「#リサーチハック」で振り返る、リサーチのトレンド 2021年

リサーチのノウハウ・トレンドをTwitter上で発信する「#リサーチハック」の中から、リサーチ業務従事者あるいは調査業界にとって今年の象徴となるトピックス(調査テーマ・調査サービス等)を、2021年の振り返りとして下記5つの項目にまとめました。

私の立場は公私でリサーチを扱う一個人に過ぎず、各トピックスの選定理由も極めて定性的ですが、調査手法を固定・特化していないからこそ感じる変化があり、同じく何かの縁でリサーチを使う機会のある皆さんにこの記事をご参照いただければ幸いです。

※記事の最後に、このテーマでゲスト出演するセミナーのお知らせもあります。よかったら最後までご覧いただき、お時間が許せばイベントの方もぜひご参加ください。

▼ ①インタビューサービスの群雄割拠

2021年のリサーチのトレンド中でも、将来性込みで最も大きな変化だと思ったことが、「インタビューサービスの群雄割拠」です。

インタビュー調査では、検討中の企画や上市後の商品の意見を聞くために、自分の身近な関係性の中で対象に当てはまる人を探し出す方法を、「機縁リクルーティング」と言いますが、これをサポートするDIYのサービスが充実してきました。例を見てみましょう。

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▼ オンラインインタビューサービス「uniiリサーチ」|LIFULL

▼ オンラインユーザーインタビュー「torima/トリマ」|Ratneko

▼ リサーチプラットフォーム「Zerone/ゼロン」|トリピア

▼ ユーザーインタビューモニター募集ツール「pivo/ピボ」|えそら

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上記の中でも、たとえば、LIFULLの新規事業プログラムから誕生した「uniiリサーチ」は、最短当日マッチング~実査(短期間)、平均5千~1万円/1名/1時間+募集無料(低価格)となり、既存のサービスが柔軟対応できていない点を見事にカバーしてきています。

サービス領域としては全く新しい概念というわけではなく、従来型の調査領域における技術革新ですが、それだけDIY(セルフ)化のインパクトは大きく、公式SNSが各案件の公募を手伝う手法もサービス認知に寄与する事業運営サイクルを作り出しています。

もちろん、調査会社が伝統的に築き上げてきた定性調査の枠組みは顕在です。一方で、リクルーティング期間だけで3~4週間かかったり、高額なインタビュー会場使用料は定性調査の機会を阻んできたので、定性調査ユーザーの裾野を広げる潮目になりそうです。

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また、2021年は特に年明け以降、対面での会話や外出自体に対して規制がかかる中、オンラインインタビューの調査手法が定着・発展していきました。調査手法は運営者と依頼主の双方がやり込んでみて初めて運用面が発達するので、その元年になった印象です。

大手調査会社・アスマークでは、2020年段階での知見を「実務ガイドライン」としてまとめ、オンライン定性調査の調査体制をインフォグラフィックで公表しています。特にクライアント側がリモート環境下でワークできるよう工夫している点に進化を感じます。

▼ オンラインインタビュー実務ガイドライン|アスマーク

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▼ ②インサイトテーマの復興

インタビューサービスの流れや勢いの背景にあるものが、「インサイトテーマの復興」です。「インサイト」の文言は、国内外の調査業界団体の声明発表や、大手各調査会社の中計資料にも頻繁に登場しており、「DX」と共に業界のスローガンになっていきました。

業界従事者でない一般のビジネスパーソンにとっても、インサイトテーマの書籍発刊や著者のセミナーはよく目にしたのではないでしょうか。もともとインサイト自体はベーシックなテーマですが、2021年は上記追い風を受けた当たり年でした。例を見てみましょう。

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▼ 本当のインサイトはどこにある?(鹿毛康司氏×松本健太郎氏のセッション)|ヤプリオンラインセミナー

▼ 好きになるって何?顧客の心を動かすツボの見つけかた(鹿毛康司氏×松本健太郎氏のセッション)|Agile Media Network seminar

▼ 消費者理会シリーズ|主催者:JX通信社 松本健太郎さん 株式会社秤 小川貴史さん

▼ 『ユーザーの「心の声」を聴く技術』(奥泉直子 著・技術評論社 刊)

▼ 『リサーチ・ドリブン・イノベーション』(安斎勇樹・小田裕和 著・翔泳社 刊)

インサイト自体はマーケティング界隈で一度流行しているテーマながら、テーマのキャッチーさもあり、あらためて定性的な調査手法(代表例としてのインタビュー)や、定性的な観点から対象物を考察する姿勢への価値評価が高まったように感じられる一年でした。

これは明らかに業界発展のうえで良い兆候です。実施する調査テーマの国際間比較において、日本は欧米に比べて「新しいアイデア探索への投資」が少ないと言われており、従来からの統計や広告以外の面で大きな調査の実施価値が理解されるきっかけになりそうです。

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これは余談ながら、10月に発売された『マーケター1年目の教科書』も、第1章が「調査」、そして「インタビュー調査」から始まる構成になっており、著者のお二人が定性調査の位置づけを重視する章組みになっていることが印象的でした。

