タコスのうまさについてメキシコ料理屋に行って考えた
タコス、もしくは喜びについて
心斎橋のメキシコ料理屋、「エル・パンチョ」にともだちと行ってきた。タコスってうめ〜〜〜
席が90分制で意外と短いね〜とか言ってたけど最初の1時間で大量のうまそうな料理を頼んで嵐のように食い散らしてたら1時間経ってた。めちゃくちゃ薄暗かったのもあって店出てから「なんか夢…?見てた感じせん…?」みたいな話をした。ほんとうに夢だったらいいぐらい満腹で苦しくなった。助けてくれ。
そもそも今回ともだちを連れてメキシコ料理を食いに来た理由というのが、こんどよく行くお店でタコスを振る舞うイベントをやるにあたってちょっと本気のタコスを勉強しに行くべや、いっぱい種類食べたいし複数人で行くか、と思い立ったからだったのでこの満腹感は成功の証とも言える。代償は健康と寿命である。
トルティーヤのうまさ
で、食ったタコスがうめー。めちゃくちゃうめー。まずトルティーヤってうまい。一般的なタコスの皮(?)は小麦粉を使ったフラワートルティーヤか、さもなくばU字型に揚げて固めたタコシェルってやつだけど、これはアメリカで改造されたTex-Mexってスタイルのやつ。これに挽肉とかレタスはさむのがみんなが想像するタコス。
メキシコのトルティーヤは特殊な処理をしたとうもろこしの粉を水で練って伸ばして焼いたやつで、まず噛んだときの歯触りとか舌触りがちょっとボソっとする。小麦粉のもっちり感とか揚げたやつのバリバリ、って感じがない。噛みちぎるというよりは噛み切ろうとして崩れる、みたいな感覚。このボソボソしたやつで具を包んで口に入れると舌触りがごわごわしてちょっとおもしろい。ちょっと使い古したタオルを思い出す。餃子とか春巻きとか寿司とか、日常何かを包む「皮」みたいな役割を持ってるものって舌触りが良かったんだな、って思うくらいごわごわだけど、このごわごわが口の中で噛みほぐされていくにつれてとうもろこしの匂いを出していくからすごい。香ばしい。うまい。タコスを食うと基本的に香りはこのトルティーヤからくるとうもろこし由来の香ばしさに依ることになるからこれめちゃくちゃ大事やな〜〜と思ってると中に包んでる具のうまさが追いかけてくるかたちになる。今回頼んだ具はMIXプレートMに入ってる4種類と付け合わせたち。
具たち
MIXプレートを頼んでちょっと意外だったのがキャベツの千切りが乗ってたこと。メキシコのタコスについて調べてると入ってる野菜ってタマネギとトマト、あとパクチーぐらいだと思ってた。日本ナイズドしてあるのか。
店内が薄暗かったのとタコスが食える興奮で自分がなにを乗せて食ったのかはあんまりわからなかったけど基本的には肉を細切れにしたりホロホロになるまで煮込んでほぐしたりしたやつで、それにみじん切りのタマネギとかトマト、あとはアボカドとかキドニービーンズのペーストを合わせて包むかんじ。
いま振り返って思うとタコスの具って細かく刻んであるかほぼペースト状だ。メキシコのキッチンにおいて、日本における包丁とまな板レベルに重要視されるのが「モルカヘテ」という石臼とハンドブレンダーだ、というのをインターネットのどこかで見たことがあって、それが腑に落ちるくらいぜんぶ細切れかペースト状だった。
タコスを一口噛みちぎって食ってみるとこのペースト主義みたいなのの効用がよくわかる。うまさへのアクセスのスピードが速いんだ。
ペースト状であることの良さ
肉を食うとき、そのうまみは基本的に噛み締めると出てくる。つまり、肉の繊維が歯に限界まで押しつぶされて、繊維がちぎれるときに出てくる。メニューに「メキシカン」と表記されてる具はたぶんいわゆる「カルニタス」というやつで、豚肉を甘辛いタレとラードでほろほろになるまで煮込んでほぐしたやつである。肉のピースはほぐされているので無論小さい。小さいと噛み締めて潰すのが楽だ。すぐにうまみにアクセスできる。
