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ジョイナー・ルーカス、新アルバムで描く「映画のような音楽」とは『Not Now I'm Busy』

本日紹介するJoyner Lucas(ジョイナー・ルーカス)は、マサチューセッツ州ウースター出身のラッパーで、2015年に発表したミックステープ『Along Came Joyner』で注目を浴び、その才能が認められてAtlantic Recordsと契約を結びました。
2017年には、白人と黒人の両視点から社会や人種関係について歌ったシングル『I'm Not Racist』(2017)をリリースし、批評家から高い評価を受けました。この曲のミュージックビデオはグラミー賞「最優秀ミュージックビデオ賞」にノミネートされ、彼の音楽キャリアにおいて重要な役割を果たしました。

その後、Atlantic Recordsとの契約を解消し、2020年には幼少期にADHDと診断された自らの経験に基づいて制作されたデビューアルバム『ADHD』をリリース。このアルバムでは、過去に対立していたロジックとのコラボレーションが実現し、二人の和解が大きな話題を呼びました。

さらにジョイナー・ルーカスは、憧れの存在であるエミネムのアルバム『Kamikaze』にゲスト参加しました。エミネムが過去に「お気に入りの若手ラッパー」としてジョイナーの名前を挙げたこともあり、彼の才能が広く認められるきっかけとなりました。また、J・コールミーク・ミルとのコラボレーションでも高い評価を受けています。

そして2024年3月、彼は4年ぶりとなるセカンドアルバム『Not Now I’m Busy』をリリースしました。本稿では、ジョイナー・ルーカスの最新作にスポットを当て、その魅力と成果に深く迫ります。

レーベル  : Tully & Twenty Nine Music Group
リリース日 : 2024年3月22日
名前    : Joyner Lucas
本名    :    Gary Maurice Lucas
年齢    :    35歳
出身地   :    マサチューセッツ州ウースター


俳優デビューを飾る

ジョイナー・ルーカスは、アルバム『ADHD』リリース後の同年に、EP『Evolution』を発表しました。このEPには、J・コールフューチャーリル・ダークなどのコラボレーションシングルを含む10曲が収録されています。

音楽活動だけでなく、2023年にはコメディ映画『The Family Plan』で俳優としてデビューを飾りました。この映画で、アカデミー賞やゴールデングローブ賞を受賞した実力派俳優、マーク・ウォールバーグとの共演を果たし、その経験が彼の人生に大きな影響を与えました。

マーク・ウォールバーグが、僕がシングル「Will」をリリースした時に連絡をくれたんだ。彼は僕をLAの自宅に招待して、ビリヤードをしたりリラックスしたりして、いい関係を築いてくれたよ。本当に人間として僕のことを気にかけてくれて、何でもサポートしてくれるんだ。僕がエージェンシーでトラブルに遭った時も、すぐに手を差し伸べてくれて、「ジョイナーのために何かしなきゃ」と言ってくれたんだ。映画の話もよく彼に聞いたし、「Zim Zimma」のミュージックビデオには彼に出演してもらったよ。
彼は僕を巻き込んでクールな役をくれて、ちゃんとしたギャラももらった。いくつかセリフを言うシーンもあったし、映画の大部分に出たんだ。彼との短いシーンでは、目にナイフが刺さるというシーンもあって、本当にクールな体験だったよ。

ジョイナー・ルーカスマーク・ウォールバーグを兄のように尊敬していて、マークもまた、年齢では一回り以上若いジョイナーを、同じマサチューセッツ州出身として、彼の成功を心から応援しているようです。

マーク・ウォールバーグは本当に素晴らしい男だよ。まるでもう一人の兄みたいな存在さ。俺たちは本当に純粋な友情で結ばれているんだ。何でも話せるんだよ。彼は、地方行政の話から映画の話まで、俺ができるだけ多くのことに関わることを望んでくれているんだ。俺たちの出身地マサチューセッツ州から、彼が支持できる誰かが出てくることに、彼は本当に興奮しているんだと思う。

ウィル・スミスの教え:失敗を恐れるな

前作『ADHD』において、ジョイナー・ルーカスは自身が最も影響を受けた俳優、ウィル・スミスに敬意を表した曲『Will』を収録しました。この曲がリリースされた数ヶ月後、ウィル・スミス本人が参加するリミックス版が実現し、大きな話題となりました。

さらに、前述のマーク・ウォールバーグとの映画出演もあり、ジョイナー・ルーカスウィル・スミス主演の人気映画『バッドボーイズ』の続編である、2024年6月に公開予定の映画『バッドボーイズ RIDE OR DIE』に出演することが決定しています。

ジョイナー・ルーカスは、ウィル・スミスを「メンター」として慕っており、彼は2年前のアカデミー賞授賞式で司会者に平手打ちしたことで一部から批判を受けましたが、それでも彼を尊敬し続けているようです。

