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茶番だからこそ楽しめる アニメ『陰の実力者になりたくて!』感想

なぜか無性に厨二なアニメが見たくなる時が来る。裏切りとか、衝撃の展開とか、すごく丁寧で泣ける話とか、そんな高尚なものはいらなくて。頭空っぽにして「俺TUEEEEE」を感じたくなるのだ。ジャンクフード食べたさにマックに行くように、厨二アニメを求めてdアニメストアのカテゴリ「ファンタジー」で検索することがたまにある。

先日も久しぶりにこの衝動が生まれたので、最近のなろう系で主人公無双系で一番評判が良かった、『陰の実力者になりたくて!』のアニメを視聴した。その感想を書きたい。

まさに期待通りのアニメだった。主人公は問答無用に最強だし、シナリオもめちゃくちゃシンプル。作画も安定して良いし、脚本のテンポも良い。つまらない話は3話くらいで終わってくれる。最高のジャンクフードだった。一気見したアニメは久しぶりだ。


茶番ですが、それがなにが?

この作品は俗に言われる最強系主人公の作品だ。なろう系のブームでこうした作品はかなり多くなった。〇〇系スキルだけは最強、とかそういった作品も多いが、今作品の主人公はそうした1技能に秀でた最強ではない。本当の意味での「最強」だ。

だから、この作品でハラハラすることはない。途中でどうなろうと、最後は最強の主人公が出てきて勝利する。この図式が変わることはない。まさしく茶番だ。

でも、茶番だからこそ、楽しめる要素というのは必ずある。なぜ『水戸黄門』という、結末がわかりきっている作品が40年近く愛され続けたのか。それと同じ回答がこのアニメには詰まっている。何も考えずに楽しめるから。これに尽きる。


もう視聴している時から、どうやって主人公が無双するか、そのことしか視聴者の頭にはない。その過程をどれだけ盛り上げてくれるか。いかに美しく、カタルシスをもたらしてくれるか。それが視聴の動機と期待だ。

そして、今作品が秀逸なのは、主人公も我々と同じ考えを持っているからだ。最初から全力を出して、相手を叩きのめすなんてことはしない。主人公が目標としている「陰の実力者」として、どのような振る舞いが適切か、考えながら行動する。それに視聴者もワクワクする。

要するに、焦らされることに、合理的な理由がある。無双系作品のよくある展開が、強キャラを活躍させないために、明らかに不自然な展開になること。脚本が練られたものだと、そんなに違和感なにのだが、ひどい作品だと、製作者側の都合がこちらにスケスケで、すごく萎える。

その分、本作品は「陰の実力者っぽい行動がしたい」という明確なモチベーションがあり、それに従って動いているだけのため、そうした萎えポイントはない。悪役が調子にのっている時に、ノンストレスで結末を楽しみにできる。


ヒロインが命

最強系主人公の作品で一番大事なのは、ヒロインやサブキャラだと思う。最強系作品で、主人公自体を好きになることは自分はない。なぜなら、主人公においては緊迫したドラマは決して発生しないから。主人公は常に最強であり、最強であるがゆえに悩みや葛藤は存在しない。だから、ドラマも発生しない。

むしろドラマはサブキャラを中心に生まれていく。今作品でいえば、ヒロインたちだ。このヒロインのキャラたちが個人的にツボだった。特に、序盤のメインヒロインであるアレクシア・ミドガル。

CV花澤香菜。オタクは花澤香菜キャラからは逃れることはできないと痛感。

ツインテ美少女、お嬢様でツンデレ、ちょいとゲスな性格。これでもかというくらいのラノベヒロイン要素を詰め込んだキャラだ。なんやかんやで主人公とアレクシアが偽恋人になることをきっかけに、2人の物語が錯綜する。

このキャラ、主人公は別格として、それ以外の作品内の「強キャラ」にすらランクインできない程度の実力。才能もなく、ただ凡百に、基本に忠実な型しかできない。主人公にカマせとして出てくる敵キャラにも遠く及ばない。そんな自分の実力を、アレクシアは自己嫌悪している。