なんなら噛み締めるまえに舌はうまみを感じている。「ビーンズ」と表記があるやつはたぶんキドニービーンズのペーストである「フリホレス」で、ワカモレはみなさんご存知アボカドのペースト。このべしょべしょのやつらは口に入ると舌に張り付いて即座に味を感じさせてくれる上に、こってりまとわりついて味を長続きさせてくれる。肉の煮込みに絡まった汁もペーストに染み込んで加勢する。バッハを聞いたことは一回もないけど彼が開発したという通奏低音ってやつはこんなかんじのやつだと思う。最初から最後までずっといて、基盤になる部分を支え続ける役割だ。合間合間に肉を噛み締めたうまみがくる。小さい味のパルスがやってきて飽きさせない。
こんなふうにペーストをもちゃもちゃ噛んで甘やかされてた歯と歯のあいだにタマネギとかトマト、時にはハラペーニョのピクルスのみじん切りがやってくると脳がしびれるぐらいうまい。食感がもう楽しすぎる。
前回のイベントでタコスを作ったり、今回のイベントに向けて試作したりしながら思ったのは、生のタマネギの食感と香りってめちゃくちゃ脳に来るな、ということだった。多分ほかの具がもっちゃりした食感で、香りとしてもモワッとした感じの優しくてあったかいタイプだから、タマネギのシャキッとした食感とつんとくる鋭い香りが際立つっぽい。ここ数年肩だけ肌見せするセーターとか流行ってるけどタコスにタマネギがある状態は性器だけ丸出しの全身タイツ。それぐらいメリハリがすごい。トルティーヤにいろんなペーストと性器だけ丸出しの全身タイツ包んで食う食い物、めちゃくちゃキショいな。この例え失敗かもしれん。
しらなかった具たち
例えこそ失敗したものの、ここまで書いたタコスのうまさは他のお店でも、自分でレシピ検索して作ってみても、メキシコ式のやつである限りけっこう変わらない(つまり、こんどやるおれのタコスイベントでも同じことが体験できる!!みんな来て食べてみよう!)。ただ、エル・パンチョのMIXプレートに2つだけ目新しいものがあった。サワークリームとチキンだ。
サワークリームはさっき述べたペーストの役割(舌にまとわりついて味の先鋒をやる)をなぞるものではあったけど、乳製品の強い香りと酸味が鮮烈だった。これは多分メキシコの伝統というよりはどっかから伝来して組み込まれたものだろうな、と思うような毛色の違いだった。ヨーロッパで生まれたのちパンチの国アメリカを経由してやってきたパンチクリームだ。
タコスにおいて酸味の部分を担うのは伝統的にはサルサ(=ソース)の部分で、今回は「緑のソース」を意味するサルサ・ヴェルデを頼んだが、これはタマネギとパクチー、トマティーヨという食用のホオズキ(!)を酢といっしょにミキサーにかけたものなのでわりと香りの癖が強い。パクチーとタマネギ嫌いなひとに食わせたら口きいてくれなくなりそうな味だった。今度やるイベントで酸味要員として出すならサルサヴェルデじゃなくてサワークリームかな。
そしてチキン。店が暗くて(ほんとうに洞窟ぐらい暗かった)わからなかったけど、なんか…味噌…?みたいなのに漬けたみたいな味がした。なんで?本当に味噌に漬けて焼いてるとしたらかなりびびる。店内の雰囲気といい客層といい、日本に訪れたメキシコ人御用達でい、みたいな顔した料理屋でそんなおふくろの味みたいなのをしれっと出してたとしたらすごい胆力だとおもう。この店のシェフとポーカーやったら丸裸にされそうだ。マジで何の味?めちゃくちゃ美味かったけど。
総括
タコスってうめ〜〜〜〜。
味の研究だ!みたいな意気込みで行ったのに全然分析とかしないままウオー!って気持ちでドカ食いしちゃった。小一時間で大量のメキシコ料理を詰め込まれた内臓がビビったのか、帰りに寄ったコメダ珈琲でともだちが心配するぐらいおなかをこわした。アホの犬みたいな食欲をしてるなおれは。
しかしこれは他人事ではない。これを読んでいるあなたもアホの犬みたいな食欲をかきたてられてしまうイベントが開催されるのだ!!