ウィルは俺にとってメンターであり、いつも俺のヒーローだった。子供の時からずっと憧れている人物だよ。人間は誰でも間違いを犯すもので、ウィルが過ちを犯したからといって、彼が俺のヒーローやメンターでなくなるわけじゃない。むしろ、彼が自分の過ちを認め、正しいことをしようと努力する姿勢は、俺が彼をさらに尊敬する理由になっているんだ。

また、ジョイナー・ルーカスは、ウィル・スミスからのアドバイスを受け、失敗を恐れずに前進することの重要性を学んだようです。彼はこれまで失敗を恐れる傾向がありましたが、ウィル・スミスが過去に何度も失敗を経験し、それにもかかわらず成功を収めてきたことを知り、大きな勇気と影響を受けています。

ウィル・スミスが俺に言ったのは「失敗を恐れるな」ということだ。俺はいつも失敗を恐れてきたけど、失敗したとみんなに言われるのは俺の責任だ。彼らは(俺のマネージャーの)ドリューじゃなくて、ジョイナーを見て、「お前がやらかした」と言うんだ。俺が前に出なきゃならないから、プレッシャーは全部俺にかかる。
ウィル自身、何度も失敗してる。俺たちはそのことを知らないが、彼にとっての失敗を俺は失敗とは見ていない。例えば、彼は映画『ワイルド・ワイルド・ウェスト』を嫌っている。その理由は、たぶんあの映画の出来が悪かったからだろう。『メン・イン・ブラック』と比べると、『ワイルド・ワイルド・ウェスト』は成功しなかった。彼にとっては、『ワイルド・ワイルド・ウェスト』での選択が大失敗だったんだ。
彼は『マトリックス』でネオを演じる選択肢があったのに『ワイルド・ワイルド・ウェスト』を選んだと言っていた。それは彼にとって大きな間違いだった。彼はまだ映画に出演している。彼はまだウィルであり、違う視点で見ているんだ。

収録曲について

俳優業と並行して、ジョイナー・ルーカスが発表した新アルバム『Not Now I’m Busy』は、映画のようなストーリーテリングや演出があり、聴く人がまるで映画を見ているかのような感覚を味わえると彼は述べています。

『Not Now, I'm Busy』は、まるで映画のようなアルバムだよ。
アルバムを通して、まるで映画を見ているような感覚を味わえる。
その感じを出すことが目標だったし、実は『Along Came Joyner』(2015年のミックステープ)からずっとそうやってきたんだ。このアルバムは、まるで劇場での演出のようなもの。文字通り、映画を聴いているような気分にさせるんだ。映画は俺の大好きな趣味だから、もし自分で映画を作れるなら、どんな作品になるか、どんなサウンドが流れるか、どんな俳優が出演するか、そんなことを考えながら作った。それがこのアルバムなんだ。

今作には全17曲が収録されており、客演にはロジックDMXConway the MachineTwistaYoungBoy Never Broke Againなど、ラップシーンの中でも色濃いメンバーが参加しています。

『I’m Ill』

2曲目に収録された『I’m Ill』は、1985年のアメリカのポップスグループ、Lisa Lisa and Cult Jamのヒット曲『Can You Feel the Beat』を大胆にサンプリングしています。この曲でジョイナー・ルーカスは、自己の内面や人生の経験を率直に語ります。彼は自身の心のリズムや愛について語り、成功や成長への道で遭遇する困難を乗り越える姿勢を示しています。

Joyner Lucas - I'm Ill

Lisa Lisa and Cult - Can You Feel the Beat (1985)

『Best For Me』

10曲目『Best For Me』は、テネシー州アンティオーク出身のシンガー兼ラッパー、Jelly Rollとのコラボ曲です。ジョイナー・ルーカスの母親はJelly Rollの大ファンであり、彼のポジティブなエネルギーや乗り越えた困難に触れ、自身もそのような人間になりたいと感じています。

Jelly Rollは素晴らしい人だよ。俺の母も彼が大好きなんだ。また彼は俺の大ファンでもあるんだ。俺たちも今、たくさんの楽曲を制作中なんだ。彼と一緒に仕事をするのは楽しい。彼のオーラと、彼が掲げるものすべてが好きなんだ。彼はいろいろなことを経験してきたけど、それを乗り越えて、今は本当に前向きな人なんだ。
俺もそうありたいよ。俺は後ろ向きに成長している。前向きに成長する人もいるけど、俺は後退しているね。彼は※オピオイド危機についてよく話するけれど、俺の家族にも問題を抱えた人が何人かいて、これは俺たち二人にとって非常に個人的なテーマだったんだ。多くの人に受け入れてもらえるといいなと思ってる。

