ニトリの島忠買収は「超友好的TOB」
10月2日にホームセンター大手のDCMは同業の島忠に対してTOBを発表し、島忠経営陣はこれに賛成しました。いわゆる「友好的TOB」です。
10月29日、これに対しニトリも島忠に対しTOBを表明しています。島忠経営陣はDCM案に対して賛同を表明しており、このニトリ案に反対するならば「敵対的TOB」に発展します。
ちなみに、TOBとは「株式公開買付」のことです。価格や買取株式数を公告した上で、既存株主から株式を大量に買い付けることを意味します。
誤解されがちな株主
ところで、日経新聞などでよく登場する誤解されがちな言葉として、「もの言う株主」と「敵対的TOB」があると考えています。
「もの言う株主」と聞くとなんとなく悪い印象で、自分たちだけのために文句を言う株主、金儲けだけを考えている株主という印象があるように感じています。
しかし、実際は株式保有先企業の経営陣に積極的に提言をおこない、企業価値の向上を目指す株主のことであり、良いとか悪いとかではなく、単純にそのようなタイプの投資家というだけです。
そして「敵対的TOB」も、攻撃的でいかにも悪い印象です。会社を乗っ取ってやろう感が満載の字面です。
実際は、対象企業の現経営陣の経営方針と一致していないという意味で「敵対的」なだけであって、株主や従業員などのその他利害関係者に対して「敵対的」なわけではありません。
「もの言う株主」と「敵対的TOB」は常々もっといい言葉ないかなと感じています。なので今後もしつこく言っていきます。
超友好的TOB
話を戻します。
今回最も言いたいことは、ニトリによるTOBは、「超友好的TOB」だということです。
「え、経営陣が賛成してないのに友好的TOB?」
「超って何?」
と思うかもしれませんが、「超友好的TOB」は私の造語です。
これは経営陣に対して友好的という意味ではなく、島忠の株主に対して友好的という意味です。しかも「超」。
株価算定
今回のTOBのような場合、買い手も買われる方も、その買取り予定価格が適正価格の範囲内であること第三者に頼んで計算してもらい、その結果を公表します。
買い手も買われる方も、彼らの既存株主に対して、その買取価格が適正な範囲内の金額であることを伝えるなどの目的があるためです。
そして、その算定結果を一覧にしてニトリが公表しています。
島忠株の株価について、DCMのアドバイザーであるSMBC日興、島忠のアドバイザーである野村證券、そして独立した第三者のプルータスの3社の金額が公表されています。
「市場価格法」や「DCF法」など色々書いてありますが、株価算定には唯一絶対の計算方法はないため、複数の計算方法で計算したということです。
単一の株価でなく、レンジ(例えば2,894円-2,945円など)で算定結果を出すのも特徴です。
(出典:株式会社ニトリホールディングス「株式会社島忠への公開買付けを通じた経営統合及び完全子会社化のご提案に関する説明資料」)
3社のアドバイザーの算定結果を合算して下限と上限を見ると、下は2,217円から上は4,837円までという結果になります。
そして、今回DCMは株価4,200円で買収しますよ、という提案しているわけです。
アドバイザーの算定結果の上限に近い数値ですよね。
お値段以上ニトリ
ところが、ニトリの出してきた金額に一同驚愕しました。
というのは、上記算定結果の上限を大きく超える5,500円で買いますよ、と言ってきたからです。
ニトリのアドバイザーである大和証券の算定結果では上限5,763円となっており、ギリギリこの範囲内です。
このように、誰が計算するか、誰に頼まれるか、計算の目的、計算方法、計算の前提などによって算定結果が大きく異なることは一般的です。
しかし、今回のようなパターンはそう多くありません。
これを島忠の既存株主の立場で考えると、DCMは「4,200円で買いますよ」と言ってきているのに対し、ニトリは「ウチは5,500円で買いますよ」と言ってきているわけです。
つまり、多くの株主にとってみればニトリの買収提案は「超友好的TOB」に感じる訳です。
まさにお値段以上ニトリですね。流石です。
もちろん、買収後会社をバラバラにして切り売りして短期的に儲けたいだけであったり、不必要なリストラで従業員の待遇を大幅に悪化させたり、サービスレベルを落としたりといったことが想定されるのであれば、たとえ高い金額で買い取られたとしても喜ばない株主は多いでしょう。
ただ、言うまでもなくニトリはそのような会社ではないでしょうし、そのような方針ではないことを公表していますので、問題はないでしょう。
ということで、今回あえて「超友好的TOB」という造語を使って島忠をめぐる買収劇の説明をしました。
これにより、「敵対的TOB」など何となく悪い印象になってしまいがちな言葉でも、角度を変えて考えることで実はそういうことではないと伝えわればいいと思っています。
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