しかし、主人公は彼女の「剣」のことを褒める。好きな剣筋だと言う。圧倒的に実力は下なのに。主人公が何かしら力量のことを褒めるシーンは、この後も含めほとんどない。しかも作中のネームドキャラの中では、かなり下位に位置するアレクシアのことを褒めるのだ。

それは、自分の才能なんてものを当にせずに、愚直なまでに、基本に忠実に、努力を積み重ねている彼女の姿勢を評価しているから。そして、彼もまたそうだったから。


主人公は確かに最強だ。しかし、その最強は神から与えられたものではない。前世の記憶というアドバンテージはあったが、それ以外は彼自信の実力で獲得したものだ。陰の実力者となるべく、ずっと努力をしてきて得たもの。そして、その努力は、気の遠くなるような基礎の積み重ねだった。だから、アレクシアの剣は最強の主人公と似ているし、彼もまた、似た彼女の剣を肯定する。

この2人には互いが惹かれるだけの要素がある。だから、好きだ。
そして、その後主人公が陰の実力者として変身して登場するシャドウに、アレクシアは出会う。まさに自分の理想となる「究極の凡人の剣」を見る。それから、アレクシアは自分の剣を肯定できるようになっていく。そして、最初に自分の剣を肯定してくれた主人公に惹かれていく。


この2人のドラマの骨子がもうめちゃくちゃに素晴らしい。やっぱり、天才ではない自分は凡人に感情移入してしまう。

そして、シンプルに2人のラブコメの距離感も良いのだ。最初が利害関係から始まっているため、お互いの距離感がすごく素。そこも含めて、この2人の関係性は今作品を視聴する大きなモチベーションになった。もう今や絶滅危惧種なちょい暴力系ツンデレヒロインなのもグット。

他にも何人かヒロインがおり、ドラマが展開するが、そのどれもがキャラもエピソードも秀逸で、今作品の優秀さをひしひしと実感できる内容だった。やっぱり売れている作品は、こういうところをお粗末にはしない。


サブキャラ、敵キャラも優秀

その他、メインキャラの周りを固めるサブキャラも作りがうまいなと思う。どこかで見たことがあるキャラといえばそうなのだが、だからこそわかりやすいキャラが多い。ヒロインとその周辺のドラマにはしっかりと力を入れて、サブキャラはあえて雑に作る。でも、それくらいが正解だ。

特に七影といわれる、主人公の側近ポジションの7人の美少女たち。彼女たちの描き方がまさにサブキャラのお手本のような作り方だ。ほんの数秒のセリフとカットで個性が分かるくらいの強烈なキャラ付けをして、作品にアクセントを与える。トッピングのような存在。そこに深いエピソードなどは描写しない。

何に力を割くべきか、どのように作品を描くべきか、そこをしっかりと分かって作品構成をしている。なんだかこう書くと、彼女らのことを批判しているような書き方になったが、そんなことはなく、しっかりと作品を視聴しているうちに、好きになっていた。デルタとイプシロンがお気に入り。


また、敵キャラもこうした無双系作品としてかくあるべきといったキャラ付けだ。シンプルに悪いやつ。これで良いのである。主人公に倒されてスカッとするキャラでないと。

しかし、THE悪役なキャラで、あまりにもチープすぎると、作品自体がチープになる。そこで、登場するのが名だたる声優たちである。

速水奨、大塚芳忠、小山力也。もう聞いたことある声しかいない。そんな彼らの悪役ボイスがたまらない。これだけで、作品に重厚感がある。安っぽさがなくなる。これはアニメ化による大きな恩恵だろう。久しぶりに速水さんの声をたくさん聞けて、すごく幸せだった。


売れるのが分かる、優秀なアニメ

作画も全編通して安定していたし、上記のようにキャラ作り含めて、抜かりがない。強いて言うなら、1話、2話がかなり視聴するのがシンドいところか。THEなろう系な導入なので…
しかし、それ以外は個人的には完璧だと思った。まさに求めていたジャンクフード(厨二アニメ)である。

アレクシアと主人公のドラマが本格的に始まる第3話「凡人の剣」までは視聴してほしい。そこでピンとこなかったらたぶん本作品は合わない気がする。

売れるのが分かる、シンプルに面白いアニメを楽しめた。個人的にこうしたなろう無双系だと一番好きかもしれない。

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