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マーケターを目指す若者が“自称マーケター”を抜け出す二つのトレーニング

デジタルマーケティングカンパニー・DIGITALIFTの鹿熊亮甫が、第一線で活躍するマーケターとの対談を通じ、デジタル時代のマーケティングを解剖していく連載シリーズ「次世代マーケ論考」。

第五回は、10,000人近くのマーケターが集まる学習コミュニティ「マーケティングトレース」を主宰する、ブランディングテクノロジー株式会社CMOの黒澤友貴さんをゲストに招き、「脱・自称マーケター」をテーマにお話を伺いました。

産業のデジタルシフトにともない、顧客接点が大幅に増え、マーケターの人口が増加している昨今。しかし、マーケティングを理解し、真の意味でのマーケティング思考を発揮できている人はそう多くありません。

マーケティング思考をバッググラウンドに持ち、企業の経営を担う2人は、「真の意味でのマーケターを目指すなら、経営に向き合う必要がある」と語ります。自称マーケターからマーケターになるための思考法とトレーニングを聞きました。

“一億総マーケター”の嘘

—— “一億総マーケター”なんて言葉を見かけるくらい、マーケターを名乗る人が増えている気がします。マーケティングを仕事にするお二人から見て、マーケティング界隈はどのような変化を遂げていますか?

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鹿熊:マーケターを名乗る人口は増えていますよね。デジタル主体の世の中になったことで、顧客接点が増えたことが影響していると思います。

ただ、「マーケター」が増えている実感はありません。マーケティングが意味する領域は本当に広く、それを網羅するのは簡単なことではないからです。「細分化された一部の工程を担っているビジネスパーソンが、マーケターを自称している」とも考えられます。

黒澤:大前提として、マーケターを名乗るのは自由なので、自称マーケターでも良いと思っています。しかし、戦略や戦術といった上流の思考が抜け落ちて、広告運用・SEOなど実行だけ頑張ってしまっているマーケターは多いと感じています。どちらかといえば、上流の思考ができるからこそ、マーケターは務まるのですが。

鹿熊:すごくよく分かります。でも、どうして最も重要な「戦略」の思考が抜け落ちてしまうのでしょうか。

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黒澤:いくつか考えられますが、大きな要因として「求められる機会が少ないから」だと思います。

僕らのような広告代理店を例にすると分かりやすいのですが、読んで字のごとく「広告を代理するお店」なんですよね。マーケティングに付随する業務を担当することはあれど、その最上流にある戦略までタッチすることを求められないので、結局のところ手を動かすことに終始してしまうんです。

これが事業会社であっても、マーケティング活動における一連の流れすべてを担当する人は限られているので、戦略部分にタッチできるのは一握りです。立場上、求められる機会がないので、手を動かすことに終始してしまいます。

鹿熊:同じく代理店を営む一人として、納得です。とはいえ、マーケターを名乗ったり、マーケティングを仕事にしたりしたいのであれば、アクションを変えるべきですよね。

黒澤:上流の思考がなければ、ただ手を動かす人になってしまいますからね。特定チャネルの専門家を目指すキャリアも素敵ですが、やはり「大上段にある戦略を理解したうえで手も動かす」というのが大切だと思います。そうでなければ、生き残っていきにくくもなっていると感じています。

企業単位でも同じことが言えて、戦略レイヤーまで入っていけなければ、ジリ貧です。「広告代理店」という言葉がよくないと思いますし、自分たちで「広告代理店」の域を抜け出すアクションを取っていかなければいけないと思います。

マーケターの思考力を高めるトレーニング

—— いわゆる“自称マーケター”を抜け出すためには、どのようなアクションを取ればいいのでしょうか。

鹿熊:一言で表現するのは難しいのですが、やはり経営に向き合うことだと思います。

マーケティングの権威として広く知られているフィリップ・コトラーの言葉を借りれば、マーケティングの定義は「ニーズに応えて利益を上げること」です。つまり、利益創出に向き合わない限り、マーケターの責務を果たすことはできないでしょう。

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黒澤:同感ですが、経営に向き合うことを、所属している会社内でやることは難しい場合もあると思います。もし副業が可能であれば、個人的には代理店に勤めながらスタートアップの事業会社に携わるキャリアをお勧めしています。

スタートアップに携わるメリットは、バリューチェーンがまだ分断されていないケースがあるので、事業全体を俯瞰しながらマーケティング活動に従事できることです。

まだマーケティング組織が立ち上がっていない事業フェーズから参画して、経営レイヤーと同じ視点に立って事業に向き合えば、経営とマーケティングをつなぐ力が身に付くと思います。

鹿熊:特に若いうちは、事業全体を俯瞰できるチャンスが少ない。そういう意味では、金銭的な見返りがなくても、スタートアップに参画する意義があると思います。もちろん、それをさせてもらえるだけの貢献は必要ですけどね。