▼ 『マーケター1年目の教科書』(栗原康太・黒澤友貴 共著・フォレスト出版 刊)

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▼ ③ソリューション型プランの流行

調査テーマ以外でも、独自に磨き上げた調査手法をサービスパッケージ化する「ソリューション型プラン」の動きも活発でした。例を見てみましょう。

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▼ エボークトセット調査|ネオマーケティング(ブランド想起に関する調査モデル)

▼ サーベイPRパック|bizhike×Freeasy(BtoB集客に寄与する調査リリース業務支援サービス))

▼ リア食|共同印刷(食卓データベースサービス)

▼ TVCM調査|ラクスル/ノバセル(プランニング~効果測定までを行うTVCM広告運用の付帯サービス)

これらのプランは、自社の強みや狙いを際立たせてパッケージ化したサービスです。調査のメニューは、正直、外から見ると各社でほとんど差が無いように映ります。上記のようなソリューション型プランがあると依頼主側には特徴や価値がわかりやすく、「調査の切り口を広げる」「現場の提案力を高める」ことに寄与する効果を見込むことができます。

もともとデータビジネスの業界では、ターゲットを万単位で保持しておいて、その中から自由にデータ項目を取捨選択できるモニターサービスは多く存在しています。しかしこの方法は実際には「プロファイルを知って終わり」になる価値の曖昧さがあっため、何かしらの成果としっかり紐づく調査メニューの方が顧客に受け入れられやすいのでしょう。

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この点、例に挙げたノバセルのように、「広告シーン」における調査メニューは引き続き有効であると思われ、プロモーションに近い位置で調査データが活用される機会は伸長しそうです。日本では、全く新しい調査手法だと依頼主サイドの反応がシブい傾向があるため、下記にあるマクロミルやLINEリサーチの取り組みが強化される方向性にも合点がいきます。

▼ Macromill Ads|マクロミル(広告活動におけるクリエイティブ開発調査)※下図はMacromill Ads Targetingサービスページより

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▼ LINE広告サービスとの連携|LINEリサーチ(LINE広告配信システムと連動したターゲットデータの利活用)※下図はシードデータの利活用リリースより

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このほか、プランにはなっていなくても「Z世代」を冠するテーマ設定も数多く見かけました。これまで調査業界では、特にウェブアンケートの方式で若年層回収率(モニター登録率)が弱いことが特徴になっていましたが、各社でモニター(アンケート回答者)連携の拡充が進み、ウェビナー等で積極的に本テーマを売り出していく傾向も印象的でした。

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▼ ④調査手法の是非を問う議論

他方、2021年は公表・報告を伴う際の「調査手法の是非を問う議論」も起きた年でした。例を見てみましょう。

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10月に大きく報道で取り上げられた「都道府県魅力度ランキング」の是非は、調査の意義や手法が論じられる珍しいニュースとなりました。平時はいわゆるこうした「調査概要」に相当する内容が話題に上ることは少ないのですが、SNSやワイドショーでは「ランキング下位の公表」や「集計の配点方法」に疑問を示す声も多く見られました。

▼ 「都道府県魅力度ランキング」公表に伴う、群馬県知事の法的措置検討のニュース

この記事では集計方法や公表方法の是非を論じませんが、大事なことは、「どんな手法で調査を実施したのか」「なぜこの評価指標を採用するのか」説明できる必要があるということです。リサーチャーには、自社(顧客)に合った調査のやり方を提示・選択するアカウンタビリティ(説明能力)が求められる場面が増えていきそうです。

JMRA(一般社団法人 日本マーケティング・リサーチ協会)がコメントを発表している「第2回 ESOMAR Client Survey」の結果によると、日本における調査の内製化率は34%と調査国中で最も低く(全体は48%)、今後もさほど変わらない見通しのようです。そうした中で調査会社や調査人材は法務担当と同じような価値を持つことでしょう。

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少し脇道に逸れますが、12月には正露丸が販売する大幸薬品が公表した、「正露丸のにおい」に関する調査リリースもSNS上でかなり話題になりました。この調査リリースでは、「正露丸のにおいは好きか?」をあえて聴き、「嫌い+やや嫌い」(54%)「嗅いだことがない」(20代/20%)という、かなり自虐的な回答結果を公表しています。

▼ 正露丸のにおいに関する調査公表について、大幸薬品の担当者への取材記事

常識で考えると、「なぜそんなリリースを出すのか」という社内の反対意見に合う日本企業の方が多いかと思います。しかし大幸薬品はネガティブな回答結果をあらかじめ織り込み、「臭いけど効く」=「あの、においのイメージ」を再周知することをねらいとし、調査の公表や情報拡散を自社の風評被害とは捉えない判断を取っています。

自社や社会にとっての良し悪しはケースバイケースなので、一概に「これが正しいやり方である」というガイドラインを引くことは難しいでしょう。でも、その「ケースバイケース」を組織の中でどのような過程を経て判断していくか、調査担当者も大きく関わっています。組織における調査機能をあらためて考えるニュースでした。

