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「帰るべき日常」を知れてさえいれば 百花繚乱編 第一章 感想

ブルーアーカイブのベストシナリオはどれか。そう聞かれたら、恐らく多くの人の意見が、「エデン条約編」か「最終編」のどちらかになるだろう。

それほどまでに、あの2つのシナリオのレベルは高かった。恐らく、今後のメインストーリーは絶対にこの2つと比較される。ユーザーはこの高い壁を超えることを期待してしまう。ある意味で、「呪い」にも近いとも思う。我々はともかく、制作者たちにもこの「呪い」の影響が言ってないことを、自分は祈っている。

今更ながら百花繚乱編の第一章を読み終えた自分が最初に思ったことは、これなのだ。


百花繚乱編の第一章の感想を一言で書くとしたら、第一章にしては、「急な」シナリオになっているな、というのが自分の第一印象だった。正直、少し上記の2つの偉大なシナリオの「呪い」に当てられたのではないのだろうかと思ってしまうのだ。

たしかに、エデン条約編も、最終編も、その他のシナリオも、すべてシリアスな物語へとなっていった。世界の情勢に関係する困難に直面し、キャラは苦悩した。それに我々の感情も大きく揺さぶられた。

百花繚乱編も、シリアスな物語へとなっていく。学園は焼き払われ、少女たちは苦悩する。このシリアスパートの完成度は決して上記2つのシナリオに負けず劣らずだと思う。でも、自分の中でそれほどこの百花繚乱編は評価が高くない。その理由は、先にあげた2つのシナリオにあり、百花繚乱編になかったモノが1つあるから。「取り戻すべき日常」への思い入れだ。


「日常を取り戻す」物語

自分の最終編の感想記事でも語ったのだが、ブルーアーカイブは「日常」がテーマだ。銃に打たれても平気な顔をしていることでも、未来予知といった特殊な能力でもない。この作品が奇跡とよんでいるのは、ごく普通の日常なのだ。

そして、この作品のシナリオは、そうした「日常を取り戻す」ことが基本的な流れとなっている。

対策委員会編では、ホシノを黒服から取り戻し、「借金返済(対策委員会)の日常」に戻っていった。
パヴァーヌ編では、アリスは魔王ではなく勇者であるとし、「ゲーム開発部の日常」が最後に描かれた。
エデン条約編では、補習部は元の「部活動という日常」に戻り、アリウスは「日常を探す旅」へと旅立っていった。
カルノバグの兎では、歪に作られた学園ではなく、たとえキャンプ生活になろうとも「自分たちの思うSRT学園の日常」をミヤコは選んだ。

『ブルーアーカイブ』という作品はつまるところそういう作品なのである。
極端なシリアス展開は、日常という奇跡をより際立たせるためのスパイスでしかない。世界の命運だとか神秘とかよりも、生徒たちが楽しく日常を過ごし青春を謳歌すること。それこそが何よりも奇跡であり、目指すべき場所であるというのが、この作品の根幹の価値観だ。

そして、我々も最初に語られる平和な日常世界の物語に愛おしさを覚えるからこそ、その後のシリアスな展開に心揺さぶられるのである。なんとしてもあの日常を取り戻さねばと動き出す物語に、感情移入できるのだ。


今回の百花繚乱編も、流れ自体はやはり同じだ。解散した百花繚乱という組織を、なんとかしてユカリが元に戻そうとする物語と言えるだろう。彼女が、他の百花繚乱メンバーが、過去のことを思い出すたびに何度も挿入されるこのスチル。

まさに、彼女たちの日常を象徴するスチルだと思う。レンゲがいて、キキョウがいて、そしてナグサがいる。そんな「百花繚乱の日常」を取り戻すのが第一章の物語とも言える。

自分はマンネリ批判をしたいわけではない。むしろ、今回の章は「嘘」という新たなテーマをしっかり設けた、新規性のあるシナリオだったと思う。でも自分の中で評価は高くない。それはなぜか。


日常に愛着が持てていない

今作品の主要キャラ、ユカリをはじめ、百花繚乱のメンバーは初登場となる。ナグサは最終編でチラッとだけ登場したが、ノーカウントでもいいくらいの登場数だ。

そして、先生がユカリに出会ったときには、すでに百花繚乱は事実上の解散状態になっている。ナグサやユカリがどのような日常を送ってきたのか、先生(プレイヤー)は何も見ることができていないのだ。


ここが、今までのシナリオと大きく異なるところだと思う。今までのシナリオは、第一章は必ず日常の物語だった。伏線が貼ってあることはあっても、主は日常だった。我々プレイヤーは、そのおバカで非常識な日常を楽しんでいれば良かった。そうしていくうちに、自然と愛着が湧いていった。

しかし、百花繚乱編ではそれがない。過去の回想から推察するしかない。彼女たちの「取り戻すべき日常」を見ることができないまま、物語を進めざるをえないのだ。これが、今までのシナリオの最大の違いであり、欠点であると自分は思う。


最終編との時系列の都合上、しょうがない部分もあったのかもしれない。先生が彼女たちの日常を直接に体験するのは確かに不可だ。であるならば、もう少し過去パートを長尺で用意したり、何かしら工夫が欲しかった。

物語の主題や、先生のセリフなんかはすごく良かっただけに、本当に残念に思える。そして、冒頭に述べたエデン条約編や最終編の凄さを感じてしまう。エデン条約編は2章までの補習授業部のシナリオ、最終編に至っては、今までプレイヤーが積み重ねたすべての経験が思い入れとなって、目標である「取り戻すべき日常」に重みが増してくる。あの構造はやはりすごい。


杞憂に終わることを願っている

と、偉そうに批評を書いたものの、まだ第1章でしかない。もしもこの1章自体が日常とも思えるくらいの、えげつない展開を今後披露してくれるのかもしれない。思えば、どの部も1章単体では、自分の中での評価はそんなに高くない。

ただ、1つだけ心配なのは、パヴァーヌや対策委員会と違って思いっきりシリアスな展開に入ってしまっていること。日常パートというには普通に考えて重すぎる。エデン条約編や最終編の大成功から、シナリオ制作陣が変に焦ってなければ良いなと思う。ゆっくりとした展開ができることが、ゲームという媒体の大きな魅力なのだから、焦らずにどっしりと構えて作品を作っていってほしい。

ナグサなんかは、個人的にはかなりグッと来たキャラクターだった。描き方がもう少し工夫されていたら、ミカを超えていたかもしれないとさえ思う。それだけに惜しい。自分が抱いているこれらが、杞憂に終わることを、心の底から願っている。


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