※オピオイド危機
合法的に処方された鎮痛剤の継続的な摂取によって常習性を生み出してしまい、その結果非合法な方法でオピオイドを入手したり、ヘロインのような非合法な薬物に手を染めたりしてしまうこと。

この曲では、愛する人が薬物依存に苦しむ様が描かれています。Jelly Rollのパートでは、愛する人の依存症によって関係が崩れ、絶望と助けを求める悲しみが表現されています。一方で、ジョイナー・ルーカスのパートでは、彼自身が依存症に苦しむ立場から自らの葛藤や愛する人へのサポートに対する複雑な感情を綴っています。

Joyner Lucas feat. Jelly Roll - Best For Me

『I Didn’t Go』

11曲目『I Didn’t Go』は、2021年4月にこの世を去ったラッパーのDMXSymbaとの曲です。ジョイナー・ルーカスは、亡くなる1年前にDMXと交流があったことを明かしています。

Xとしばらく一緒に過ごしたよ。彼と知り合い、彼の人生についてたくさん質問する機会があった。彼が亡くなる前、たぶん1年くらい前だったと思う。あの曲を聴くと、なんだか彼がまだ生きているように聞こえるでしょ?みんながあのバースを聴いてくれると嬉しいよ。

この楽曲では、成功への道、個人の信念、そして社会的不平等に言及しています。ジョイナー・ルーカスは成功への渇望とその影響に焦点を当て、Symbaは人々の視点や社会問題を掘り下げます。一方、DMXは信仰と感謝の大切さを際立たせ、人生の挑戦にどう向き合うかについてラップしています。

Joyner Lucas feat. Symba & DMX - I Didn't Go

『Seventeen』

15曲目『Seventeen』は、2023年9月に先行シングルとしてリリースされました。この曲は、故マック・ミラーに捧げられたものであり、ジョイナー・ルーカスはイントロで「Rest in peace Mac Miller」と語っています。そして、この曲はマック・ミラーが2011年に発表した『Donald Trump』をイントロからサンプリングしており、ジョイナー・ルーカスは次のように語っています。

あのビートがずっと好きだったし、あの曲もずっと好きだった。マック・ミラーはずっと好きだよ。彼は素晴らしかった。彼もまた『Best for Me』で話したようなことが原因で亡くなってしまった。あの曲をサンプリングして、やりたいことをやって、彼をシャウトする機会を得たんだ。

Joyner Lucas - Seventeen

おわりに

ジョイナー・ルーカスは新アルバムについて、自己の進化と成長をテーマに掲げており、以前のプロジェクトがポジティブで啓発的であったのに対し、今回は自分の新たなトラウマを通じて新しい自分に向かっていると述べています。

アルバム「Not Now I'm Busy」のテーマは、本当の進化についてなんだ。前回のプロジェクトでは、もっと啓発的でポジティブな方向を目指していたけど、このアルバムでは一見逆戻りしているようで、その実、進化の一環なんだ。俺が学んだことや以前の自分はもう過去のものとして捨て去る、というメッセージが込められているんだよ。新たなトラウマを経て変化した自分、新たな人生の段階に踏み出そうとしているから。だからアルバムのジャケットには、俺の顔に血がついているんだ。これは、古い自分を殺して新しい自分に生まれ変わるという強烈な比喩を表しているんだ。このアルバムを通じて伝えたいのは、自分の変化、すなわち脱皮を恐れることなく受け入れるべきだということ。経験が今の自分を形作っているんだから、誰もが自分の進化を恐れることなく進んでいくべきなんだ。

近年の音楽業界は、ストリーミングサービスやSNSの普及により、楽曲の長さが短くなる傾向にあります。
(曲が短い方が繰り返しやすく、再生数が上がる)
しかし、ジョイナー・ルーカスの新作アルバム『Not Now I'm Busy』は、全17曲すべてが3分を超える長さを誇り、総再生時間は60分を超える圧倒的なボリュームで構成されています。前作『ADHD』でも、スキットを除いた全曲が3分以上でした。

彼は、売れることより伝えることを優先し、その強力なメッセージはただの音楽を超え「映画」のように人々の心に直接深く刺さります。
音楽を通じて彼は、リスナーに自身の内面と向き合う機会を与え、「自分の変化を恐れず、新しい自己を受け入れる」という力強いメッセージを伝えているのです。

『Not Now I'm Busy』を耳にすれば、ジョイナー・ルーカスの創造する世界に引き込まれること間違いなしです。彼のリリックは、人生の試練と成長の瞬間を鮮やかに描き出し、リスナー達に深い感動を与えることでしょう。

今回紹介した楽曲のDJプロモーション音源はこちら⬇️⬇️⬇️

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