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【注目新刊】2023年1月下旬

歴史

女がみた一八四八革命

『女がみた一八四八年革命(下)』ダニエル・ステルン[著]志賀亮一/杉村和子[訳] 藤原書店 ISBN978-4-86578-373-5

別の記事で長めに紹介した、フランス二月革命の同時代史。著者は、19世紀中葉フランスのサロンの女王、ダグー伯爵夫人。作曲家フランツ・リストの愛人、作曲家リヒャルト・ヴァーグナーの妻コジマ夫人の母でもあります。

ドイツ史1866―1918

『ドイツ史1866−1918 労働世界と市民精神(下)』トーマス・ニッパーダイ[著]大内宏一[訳] 白水社 ISBN978-4-560-09478-5

本書の上巻と、前編である『ドイツ史1800-1866市民世界と強力な国家』(上下巻)は発売済み。

「はじめにナポレオンありき」
この言葉をドイツ近代史の本で目にしたことはないでしょうか。この本の著者である、20世紀後半を代表するドイツ近代史研究者、ニッパーダイの言葉です。
前編とあわせて、このニッパーダイの主著とされる著作。
30年ほど前に亡くなられているため、本書の内容が現在どのように評価されているか、門外漢の私にはわかりません。ただ、10年前のドイツ史研究案内書では「標準的な叙述」とあったので、まだまだ現役ではないかと思います。
扱っている分野も網羅的で、記述も多目なのは魅力です。その分、お値段も多目なのは……

古代史のテクノロジー

『古代史のテクノロジー』長野正孝[著] PHP新書 ISBN978-4-569-85381-9

現代の技術者の視点から、日本古代の建築技術や治水施設の機能などを考察。
古代や中世の歴史研究は、人文学や考古学の枠組みを外れた要素の占める比重が年々増えていっている印象があります。
歴史仮説として適切かどうかは別として、人文学の枠組み外の考察は、読んでいて面白いものですね。

旅行の世界史

『旅行の世界史 人類はどのように旅をしてきたのか』森貴史[著] 星海社新書 ISBN978-4-06-530640-6

西欧近世の貴族子弟のグランドツアー、近代以降のツーリズムについては類書もいくつかあります。
にもかかわらず、この本が気になってしまったのは、ドイツ文化研究者である著者の過去の出版物のせい。
『踊る裸体生活』『大学教授、ハロプロアイドルに逢いにゆく。』など、「んん?」と思わせる文字が目につきます。(両者とも本の内容はマトモそうですが)
この本も、固定観念にとって、どこか斜め上な内容や着眼点が含まれていないかなぁという、身勝手な期待をしています。

政治 ・ 社会

悪意の科学

『悪意の科学 意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?』サイモン・マッカーシー=ジョーンズ[著]プレシ南日子[訳] インターシフト ISBN978-4-7726-9578-7

社会心理学の科学読み物。
現代版の『ハチの寓話』、「私悪すなわち公益」といったところですね。

政治と宗教

『政治と宗教 統一教会問題と危機に直面する公共空間』島薗進[編] 岩波新書 ISBN978-4-00-431957-3

統一教会関連は類書が巷にあふれていますし、新しい論点が何か残っているのか、(もちろん現実問題としては課題のままですが)と思われてきた今日この頃。
本書の売りは、統一教会や創価学会を取り上げた前半ではなく、後半にありそうです。
フランスとアメリカの宗教政策を扱った後半の章に興味がわいてきます。

トマス・ペイン

『トマス・ペイン 『コモン・センス』と革命家の生涯』ハーロー・ジャイルズ・アンガー[著]森本奈理[訳] 白水社 ISBN978-4-560-09463-1

アメリカ独立戦争、フランス革命期のイギリスの政治的急進主義者の評伝。

幕府とは何か

『「幕府」とは何か 武家政権の正当性』東島誠[著] NHKブックス ISBN978-4-14-091277-5

歴史書の皮をかぶった歴史解釈の書。
その時々の統治にとって、何が支配の正当性として機能したか、という観点から数百年の歴史をぶった斬って整理。

思想

『哲学のなぐさめ』ボエティウス[著]松崎一平[訳] 京都大学出版会 ISBN978-4-8140-0424-9

西洋古典古代の末尾を飾る「最後のローマ人」ボエティウスの名著の新訳!!
反逆罪で囚われたボエティウスが処刑されるまでの間に書き上げた本。監獄に女神「哲学」が現れ、不幸を嘆くボエティウスに哲学を説く。
スピノザ翻訳者と同じ方による岩波文庫の約70年前の訳くらいしか入手できませんでしたが、ついに新訳の登場です。
著者がまさに人生を賭けて書き上げた本だけあって、新訳の登場はうれしいですし、光文社古典新訳文庫あたりでも、新訳を出してくれないかなぁと思ったりしています。

エッセイ

『いちにち、古典 〈とき〉をめぐる日本文学誌』田中貴子[著] 岩波新書 ISBN978-4-00-431958-0
『科学する心』池澤夏樹[著] 角川ソフィア文庫 ISBN978-4-04-400722-5

日本の古典文学、自然科学を題材にしたエッセイ2点。
今月は政治系やらヘーゲルやら、重めの本が多かったので、アッサリしてるけど栄養のありそうな本を読みたくて、目についた本。


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