リアル社会はほんと、フクザツ
今回はちょっとだけ「複雑」なお話になります。
ロングテール
20年くらい前に"Web2.0"とかが流行った頃、Amazonの売れ筋ランキングは「ほとんどの売上が上位20%の商品で占められ、残りの80%はさほど売上には貢献していない...」といういわゆる「ロングテール」というのがありました。
このロングテールのはマーケティングの世界だけではなく、例えば、「大規模な地震はごく稀にしか起きないのに、小さな地震はたくさん起こる」という「グーテンベルグ・リヒター則」も同じ文脈です。
またまた、「ある本の単語の出現頻度別に並べると、何度も出てくる単語はわずかなのに、ほとんど出現しない単語は多い」という「ジップの法則」というのもあります(ちなみに、私がむかし書いた小説(原稿用紙換算で100枚くらい)でも成り立ってました)。
さらにさらに、私が昔開発していたグループウェアにアップロードされたファイルを拡張子ごとに数えてみると同じような現象が現れました。これは論文にまとめてあります(一番多い拡張子は、".pdf"でした!)。
全く異なる出来事(しかも、人の意志が介在しようがしまいがお構いなく!)に、同様の法則が成り立っているのは驚きです。
創発
例えば、プラモデル。部品を一つひとつ組み合わせるとガンプラとか車とかが完成します。例えば、ジグソーパズル。ピースをあれやこれやと試行錯誤しながら組み合わせていくと、一枚の画になります。「ものごとは構成部品に分けられる」という、例です。
ですが、何でもかんでも分けられるのでしょうか?
例えば、私たち人間は細胞が集まってできていて、その細胞も細胞器官が集まってできていて、、と分解していくと、分子だ原子だと。その原子や分子をパズルのように組み合わせていったら人間になるのでしょうか?
また、目の前に美味しそうなハンバーグが湯気を立てています。そのハンバーグも分けて分けて分解しまくると炭素原子やら水素原子などに分けられますが、それら原子を再構成したら美味しそうなハンバーグになり得るのでしょうか?
答えはノーです(というか、できません)。
なぜかというと人間やハンバーグは単に構成要素を足し上げるだけでは説明ができない新しい性質が備わっているからです。例えば人間では「意識」がそれにあたるかも知れませんし、ハンバーグでは例えば「美味しさ」があります。このような足し合わせでは成り立たない非線形現象を「創発」と言います。
私たちの住む(私たちが構成する)このリアル社会も、私たちという構成要素がお互いに影響し合って創発した集団ということができます。例えば会社は社員で構成されているネットワーク集団ですが、おのおのの人の技術や能力の「足し上げ」が必ずしもその会社の売上や成果ではありません。ときに大ヒットして莫大な利益を得たり、急成長を遂げたりします。また、「売上の8割は2割の社員が生み出している」的な話も有名です。
カオス
カオス、と聞くと、なにやら「めちゃくちゃ」的なイメージが浮かびます。カオスな社会、だなんて言うと、「人々が好き勝手ばらばらに行動してる」ような感じがします。
1961年にローレンツという気象学者がコンピューターで天気予測をしていたときに、初期値を"0.506127"とするところを"0.506"として再計算してみたところ、全く異なる結果となってしまいました。たった"0.000127"の初期値の差だけなのに結果が全く異なるため、当初はコンピューターの故障と考えていたようですが、初期値の僅かな違いが系の発展とともに大きな違いとなることに気づきました。これは今では「バタフライ効果」と呼ばれています。
例えば次のような簡単な差分方程式があったとします。
これはいわゆるロジスティック方程式というもので、人口増加を説明するために1838年にベルハルストが考案した式です。
ここで"a"は0より上の値を取るのですが、ここでは、初期値"Xn"を"0.1"に固定し、"a"の値を変えたときの値の振る舞いを観察してみましょう。
"a < 3(a = 2)"のとき、値は「収束」します。
"3 ≦ a ≦ 3.56995..." のとき、値は「振動」します。
"3.56995... > a" のとき、規則性が見られなくなります。この状態を「カオス」と呼びます。また、"3.56995..."の境界値を「ファイゲンバウム点」と言います。
"a = 3.7" と "a = 3.70001" の振る舞いの違いを見てみましょう。たったの!"0.00001"の初期値の差なのに、45回めの試行くらいで結果の違いが顕著になっています(青と赤のズレが激しくなってきます)。これはバタフライ効果なのですが、「初期値鋭敏性」と言ったりもします。
はて、、これがリアル社会とどんな繋がりがあるんでしょ?!
例えば、渋谷のスクランブル交差点の「人の流れ」を考えてみると、通勤などで毎日同じ時間に交差点を渡るタイプの人がいます。ある意味「振動」してるとも言えます。飲み会や買い物目的で交差点を渡る人にはあまり規則性がないので「カオス」的な振る舞いと捉えても良いかも知れません。また、非常事態宣言(特に1回めの!)が出た後は、それまでごった返していた人の流れがパタッと消えました。これは「収束」と言えるかも知れません。また、約束していた人が来なかった(あるいは来た)、ことがその後のリアル社会に大きな影響となって全く異なる世界になるかも知れません。
リアル社会にもいくつかの相があり、時間帯や、天気や、イベントなどなどの理由によりその相が入れ替わり立ち替わりしているのがリアル社会である、とも言えると思います。
まとめ
今回のいくつかの話題は、まとめると「複雑系(complex system)」というものです。複雑な系(システム)です。リアル社会も個々の人々が日々織りなす複雑な系であり、一人ひとりは自由気ままに生活を送っていても、社会というシステムとして捉えると振動したり収束したりを繰り返しています。
私たちのDigital東京は、個人をターゲットにしているわけではありません。その個人個人が実際に生活をすることによる結果、アウトプットとしてのリアル社会の変化に注目しています。そのリアル社会は複雑系(複雑適応系, complex adaptive system, CAS)であり、複雑系的な視点からリアル社会のビッグデータを捉えることでさまざまな価値を見出して、社会に還元することに主眼を置いています。
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