靴が好きになりました 『靴の向くまま』 漫画感想
自分の「好き」を増やしてくれる。そんな作品は大好きだ。
作品の影響で自分の世界が広がった。日常の楽しみが増えた。そんな素敵な漫画を紹介したい。『靴の向くまま』という漫画だ。
靴が好きになった
この作品の大きな影響。それは靴を好きになったことだ。
もちろん、今までカッコいい靴をはきたい、と言った人並みな興味は持っていた。でも、数万円かけて良い靴を買おうとは考えていなかったし、靴のメンテナンスなんて全然していなかった。単なる消耗品。そんな認識だった。
でも、この漫画を読んだ後、靴に対する接し方が変わった。まず、丁寧に使おうと思った。スニーカーでも履くときに靴べらを使うようになった。
3万円くらいする革靴を買ってしまった。他にも2足くらいのスニーカーを買った。今日はどんな靴を履こうかと、ワクワクしながら考えるようになった。
あまりにも露骨に影響を受けていて恥ずかしいが、事実だからしょうがない。自分でも不思議なくらいこの作品は響いて、自分の生活を変えていった。
小さな小さな元気のでるおまじない
まず、この漫画の考え方が凄く好きだ。それは、日常の中に小さな幸せやワクワクを見つけるというテーマ。作者はそうした発見が得意な人だなと感じる。
この漫画は靴屋さんが主人公なわけだが、靴を特別な存在と捉えているわけではない。めったに手に入らない貴重品でもなく、一回きりの特別な経験を与えるものでもない。
靴は、毎日使うもので、消耗品である。
服と違って、まず足元を見る人は少ないから、良い靴を履いていても、誰にも気づかれないこともある。
でも、だからこそ、常に足元にあって、自分はその足をいつも見ていて。そんな靴が素敵なモノだったら、毎日の外出が楽しくなったり、励まされたり。
「きれいごと」を言っている作品かもしれない。
その言葉は、実は第一話で既に登場人物から言われている。
その言葉を主人公は否定しない。きれいごとなのは事実だから、と。
でも自分は、こんな「きれいごと」が好きだ。
世界を平和にする、なんてたいそれた物語ではない、こうした日常の物語こそ、こうした「きれいごと」が大事だと感じる。日々の生活の中だと鼻で笑ってしまうような、前向きな考え方。それを日常の中で愚直に行うことの大事さ、尊さみたいなのを感じる。
この作品のコンセプトは靴を通した小さな幸せの積み重ねだと思う。そう、「小さな」という謙虚さがこの作品の大事なところで、好きなところだ。第一話の終わりが、この作品における靴の役割と、扱うテーマを表している。
それぞれの個性とドラマ
靴をテーマにして、何話も描き続けることができるのか。結局は靴は物語の添え物になって、中心にならないのではないか。そんな不安もあったが杞憂だった。
しっかりと、靴屋さんが靴を作る、これを骨子に、人間ドラマが描かれている。
では、靴をテーマに、何をきっかけにドラマを描くのか。
それは、「足の個性」だ。実は、人の足は様々な形になっており、既製品の靴が合わないという人も多いらしい。
かくいう自分も、親指が異常に長く、なかなか靴が合わない経験をしている。
足の形、それはすなわち個性である。そのお客さまの個性を聞き取り、個性に似合ったものを作り、提供する。
この過程に、ドラマを作り出す。
丁寧に作られた1話1話の完成度の高さに驚く。ほんの少しの悩みや孤独。それを、靴を作るために人に寄り添い、靴という小さなきっかけを与えることで、解決していく。単純だけども、このストーリーラインで毎話感動を与えるのは本当に凄いと感じる。
本当に質の良い漫画
なかなか言葉では表現しづらいのだが、この人の漫画家としての表現力が凄い。コマ割りだったりとか、会話のテンポだったりとか、そうした漫画を構成する諸要素が上手いのだ。
1枚1枚の絵の巧さではなく、ページ全体で見た時に、流れるように読めて、心にストンと落ちてくる。個人的に好きな漫画の書き方だ。
あとは、主人公の独白がある漫画が好きなのかもしれない。半分小説みたいな形で読める、あの感覚が好きになる。最近好きな青年誌の漫画は、全部キャラの独白が上手い作品な気がする。
本当に好きな作品で、大きな影響を受けた作品。もっとしっかりと言語化して、魅力を伝えたかったのだが、なかなかに難しかった…
本当に良い作品なんで、ぜひとも読んで見てください。
下記リンクより、一話だけでも!
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