この調査リリースがすごい!~リサーチPRが上手い企業の特徴~

「調査を活用してサービス広報を強化したい」、それと同時に、「調査的にも間違いのないデータを出したい」―調査会社在籍時から事業会社勤務の今に至るまで、8名ほどの広報担当者と一緒に仕事をしてきて、初めに聴く目的や動機がこの言葉でした。

調査データを活用してプレスリリースを行う「調査リリース」業務は、別の専門領域であるリサーチ技能を問われる特異な業務です。実施頻度で言えば毎月かそれに準じたサイクルであるにも関わらず、どこかでやり方を習う機会も一般的にはありません。

また昨今は、限定的・恣意的な実施要件や分析方法で調べた、自社に有利な「No.1調査」が公正さを欠いているということも重要論点になり、正に冒頭の言葉以上に自社のプロモーションと調査データ品質とのバランスを保つ技能が求められる時代です。

しかしそれではいったい、自社の優位性と公平なデータが両立するプレスリリースとはどのようなものなのか?―これは難題です。PR調査の主な実施主体である事業会社・広告代理店・PR会社では、それぞれの立場により視界が狭まる傾向があるからです。

そこで今回は、ある時は調査会社の調査スタッフとして、ある時は事業会社の広報スタッフとして、私が調査リリース業務にかれこれ15年ほど携わっている中で、とても優れたリサーチPRに感銘を受けた直近の研究事例10件を取り上げてみたいと思います。

加えてこのたび、調査会社のクロス・マーケティングさん主催で、広報担当者向けリサーチ講座を開催することとなり、調査リリースの企画・作成のポイントをゲストスピーチさせていただきます。記事の最後に告知がありますので、こちらもお楽しみに!

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▼ ①メルカリ


フリマアプリのメルカリは、「引っ越し実態調査」をリリースしています。

2020年3月2日のニュースリリースより
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000090.000026386.html

この調査では、「引っ越しのニーズを定量的に実証するデータ」「行動を喚起する質問群」が見どころです。

メルカリ

リードデータ「引っ越し時にやっておけばよかったと思うこと」では、①不用品処分(33%)をはじめ、上位には、荷造り・掃除・粗大ゴミなど家の中のモノを整理する項目が並び、実施者の後悔ベースで現実的な準備にあたり大切なことを導いています。

その他、不用品のカテゴリー比率として、①アパレル(55%)③ラグ(44%)④カーテン(43%)等のモノ情報や、売却方法と売却利益の質問では①フリマアプリ(9787円)の利用実績データがあり、生活者が実行動で参考になる情報が提供されています。

このリリースは、春期の引越し商戦期と完全に同期する形で、宅配事業のヤマトと提携するサービス「たのメル便」のサービスインに伴って公表されました。新サービス×シーズナルトピックスをマッチさせて二次流通市場を広げる素晴らしい展開ですね。

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▼ ②ミクシィ


スマホゲームやウェブツールを運営するミクシィは、「スポーツとコミュニケーションに関する調査」をリリースしています。

2019年7月10日のニュースリリースより
https://mixi.co.jp/press/2019/0710/3838/index.html

この調査では、「ユーザーの行動変化を多軸で検証している点」「サービスブランドの世界観や未来像を発信している点」が見どころです。

ミクシィ

リリースの中身は、最も好きなスポーツ観戦のスタイル、特定のスポーツチームや選手を好きになった時にとる行動、スポーツ観戦後に会話で盛り上がる内容、友人との仲が深まったり新しい友人ができた経験、などの質問データから構成されています。

調査結果からは、スポーツのファンが試合や情報を通じて実に様々なアクションを取っている状況がわかり、全年代でコミュニケーションが活性化されている様子が伝わってきます。(この他にも国際コミュニケーション体験に関する質問もありました)

ミクシィは企業ミッションに「フォー・コミュニケーション」を掲げ、現在スポーツのクラブチームへの協賛や経営を行っています。その方針を公表・強化していたのがまさにこのリリース期にあたり、事業方針を普及させる取り組みになっていました。

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▼ ③セイコー

時計・計器メーカーのセイコーは、「時間白書2021」をリリースしています。

2020年6月8日のニュースリリースより
https://www.seiko.co.jp/timewhitepaper/2021/detail.html

この調査では、「時間の概念価値を『意義・単価・速度』などの観点から計測している点」が見どころです。

セイコー

リリースのハイライトは、コロナ禍で減って良かった時間(飲み会・通勤など)、オフタイムの時間単価(上昇傾向)、例年を1とした時の体感速度(学生は2.5倍)、大切な時間帯(金土の夜・月曜の朝)、生活を表す言葉(粛々)など盛りだくさんです。