この記事をここまで読んでくれたひとなら、タコスのうまさをたっぷり想像してタコスを食べたくなったにちがいない。そうでなかったとしたら家族のことをかんがえよう。家族は大事かい?たいせつなひとがひどい目にあうとかなしいだろう?よろしい。タコスが食べたくなってきたはずだ。おれだって暴力に訴えたくはない。
タコスを食べたくなってくれたきみはなかまだ。きみがどんなにひとりになってもぼくがきみのそばにいるよ。まがいものの友人や同僚にまどわされることなく、ぼくがきみをタコスの道へと導いてあげるんだ。すばらしいとおもわないかい?
ぼくの手をとろう。ぼくのタコスを、食べにくるんだ。
エピローグ:メキシコの名物料理
余談だが、今回の目的はタコスの勉強だけではなかった。タコス、ひいてはメキシコ料理について調べてると必ず出てくる名物料理があって、エル・パンチョではどうやらそれが食えるらしいとのことだったのでこの店に決めた、みたいなところがある。
その料理、名前を「チキンのモーレソース」という。「モーレ」とはどうやら「ソース」の意味らしく、つまりは鶏肉にソースをかけた料理であるという。じゃあなんのソースなの?
チョコレートです。
え?
タコスをたらふく食ったあとにこの皿が運ばれてきた瞬間、卓がざわついた。明確にチョコレートとシナモンの匂いがしたからだ。明らかなデザートの匂い。かぼちゃを甘く煮たやつでごはんを食べたり、パイナップルをピザに乗せたやつを喜んで食ったりした経験はあれど、チョコレートが肉にかかった料理はお初にお目にかかるわけで、うまいタコスに緩んだ一同の顔が少し引き締まった。ただ、食べてみると意外に悪くない。この「悪くない」というのは「まずいとは思わない」あるいは「まだこの料理を理解できていない気がする」ぐらいの意味だ。
一切れ口に入れると当然のごとくチョコレートの香りがする。みんな知ってる「あの」チョコレートの香りそのものだ。流石にお菓子ほどの甘味はない。ナッツを噛み砕いたときみたいな甘味とコクがあって、ソースの層を歯が通り抜けるとソテーされた鶏肉にたどりつく。食感的にたぶんもも肉だと思う。噛むほどにチョコレートと鶏肉が混ざっていく。混ざるとチョコレートの風味が鶏肉と意外に合う気がしてくる。後味に注意しないと気付かないくらいの辛味があって、中南米だな〜〜という気持ちになる。なるほど、ちょっとスモーキーでコクがあって、少しだけ甘い。なんてことはない、照り焼きの味が西洋側に大きくシフトしただけの話だ。
ただ、やっぱり鼻に届くのは甘いお菓子のチョコレートの香りなわけで、そのギャップを埋めるのに苦労する。それは言い換えると混乱でもあって、ともだちに食わせるとみんなちょっとだけ饒舌になっておもしろかった。中華料理屋で蚕のサナギを素揚げにしたやつを頼んだときも、食べた人は口々に「なるほどね」「あー」「うん、意外に……」みたいなことを言い続ける。状況を説明して、それを自分の耳から聞くことで自分を安心させているんだと思う。
自分はある程度それに慣れた状態でこの混乱状態にある人を眺めるとわりとおもしろいから今度そういうイベントやろうかな。蚕のサナギかチキンのモーレソースをみんなで食うイベント。
エルパンチョ 心斎橋
大阪府大阪市中央区心斎橋筋1-10-1 心斎橋タワービル 8F
地下鉄御堂筋線 心斎橋駅 徒歩2分
心斎橋駅から93m