—— 当たり前のことですが、慢性的に人的リソースが不足しているスタートアップだからといって、誰もが働ける場所ではありません。1円たりとも無駄にできない企業が多いので、結果を出すことが絶対的に求められると思います。そこに向けて、自分でできるトレーニングはありますか。

鹿熊:黒澤さんが主宰している「マーケティングトレース」は、マーケターを目指すビジネスパーソンが取り組むべきトレーニングの典型だと思いますよ。フレームワークが万能だとは言い切れませんが、フレームワークを使いこなせると、成果の出し方に再現性が生まれてきます。

黒澤:「マーケティングトレース」は、まさにそうした課題意識から運営をしています。「優れた戦略」って、結果論なんですよね。優れた仮説に基づく戦略であっても成果が出ないことはありますし、人によって優れた戦略の定義は変わるので、なんとも言えないのです。

その曖昧さを突破する一つの方法が、フレームワークだと思っています。フレームワークを正しく使いこなせれば、個人の主観を限りなく排除した状態で、過去の優れた事例の「何が優れていたのか」を突き止めることができる。つまり、応用可能な成功要因をつかむことができるんです。

そのストックが充実しているということは、つまり「質の高い打ち手を揃えられている」ということなので、成果を上げるための準備ができているということになります。あとは、実践あるのみです。

ちなみに、鹿熊さんが日常的に行なっているトレーニングはありますか?

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鹿熊:駆け出しの頃の話ですが、とにかくPDCAを回す訓練をしていました。学生時代にインターンをしていた頃の上司からのリクエストで、「1日に40個以上の改善をする」というものです。

具体例を挙げると、朝起きてヒゲを剃ることや、寝る前の読書など、あらゆるイベントに改善のアクションを要求していました。例えば、「ヒゲを剃る5分間を、どうすれば3分に短縮できるか」といった具合です。

これをやり続けると、とにかくスピードが速くなります。僕であれば、意思決定の速度と業務の遂行速度が増しました。正直かなりきついトレーニングでしたが、変化の速度が速いマーケティングの世界でキャリアをつくる意味で、有用な経験だったと思います。

黒澤:それ、すごくいいですね。マーケターは試して改善するという、まさにPDCAが問われる職種です。その速度が速いほど、正解に近づくスピードが速くなるので、若い頃にやるべきトレーニングだと感じました。

腕利きは「ストレージとCPU」を兼ね備えている

—— 黒澤さんのトレーニングは戦略の引き出しを増やすことに、鹿熊さんのトレーニングはレスポンスの速度を上げることに特化しているものですよね。やはり、この双方を持っていることが重要なのでしょうか。

黒澤:フレームワークが使えて、戦略を構造化できるというのは、いうなれば基礎力です。レスポンスの速さは応用編ですが、マーケターが持つべきスキルとして非常に重要だと思います。現場では「持っているストックをどれだけ速く取り出せるか」が成果を出せるかの分水嶺になるので、両輪で磨くべきものです。

「戦略レイヤーに踏み込むのが大事」という話につながるのですが、例えば経営層とディスカッションするときに、課題に対して即座に自分なりの仮説を提示できるかで、相手からの見え方が変わります。そこで「考えていることが面白い」「戦略構築のパートナーになりうる」と思ってもらえなければ、やはり“運用屋さん”の域を抜けられません。

鹿熊:レスポンスの速度って、「メールの返信が早い」ということではなく、要するに頭の回転の速さを指しているんですよね。インプットとアウトプットの双方に目を向けていなければ、頭の回転は速くならない。そうした意味で、黒澤さんが実践しているようなトレーニングも、非常に重要です。

黒澤:引き出しづくりとレスポンス速度の向上を同時に実現するトレーニングとして、僕がお勧めしているのが『NewsPicks』のコメント付きピックです。30分間で5つのビジネス記事を読み込み、そこに自分なりの仮説を付けてピックする。僕は、数年前まで毎日これを実践していました。今は、Twitterやnoteを使って同じようなトレーニングをするようにしています。

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NewsPicksより引用

黒澤:戦略視点をもって考えることが大事なので、自分の仮説が合っているか合っていないかは、特に関係ないんです。おそらく、的を射ていないケースの方が多いと思います。

それでも、やはり意味がある。「30分間で5記事」といった制限をかけると、限られた時間の中で情報を整理して自分なりの仮説を出す、現場でも応用できる力が身に付くんです。

僕がこのトレーニングを始めたのは、実業家の堀江貴文さんが、「飛行機の中で雑誌をひたすらに読んで、情報を組み合わせながら自分なりの仮説を立てている」という話を聞いたことがきっかけです。質を極めることは大切ですが、やはり量をこなさないと意味がないのだと悟り、週末は時間を決めて『dマガジン』を読み漁ることもしています。

—— 情報をインプットするときは、領域を問わず媒体をチェックしているのでしょうか?