コロナ禍に関する調査リリースは数多くあれど、おそらくほとんど他と被っていない話題で構成されており、時間に関する広さと深みのある調査内容となっています。世の中のトレンドは取り入れていても、事業から外れないスタンスは筋が通っています。

セイコーは、ブランドのタグライン(ロゴマークに付記するキャッチコピー)に「時代とハートを動かすSEIKO」を掲げており、この「時間白書」についても時代観を捉える真面目さはありつつ、どことなくユーモアも感じるあたりがすごくハマっています。

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▼ ④ディップ

求人情報サイト「バイトル」を運営するディップは、「年末年始の期間限定アルバイト就業意欲調査」をリリースしています。

2019年11月29日のニュースリリースより
https://www.baitoru.com/dipsouken/all/detail/id=375

この調査では、「労働市場のピーク期を調査対象としていること」「社会情勢を汲んだ企画になっているところ」が見どころです。

ディップ

調査背景を見てみると、リリース時に強くあった社会情勢として、コンビニ・ファミレスなどの小売・サービス業において働き手不足が深刻になり、深夜営業における従業員の過労や強盗事件の問題もあったことから、24時間営業を見直す動きがありました。

そうした社会情勢を踏まえて迎えるクリスマス~年末年始のホリデーシーズンは、一方でもともと例年最も人手が必要とされる時期です。リリースでは、年末年始の期間限定の就業意欲(38.1%)をはじめとする求職者のニーズや特性をレポートしています。

このリリースは、自社の事業領域(求人サービス)における季節テーマ(最繁忙期)を研究対象にしていることはもちろん、多様な働き方(就業領域や就業形態)を提案するサービスを通じて労働社会を支える大義にも適っている点で見事な企画と言えます。

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▼ ⑤キングジム


文具メーカーのキングジムは、「新入園・新入学準備のお名前付けに関する意識調査」をリリースしています。

2021年2月2日のニュースリリースより
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000487.000000288.html

この調査では、「新生活の準備を進める時期の情報鮮度が高いこと」「準備をするに当たって親の困り事を数値で可視化しているところ」が見どころです。

キングジム

リリースのハイライトは、新入園・新入学準備で大変だったこと:①持ち物へのお名前付け(88%)、お名前付けした持ち物の点数:21個以上~(71%)、コロナ禍で特に意識してお名前付けしたアイテム=マスク・衛生用品、という内容になっています。

リリースが発信されている2月以降は、新生活準備が活発になる時期です。加えて、施設側の公表を待つ関係で3月に準備が集中することや、コロナ禍において留意すべき事項を伝えており、同じ立場の保護者にとって鮮度が高い情報が提供されています。

そして上記のトピックスはすべて定量的に検証されているため、どんなことでどれくらい手間を要するのかがわかります。このリリースはラベルライター商品「テプラ」の利便性を訴求する目的で出されていますが、その背景が十分にわかる調査結果です。

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▼ ⑥クックパッド


レシピサイトのクックパッドは、「2020年バレンタインに関する調査」をリリースしています。

2020年1月22日のニュースリリースより
https://info.cookpad.com/pr/news/press_2020_0122

この調査では、「手作りバレンタインに焦点を当てていること」「自社で蓄積している情報ソースを上手く活用しているところ」が見どころです。

クックパッド

テーマは調査リリースの中でも定番中の定番と言えるバレンタインですが、クックパッドは基幹事業が食のメディアそのものなので、皆がこぞって調査対象とする王道のテーマであっても、自社が取り扱うことで信用力や期待感を担保することができます。

内容的にもクックパッド流の企画が光っており、「手作りバレンタイン」に焦点を当てて、手作りをする予定、手作りをする理由、手作りしたいメニュー、食べたい手作り食感など、レシピやデータベースのサービスとつながるトピックスが展開されています。

また、このリリースの後には、鍋・ホットプレートを使った料理やお菓子づくりなどに代表される「おうち料理」ブームが来ており、自社の情報資産を活かし自社ならではの企画で勝負することで、時代に先駆けて動くことができることを教えてくれます。

