の1%の逆数だけ増え、100億まで増える。これが世間一般で言われる信用創造である。(ここで言う信用とは銀行が預金を必要な時は必要なだけ現金で渡してくれる、破綻しないという信用)

しかし、MMTでは違う。MMTの信用創造とは貸付をした瞬間に発生する。

画像1

上記画像表が銀行が企業に金を貸した瞬間に信用創造、つまり金を生み出した説明である。つまり、銀行は貸出先の口座に貸付金の額分だけ、数字を入れるだけで、あら不思議お金が生み出されたのだ!これが真の信用創造だっ!と。

普通の人であれば、ここで猛烈な違和感を覚えると思う。その違和感は正しい。

そこには、現金という概念がない。確かに銀行が企業相手に貸付をする場合、実務上はそうだろう。だが、実務と原理原則は別。

MMTの信用創造が語らない大いなる矛盾は、貸付は誰かが使うためにするものということだ。確かに上の画像までの流れなら、その説明で通るだろう。しかし、実際はその貸付で企業は別の企業と取引をし、その取引先が受けたそのお金は売上として取引先に計上され、最終的に従業員の給料になる。

その時、現金を全く持っていない銀行が貸付金の数字だけ打ち込んでいたとするとどうなるだろうか?

現金は引き出せない。生活のために現金が必要な従業員は銀行に押しかけるだろう。

現状で言うと、銀行はあふれるほど現金を持っているから、そんな状況にはならない。だが、そんな状況にならないことを担保しているのは紛れもなく預金準備率(各銀行が持っている日銀当座預金口座に預けた預金)なのである。

さて、話を戻そう。

MMTの考えるデフレ時の政府の仕事は物価トレンドと逆行し、大量のお金を使い、需要を無理やり生み出すこと。使用用途として、中野氏は公共事業をバンバンやれ、国防費を上げろ、低所得者層へのバラマキをやれ、減税しろ。を提示している。

私論を述べる。

総論賛成だが、各論反対だ。

デフレは経済を衰退させる。それには完全に同意する。物価が下がる=貨幣価値が上がるなら、今手元にある現金は持っていたほうが価値が上がる。だから支出を絞る、貯金を増やす。支出を絞られる相手は民間企業だ。これでは経済成長しようがない。

だから、インフレにする。だが、その方策については反対である。物価トレンドは政府の政策でも左右されるが、それと同時に諸外国の通貨価値、経済にも大きな影響を受ける。

つまり、日本はデフレだ!と思って、デフレ脱却政策を進めていても、各国が日本よりデフレなら、日本はインフレとされるのだ。物価はあくまで相対値、日本だけの都合では動かせない。

すると、公共事業バンバンやったり、低所得者支援をバンバンやったり、減税を進めたりしている最中に他国の政策によって急にインフレになる可能性がある。その時に公共事業は止められるだろうか?低所得者への給付は止められるだろうか?100%不可能だ。

工事は完成するまで止められない。もっと言うと、先の計画で既に用地確保し、立ち退き済み、立ち退き途中の土地があるのに、そこは放置するのか?

低所得者への給付をインフレ下で止めたら、彼らの生活はどうなる?生活費はジワジワ上がっていくのに、政府から貰えるお金は減るか、なくなるなんて悪夢だ。確実に路頭に迷い自殺する人間が増える。

減税にしてもそうだ。ガンガン減税した後にインフレになったら増税するのか?よくMMT論者、反緊縮派が出す消費税でいくと、デフレ下では0%にして、インフレでは20%にでもすると言うのか?あまりに非現実的であらゆる取引企業の対応コストを軽視している。

では、どうすればいいのか?

デフレ下の財政出動に求められる条件はいつでも始められて、いつでもやめられるものということだ。

それは何か?投資だ。

例えば安倍政権で実施された中国からの撤退補助金予算。

あれを噂の予備費のように10兆円予算化すれば、サンクコストが理由で中国の拠点を撤退しかねている企業は大挙して日本に戻ってくるだろう。

そうすればどうなる?

雇用が増え、土地の値段が上がり、中国に持っていかれていた売上の多くは中国ではなく日本国内に落ちるようになり、経済は成長する。

FXのレバレッジのように補助金として用意した10兆円は何倍、何十倍になって日本経済に還元されるだろう。

これは一例だが、他にも政府投資としてAI関連ビジネスなど、今後伸びることが期待されている、国として重点的に成長させたい業界の起業に予算をつけてもいい。

景気が良くなればベンチャーキャピタルが代替してくれる仕事。当然、インフレになったらすぐやめられる。

MMTは全体として非常によく考えられた理論だ。だが、和製MMTは都合のいいところだけをつまみ食いし、日本政府の財政破綻を完全否定し、国債発行残高を気にしなくて良くなる。夢の放漫財政の言い訳にしてしまった。

元のMMTが優れたものであったとしても、それを使う人が故意なのか、無意識なのか放漫な財政出動の言い訳に使うようなことはあってはならない。理論に罪はないが、詐欺師は理論を悪用する。

皆さんなら、この理論をどう使うだろうか?日本の財政はどうすべきだろうか?

バブル崩壊後デフレの20年、30年と言われながら、僅かではあるがインフレに持っていけた第二次安倍政権の功績に敬意を表しつつ、今後の日本政府の金の使い方を、そして、日本の経済成長の絵をどう描くべきか?誰にその舵取りを預けるべきか?

是非、それぞれの答えを見つけてほしい。

終わり

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