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【注目新刊】2023年1月第2週

1月第2週は、ちくま学芸文庫と講談社だけでも、気になる本がいっぱいです。


ちくま学芸文庫

ちくま学芸文庫は、3冊とも定評ある本の文庫化。

『子どもの文化人類学』原ひろ子[著] ISBN 978-4-480-51163-8

文化人類学の知見から得られた、異なる文化圏での親子や子どものあり方のエピソード。それらをもとに書かれたエッセイ集。
あまり親子関係でいいニュースを聞かない時代だからこそ、多くの人がこれを読んで、親子っていろんなあり方があるんだって思ってほしい。

『ナチズムの美学 キッチュと死についての考察』ソール・フリードレンダー[著]  田中正人[訳] ISBN 978-4-480-51161-4

「何によって人々はナチズムに魅惑されたのか」
ナチズム研究の古典的な名著だそうです。(不勉強で今回の刊行まで知りませんでした)親本につけられた感想で「非常に面白い」と書いてあったので、ちょっと目を通してみたいところ。
ワイマール末期の思想関連で「政治の美学化」「美学の政治化」のようなフレーズは聞きます。それらが意味するところを感覚的にも理解するのにも役立つかもしれない。

『「おのずから」と「みずから」 日本思想の基層』竹内整一[著] ISBN 978-4-480-51155-3

思想史というと、小難しいテキストを解釈していくイメージがあります。そんな私のイメージを粉砕したのが、学生時代に読んだ竹内整一さんの一連の著作でした。
さまざまなジャンルの文献に残っている日本語の色々な言葉、それらがどのように使われてきたかを通して、日本文化の感性的なものを言葉として再度取り出している手つきに私は魅せられました。
再構成、加筆修正で文庫化されたそうなので、久々にもう一度読んでみたいです。

講談社学術文庫

貝塚茂樹 『中国の神話 神々の誕生』

『中国の神話 神々の誕生』貝塚茂樹[著]  ISBN 978-4-06-530677-2

古代中国で覇権を握った儒教文化に抑圧されて、断片的にしか伝承されなかった中国の神話。他文化圏の神話を参照するなど、文化人類学や民俗学の知見を使って、中国の神話を大胆に復元する!
面白そうな試みです。でも、出版されたのは約50年前。今となっては的外れな結論になっているんじゃないかとも思ったりもします。
ただ、たとえ復元が大空振りで間違っていた内容であったとしても、それはそれで面白そう。

『独立のすすめ 福沢諭吉演説集』

『独立のすすめ 福沢諭吉演説集』福沢諭吉[著] 小川原正道[編] ISBN 978-4-06-530680-2

福沢諭吉というと、本人が書いたんだか高弟が書いたんだかわからない大量の新聞の論説、という印象を勝手に持っていました。演説も250本以上が残っているんですね。
語られているのは、今となっては御題目となっていたり陳腐になったりしている言葉。それでも、この時代の方々から語られると、地に足ついた印象を受けたり、説得力を感じてしまいます。
新たな発見とか知的な刺激を受けるとかはあまりないんですが、そのせいで妙に読みたくなってしまうんですよね。

ヘーゲル『宗教哲学講義』

『宗教哲学講義』G.W.F.ヘーゲル[著] 山﨑純[訳] ISBN 978-4-06-530302-3

約20年前に出版された訳書の文庫化。訳文の一部を改め、書誌情報を更新したとのこと。

ヘーゲルは、1821年、24年、27年、31年の4回、宗教哲学の講義を行いました。21年度の講義のみ自筆草稿が残っています。(知泉書館から現在刊行中のヘーゲル全集で、既に翻訳が出版済み)

1840年にブルーノ・バウアーが編集したテキストが、長い間『宗教哲学講義』として流通してきました。これも他の講義録と同じく、講義の実際を伝えるものではないことが明らかになっています。構成や内容が異なる4回の講義をら恣意的に切り貼りして成立したからです。
近年では、講義の聴講者のノートをもとに各回の講義内容の違いなどが解明されてきています。
今回は、聴講ノートから復元された27年講義と、31年講義の要約ノートの翻訳。

ヘーゲルというと、やっぱり難解という印象です。あんまりわからないので、読みやすいことで有名な長谷川宏訳を読んで、私は誤魔化してお付き合いしてきました。
ただ、同じ講談社学術文庫から出版された講義録『世界史の哲学講義』は、話についていくことができたのです。
今回も読めそうなら、付き合ってみたい! 同じ講義録なら少しはハードルが下がるんではないか。でも世界史と違って宗教哲学じゃ難解かなぁ…
それにしても、728頁予定とはまたお厚い…

講談社選書メチエ

今月の講義社選書メチエは、思想系が3冊あります。

『今日のミトロジー』中沢新一[著] ISBN 978-4-06-530592-8
週刊現代に連載されたエッセイの書籍化。

『パルメニデス 錯乱の女神の頭上を越えて』山川偉也[著] ISBN 978-4-06-530570-6

ゼノンやキュニコス派のディオゲネスについての著作がある山川偉也さん(1938-)の新著は、パルメニデス論。プラトン以前の「哲学」者にしろストア派にしろ、断片から思想を再構築するのはスゴいといつも思います。

『極限の思考 ラカン 主体の精神分析的理論』立木康介[著] 
ISBN 978-4-06-523979-7

精神分析の実践のなかで絶えず理論を更新していき、体系を目指しながら体系的な理論を完成しなかった。それが私のラカンのイメージです。
怪しい私のラカン理解をさらに混乱させるのか、それとも理解への確固たる足掛かりをもたらしてくれるのか、期待と不安で刊行を待っています。

高木久史『戦国日本の生態系 庶民の生存戦略を復元する』

『戦国日本の生態系 庶民の生存戦略を復元する』高木久史[著] ISBN 978-4-06-530681-9

戦国時代の越前での山林、海岸部、手工業、運送業を取り上げて、具体的な庶民のサバイバルを描く!
山林や海という具体的な自然に根ざした近代以前の人々の生活。自然の生態系、その条件が違えば、自然から恵みを得る人々の生活や、それを支配するやり方も少しずつ違ってくるはず。
そして、近世以降の商業の発展、ひいては貨幣経済が何をもたらしたかは、そういう前近代的なものが具体的にどうだったかわかってこそ、本当のところが見えてくるはず。
日本中近世の貨幣史を専門としている方が著者であるからこそ、なおさらそういう視点から、内容に期待してしまいます。

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