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▼ ⑦SHE


キャリアスクールコミュニティを運営するSHEは、「働く女性へ向けた新型コロナによるキャリアへの影響調査」をリリースしています。

2020年4月8日のニュースリリースより
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000049.000027564.html

この調査では、「女性のキャリアに焦点を当てているところ」「女性が多い職場の回答が集まっているところ」が見どころです。

画像6

リリースの中身は、企業に依存しない生き方を検討(53%)、副業を始めたい(82%)、新しく興味・関心が湧いたこと=自己投資やリモート職種、などの質問データから構成されています。いずれも女性に多く見られる生き方で納得感があるデータです。

この調査の回答者数は必ずしも多くはないのですが(n=184)、質問や分析の各段階で女性のキャリアにしっかりと焦点を当てることで調査対象者層(働く女性)の仕事への志向性を鮮明に伝えることができており、対象者の偏りを上手く活かしています。

また自由回答では、自宅サロン(美容・料理・運動などの分野に多い業態)を運営する人の回答も見られ、女性の従事比率が高い職場の回答や独立志向が強い女性のキャリア観がわかるのは、まさに「SHEならではの調査リリース」ということができます。

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▼ ⑧大幸薬品


正露丸・クレベリンで知られる製薬会社の大幸薬品は、 「正露丸のにおいの認知に関する調査」をリリースしています。

2021年12月2日のニュースリリースより
https://www.seirogan.co.jp/internal/uploads/arrival/pdf_643.pdf

この調査では、「絶対不利な好意度調査を企画していること」「臭いは強いが薬は効くイメージを再周知しているところ」が見どころです。

大幸薬品

リードデータ「あなたは正露丸のにおいが好きですか」では、調査対象者全体では「嫌い(嫌い+やや嫌い)」(54%)という結果をさらけ出し、また20代においては「嗅いだことがない」(20%)という商品の特徴認知度の低さも堂々と公開しています。

このリリースは、大手ニュースサイトが取り上げたことでSNS上でも非常に拡散され、ある人は臭いの強烈さを思い出したり、またある人は若年層認知度の低さに驚いたり、リリースをきっかけに正露丸商品について様々な反応を呼び起こしていました。

大幸薬品の担当者への取材記事によると、この回答結果は織り込み済みで、あえて「臭いけど効く」イメージを再周知したかったようです。経営者に胆力がなければ真似できないやり方ですが、ネガティブなパブリックイメージを認知PRに活かす英断です。

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▼ ⑨LIFULL


不動産ポータルサイト「HOME'S」を運営するLIFULLは、「2021年 LIFULL HOME'S 住みたい街ランキング」をリリースしています。

2021年2月9日のニュースリリースより
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000179.000033058.html

この調査では、「ひと目でリリース趣旨がわかるタイトルサムネイル画像」が見どころです。サムネイルの構成要素は、調査テーマのテキスト+アワード風のあしらいなので非常にシンプルですが、オーソドックスだからこそ情報伝達力に優れています。

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まず、発信テーマ:住みたい街ランキングが一目瞭然です。いろいろなリリースが並ぶプレスリリースの一覧画面で、画像サイズが小さくなってもはっきりと趣旨を認識できます。テーマそのものを訴求するサムネイルの役割がきちんと果たされています。

次に、画像内の文字をはっきりと認識することができます。調査リリースでは、リードに合わせて煽り文字が入ったり、イメージ画像をリスペクトしすぎて調査タイトルが小さいケースも散見されますが、読み取れる文字の量と大きさに収まっています。

そして、ブランドカラーのオレンジで配色が統一されています。LIFULLは定点調査(定期調査)で毎年このランキングを発信しているため、共通のデザインパターンを使用していることで、関心を持っている人から思い返してもらいやすくなっています。

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▼ ⑩LINEリサーチ


LINEユーザーを対象にした調査サービスを提供しているLINEリサーチでは、「人気K-POPグループ「BTS」って知ってる?調査」をリリースしています。

2021年8月19日のブログメディアより
https://research-platform.line.me/archives/38512697.html
https://twitter.com/LINESurveys_JP/status/1428265476765913095

この調査では、「SNS上で拡散されるためのサムネイル画像の工夫」が見どころです。LINEリサーチは通常のプレスリリースを公表するほかに、Twitterでリリースの見どころを発信しており、ネットユーザーに訴求・拡散してもらう工夫を凝らしています。