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話を元に戻すと、業界関係者の間では、3月にM-Forceとマクロミルが共同研究の成果を発表した「NPI(次回購買意向)も」話題に上りました。発表の詳細は下記を参照いただきつつ、NPS、満足度、N=1、次回利用意向…様々な評価手法やKPI項目が存在する中、自社でどんな項目を意識的に選び取れるか、調査担当者は意識しておきたい点です。

▼ NPI(次回購買意向)|マクロミル(マーケティングのKPI寄与度に関する研究)

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▼ ⑤ウェビナーの増加・多様化

ここまで様々なリサーチトレンドを振り返ってきましたが、業界内の目に見える大きな変化と言えば、上記で取り上げてきた各テーマを含む「ウェビナーの増加・多様化」です。

もともと調査業界では参加者オープンのセミナーが充実していたとは言い難く、調査手法・分析手法を研修形式で学ぶタイプのものがほとんどでした。それがどのように変わってきたのか、例をいくつか見てみましょう。

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▼ ウェビナー番組表|クロス・マーケティング

大手調査会社・クロス・マーケティングでは、月間15件以上の開催数をウリにしていて、開催テーマのバリエーションも、調査技能の基礎講座、アンケートツール活用講座、LINEリサーチのコラボ講座、ホワイトペーパー解説講座、とかなり豊富です。

調査会社では近年、大手による調査領域や調査手法の総合化が進んでおり、グループの強みを活かしたラインナップになっています。急激なインサイドセールス運営へのシフトは大変かと思いますが、生配信と録画の使い分けも演出のアクセントですね。

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▼ インテージフォーラム|インテージ

大手調査会社・インテージでは、自社グループでのフォーラムも開催しています。もともとマーケティング領域全般に対応できるグループの総力を結集したセッション構成で、マス広告・ネット・定性・店頭・グローバルという特色がよく表れています。

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▼ リサーチャー独占!個社別セミナー|アスマーク

大手調査会社・アスマークでは業界団体のセミナーでも講演実績のある、リサーチマネージャーの方をはじめとするリサーチャースタッフによる、個社の部署やチームの粒度に合わせて相談に応じるセミナーへの取り組みが始まっています。

こうした貸切型のセミナーは、SNS・クチコミの活用と共に湧いたウェブサービスの成長期(2008年~2012年頃)にかなり流行しましたが、テーマ型のウェビナーがもはや主流となったいま、一周して新鮮なリサーチセミナーの企画の切り口に映ります。

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ウェビナー開催の潮流を支えているのが、各社でスピーカーを務めるフロントリサーチャーの存在です。これまでは、ゲストによる講演+営業部長の説明というスタイルが主だったのが、上記のように自社リサーチャーを起用する開催形式が目立ちます。

大きなマーケティングのカンファレンスで、調査会社の登壇者を目にする機会はあまりありませんが、こうした形で、社内や業界で積み上げた研究実績を持ちつつ、プリセールスの場でスポークスパーソンとして活躍する調査人材も重宝されることでしょう。

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あとがき

こうして一年を振り返ってみると、2021年はリサーチの話題が身近になる機会が増えたことを肌で実感した年でした。業界従事者・職務従事者・調査依頼主、それぞれの努力によって、マーケティングの重点分野としていっそう世の中に認識された感があります。

一方、需要や裾野が急速に広がる中で、新たに直面している業界・職務課題もあります。詳細はまた別の機会に預けますが、そうした新しい課題も健全な成長の中で発生するものであり、これもまた調査活動そのものが認知されてきている証だと思っています。

今年も一年、noteをご覧いただきありがとうございました。最近は個人活動を再構築していく中でnoteとは少し距離を置いてきましたが、試行錯誤しながらもこの発信基地をどう活かすのか見えてきたところです。2022年もリサーチの記事でお会いしましょう!

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▼ 出演イベントのお知らせ

その1:リサーチのトレンド

この記事の内容を含む「リサーチのトレンド」セミナーが、株式会社ヴァリューズ主催で開催されます。当日はヴァリューズのリサーチャーとして様々なクライアントの調査業務を手掛ける海野さんと一緒に、2021年の振り返り~2022年の展望をセッション形式でお話します。新年に皆さんとリサーチについて考える機会を私も楽しみにしています!

▼ リサーチャー菅原大介さんと考える、2021年の象徴的なリサーチ・トレンドと2022年の潮流|ヴァリューズ
2022/1/11(火)17:00-18:00 @オンライン(参加無料)※法人対象

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その2:情報収集

新年のSchoo授業もエントリー受付中!こちらはリサーチャーの情報収集(デスクリサーチ)をテーマに、世の中のトレンドをキャッチアップしたり、消費者のインサイトを理解する方法をお伝えします。私が日頃実践していて、特別な準備の必要がない、Twitter/Instagram/YouTube/雑誌などのメディアウォッチング習慣をお話するのでお楽しみに◎

▼ 情報感度を高める-プロのリサーチャーが行うメディアウォッチ習慣-|Schoo
2022/1/10(月)20:00-21:00 @オンライン(生放送は視聴無料)


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