これはスタッフさん──プロやな。 アニメ「ザ・ファブル」感想
裏社会で都市伝説のように存在が囁かれる伝説の殺し屋、「ファブル」が、一般人として生活する様子を描く、ギャグあり、アクションありの超人気漫画『ザ・ファブル』。そのTVアニメ版の感想記事になる。
自分もむかし、刊行されていたところまで読んで非常に楽しんだ作品だ。しかし、あの原作の持つ独特な空気感。あれをどこまでアニメとして再現できるのか、一抹の不安はあった。
先んじてメディア化された実写版も、エンタメとしてはそれなりの完成度があったけども、『ザ・ファブル』の原作の魅力が出ているかと言えば、それに関しては微妙な判定だ。個人的には、原作のファブルと実写版のファブルは別人だと思っている(岡田准一の顔がよすぎる)。
そんな不安感を抱きながら視聴したわけだが…
あの「──(けいせん)」が再現された喋り
漫画としての『ザ・ファブル』の一番わかりやすい特徴といえば、そのセリフにあるだろう。セリフの書き方に。
「───」と表される、この棒。普通、「おーーーーい」という風な声を伸ばすときに使われる記号「ー(ダッシュ)」に似ているが、それとは用途が違う。
作者いわく、セリフの間を表現するために使っているらしい。他のマンガにはない表現だ。
読者としては、どうしてもこの「─(けいせん)」を意識せざるを得ない。
なんとなく、少し気の抜けた喋り方をしているような、そんなイメージが自分にはあった。ハキハキと区切って喋る、というよりは、少し気だるげな感じ。そんな音声が原作を読んでいるときに再生されていた。
これが、完璧に再現されていたのである。
「どういう風に?」
と聞かれても、なかなかバシッと言語化するのは難しい。でも、少なくとも自分にとっては、各キャラの喋り、とくに主要キャラはのセリフには、この「─」の存在を感じられた。
ふつうのアニメであれば、ハキハキと、「いい声」で発声することが求められると思う。しかし、今作品では、そういう「アニメな感じの声」ではなく、「『ザ・ファブル』という作品の声」にチューンナップされた演技を感じられたと思う。
かと言って、普通にアニメ作品として楽しんでいる中で、違和感があるような演技でもなく。絶妙なバランスだったと思う。
特に、ファブル役を演じた興津和幸氏、その相棒役の佐藤陽子を演じた沢城みゆき氏、ヤクザの親分を演じた大塚明夫氏など、素晴らしい演技をしてくれた声優陣。最高だった。それをディレクションしたスタッフたちの仕事ぶりが、今作品のクオリティを大きく引き上げていたと思う。
「そう、ファブルのメディア化に求めていたのは、これだよ!」
と皆さん登場人物のセリフを聞いて唸ったはずだ。
静かな演出
この『ザ・ファブル』という作品。確かにヤクザも出てくるし、アクションシーンもある。主人公は最強の殺し屋という、魅力的な設定もある。
だけども、描かれるのはド派手なクライム・アクションではない。『ザ・ファブル』という作品のすごさは、「静かさ」にあると思っている。
とにかく、戦闘シーンは一瞬だ。極限まで磨かれたプロの技は、華麗さも見応えのある演出もなく、静かに、一瞬で決着がつく。その静かさに、我々は凄みを感じる。
そして、個人的にこの作品の中で好きだったのは、ヤクザたち。この作品のヤクザは、あまり声を荒げたりする印象がない。淡々と、しかし確実に被害者を追い詰め、金銭をやり取りし、死体処理を行う。まさに彼らにとって単なる「仕事」をしているかのような、淡白さで。
もちろん、場合によっては相手を脅す場面もあるのだが、そこも安っぽい脅しはない。「マジでコイツはヤル(殺す)」というのが、冷静な喋りからも直感でわかるような、そんな語りをしながら相手を脅していくのだ。静かに。
そして最後に響く銃声。それだけで十分。安っぽい怒鳴り声は必要ない。
全体的にみて、「静かさ」、もっと言えば「地味さ」をあえて演出として表現していた作品だった。だから、作画が悪いとかいう口コミもあるかもしれないが、それはあえての表現だと自分は思う。
ファブルに求めているのは、キレイな画でヌルヌルと動くアニメーションではない。静かに、泥臭く、だけども「プロ」を感じさせるような演出を求めているのだ。
プロの仕事やな
作中にも度々出現する、「プロ」というワード。これをこの作品は感じさせられた。徹底した原作再現。それだけでなく、しっかりとTVアニメ作品として、毎話「引き」を作るような脚本構成。
アニメ化とは、アニメとはこうやって作るんだというお手本のようなアニメだったと思う。調べてみたら、監督はなんと「装甲騎兵ボトムズ」「太陽の牙ダグラム」「蒼き流星SPTレイズナー」など、名だたるオリジナルアニメを作ってきた、高橋良輔監督。
なんか、ストンと納得できた。やたらリアリティなヤクザのキャラ作り、どっしりとした完成度に。もちろん、監督だけでなく、周りの他スタッフの協力もあってのものだろうけども。
最後に、監督のインタビューから抜粋した監督のコメントを紹介したい。
あのヤクザたちの妙な現実感とかの秘密が描かれているので、オススメだ。その中で一番よかったのはこの部分。
このおっさん、プロやな───
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