LINEリサーチ

例示はBTSをテーマにした調査内容で、ツイートの画像部分を見ていただいた通り、この調査最大のトピックスであるBTSの魅力をランキング図表によりひと目で参照することができ、SNSユーザーの目に留まりやすいよう情報と情報量が洗練されています。

細かくポイントを見ていくと、①ランキングの数表データにより調査データの話だとわかる、②1位の項目だけはシークレットになっている、③音楽テーマに関連するマイクのアイコンをあしらっているなど、理解・関心を引き出す仕掛けが施されています。

リリースページに相当するブログメディア側では、タイトル画像にはイメージ画像が使われており、SNSで使用されている画像は、やはり誘導を強化するためにひと手間かけて作成されたものなのだとわかります。告知方法にも広報力が光る事例と言えます。

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▼ 調査リリースのメリット


ここまで取り上げてきた調査リリースのメリットを、広報担当者視点でまとめると下記のようになります。組織によって広報の役割や目標は異なりますが、取り組んだ分だけ失敗も成功も血肉になる良さがこの業務にはあるので、ぜひトライしてくださいね!

<調査リリースのメリット>
①自分で仕掛けられる
②データを確保できる
③広告費換算しやすい

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メリット①自分で仕掛けられる

①自分で仕掛けられる

私が最も強力だと思っているメリットが「自分で仕掛けられる」ことです。広報には、サービス広報や企業広報を通じて、事業方針や企業理念をアピールしていくミッションがありますが、調査リリースは積極的に仕掛けていく時の訴求材料になります。

そして仕掛けた先には、日頃懇意にしている媒体以外を含む特色豊かなマスメディアや、記者・ディレクター・制作会社との出逢いがあり、その中にはトレンドデータを常時企画化している媒体もあるので、継続的に連絡を取り合う仕組みにもなります。

さらにデータをプレスルームや配信ワイヤーでストックコンテンツ化していくと、メディア側からも問合せが来ますので、インバウンドの対応で済む状況も少しづつ増えていきます。(リリース時点で結果が出てなくても1年以内なら見込みがあります)

部署で主体的に情報発信して問合せを受ける―この環境を広報の他業務でつくるのがいかに難しいかは言うまでもありません。イレギュラー対応が多い職務特性がある中、調査リリースは安定的に計画・運用できる定常業務に位置づけることができます。

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メリット②データを確保できる

②データを確保できる

続いて地味に嬉しいメリットが「データを確保できる」ことです。ここで言うデータとは、自社のユーザーデータ(プロファイルなど)、事業に関連するデータ(カテゴリ実績など)、ランキング式のデータ(社会トレンドなど)などを指して言います。

もちろん広報であれば一般職よりもはるかに会社情報・事業情報にアクセスすることができると思いますが、それでも、組織図上の業務管掌による閲覧制限、データツールのアカウント管理上の制限などにより、参照できないデータも多々あるでしょう。

また、データを収集する多くのケースでは、事業部門や分析部門の担当者にデータ抽出依頼をすることになりますが、依頼フローが複雑、希望スケジュールが合わない、見たい形式ではデータを出力できない、など、データを確保する時点で難儀します。

調査リリースであれば、業務を通じて様々なデータを取得することができ、対象者や分析軸も含めて自由にデータを企画することができます。業務で得たデータは当該業務のみならず、会社概要などの広報マテリアルの制作にも活用することができます。

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メリット③広告費換算しやすい

③広告費換算しやすい

最後に、目標管理視点では欠かせない「広告費換算しやすい」ことです。広報部門の目標管理には、何らかの形で広告費に換算した時の成果目標が定まっています。職種のキャリア上もファクトベースの実績を残せるため皆が注力している目標指標です。

しかし、広告費換算できるような仕事はそうめったに訪れません。業界を代表するメガ企業でもなければ、大型宣伝の機会も年に1回あるかないかくらいです。そのうえ、受けの仕事が多いため、調整負荷の割に成果は不透明であることもしばしばです。

そんなハードルがある中で、調査リリースは広告費換算の中でも最も金額価値が高いテレビ露出をねらうことができます。テレビは最旬の社会トレンドを流動的に追い続けているため、発信するリリースの中身が的を得ていれば掲載確率は一定あります。

またウェブメディアではリリースが引用されやすい傾向があるため、掲載実績を量産できることもポイントです。単発で大きな成果も重要ですが、社内アピールの観点では量もまた重要です。そしてこれらの実績を出すのにかかる原資はローコストです。

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