黒澤:領域を横断することが大事だと思っています。インプットが偏ると、ありきたりなことしか言えなくなってしまうので。

鹿熊:おっしゃる通りで、自分の専門性から遠い領域から情報を得ないと、役に立てないんですよね。マーケティングの勉強ばかりしたところで、コモディティになっていくだけです。マーケターがマーケティングの能力を持っていることは前提で、プラスアルファの価値提供ができなければ、それこそ手を動かすだけの人材になってしまいます。

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黒澤:事業会社のマーケターでない限り、基本的には第三者の支援をすることになります。このとき、お客様が持っていない情報を提供できないことには、付加価値がないんです。

例えば不動産業界のマーケティング支援をする場合、お客さんは四六時中不動産のことを考えている人たちです。彼らに「エンドユーザーにインタビューした結果……」「トレンド情報をチェックした結果……」などと提案をしたところで、そんなことは知っているはず。だから、相手にしてもらえない可能性が高い。

そうではなくて、全く違う業界の成功事例を転用したり、まるで異なるビジネスモデルからヒントを探したり、そうやって価値を与えないことには信頼なんか得られません。つまり、「広告代理店」で終わってしまい、戦略を議論するパートナーには選ばれないのです。

マーケターを目指すな、経営に向き合え

—— マーケターとして一皮向けるには、いかに利益を上げるか、いかに経営に貢献するか、という意識が大切なんですね。

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鹿熊:マーケターになりきれていない人は、広告予算が50万円あったとしたら、それが「広告予算が50万円ある」としか捉えられていません。

要するに、その50万円を使ってどれくらいの結果を出してほしいのか、この50万円を捻出するのにどれだけ汗を流して働いてきたのか、という裏側に目がいかないんです。

この状況は、出向主が持っている危機感を共有できていないということです。それでは、パートナーになり得ない。「50万円をフル活用して、広告を回しましょう」で終わっているうちは、言ってしまえば二流です。

そのくらいの温度感で、週に1回のレポートを出して満足しているようでは、経営に向き合うことなんて一生できません。損得勘定を無視するくらいのアクションを取らなければ、マーケターに近づくことは難しいと思いますよ。

黒澤:事業をつくる経験が積めていない段階では、「マーケターになる」ことにこだわらない方がいいのかもしれませんね。

それが悪いことではないのですが、少なくとも結果論であるべきだとは思います。「マーケターだから広告運用ができます」という話ではなくて、まずは個人として経営に貢献することにこだわる。その結果、マーケターというキャリアが付いてくるのが本来的な流れのはずです。

僕は肩書きこそCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)ですが、自分自身のことをマーケターだと思ったことはありません。新卒で入社した日から今日まで、いかに経営に貢献するかを追求してきて、そのアプローチがマーケティングだった、という流れです。

鹿熊:マーケティングって、言葉の響きがかっこいいですからね(笑)。

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黒澤:でも、あまりにも泥臭い仕事ですよね。僕がまだ若い頃は、町のハンコ屋さんとタッグを組み、少ない予算でECサイトの立ち上げをしていました。

広告を打つだけの予算もないし、ダイナミックな戦略を取るほどの体力もない。だから、限られたリソースの中で、どうやったら勝てるのかを頭がちぎれるくらいに考えていました。振り返ってみれば、あの活動こそがマーケティングだったと思います。

鹿熊:何でもかんでも損得勘定で動いていたら、マーケターとしての腕は磨かれないと思います。マーケティングは言い換えるなら経営そのものですから、ときに非合理なアクションも必要なんですよね。

行動量に対する利益を考えるという意味での損得感情は重要ですが、人間としての損得感情はスルーする勇気も必要です。「このくらいでいいか」という気持ちが残っているうちは、経営はおろか、マーケティングの本質を掴むことはできませんから。

黒澤:マーケターが成果を出すためには、一次情報に当たり、自分なりの仮説をつくって、顧客と市場と組織の3つをバランスよく動かす姿勢が大切です。とはいえ、これらすべてを踏まえて仕事をするのはハードルが高い。予算の兼ね合いやリソースにも限りがあるので「もっと目の前のことに集中しろ」と言われてしまうかもしれません。

だからこそ、普段のトレーニングで戦略思考を鍛えることが大事なんです。普段から情報に触れたら自分なりの仮説を考えて、いつでも瞬時に、戦略提案ができる準備をしておかなければいけない。

やや体育会系的な話にも聞こえるかもしれませんが(笑)、「マーケター」を目指すみなさんには、ぜひ泥臭い仕事やトレーニングの積み重ねの大切さを知っておいてほしいと思います。


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