「パルスマーケティング」についての考察-3
「今の時代、多くの人は未知の商品を買うことに躊躇しない」とは言えない
オリジナルでは最終回となる記事では,個別のカテゴリーについての考察が行われ,最後に消費行動のあり方の変化をまとめ,新たなマーケティングについての示唆を得ようとしている。
個別のカテゴリニーにおける「直感センサー」についての考察については,重箱の隅をつつくことはなく概ね現在の傾向であると思われる。
ところが,最終回のまとめとして,
今の時代、多くの人は未知の商品を買うことに躊躇せず、何を買うかについては、結果としての買い場に至って決断するという傾向です。
買い物の起点はスマートフォン上で発生しており、なおかつ「なんとなく」面白い情報を探すという暇つぶしのような情報検索からスタートするケースが多い
とまとめてしまうには,新たな疑問が生まれてくるが為に早急すぎると思われる。
新たな疑問とは,
「なぜ,今の時代、多くの人は未知の商品を買うことに躊躇しないのか」という視点と,
「なぜ,消費行動が暇つぶしのような情報検索からスタートするのか」の二つの視点である。
前者については,「単に傾向としてデータから見ることができた」「質問の回答者がそう答えた」という理由からであると予想されるが,実際には商品カテゴリーによって大きな差が出ている。
1)洋服カテゴリーについて
考察ー2で述べたように,躊躇しないとして高い数値を示している「洋服」では,従来よりもその場でに気に入ったら馴染みのないブランドであっても購入するといった買い方だったのではないだろうか。確証とするデータとしては不十分ではあるが,例えばdポイントクラブの調査において「洋服を選ぶとき何を重視しますか」という質問に対して「ブランド」という項目は出現しておらず,価格・デザイン・トレンド・素材と言った項目が出現している。調査の時に「ブランド」について聞いていたの行動かが不明ではあるが,結果として「洋服を選ぶ時に何を重視するのかという質問に対してブランドが上位に来ていない点は注目に値する。
参考)dポイントクラブの調査
2)生鮮食品カテゴリーについて
また,「躊躇しない」としてはそれほど大きな数値を示していない「生鮮食品」カテゴリニーについては,それでは従来はブランドを気にしていたのだろうか?という疑問が湧いてくる。もし仮に,現在の消費者の傾向として「(最近は)未知のブランド購入するのに躊躇しない」と結論づけるのであれば,以前はこの数値よりもさらに低くなければ最近の傾向であるとは言えない。つまり,いわゆる生鮮食料品,例えば切り身の魚やパックの肉,リンゴやバナナなどを購入する場合,以前はそれらのブランドを気にしていたのであろうか?という疑問である。もしかしたら事実は逆で「生鮮食品というのは,従来はブランドは気にしていなかったが,最近はネットを通じて産地やブランドを気にするようになった。その為,知らないブランドを買うのに躊躇しないという項目では最も低い数値を示すようになった」のではないだろうか。
実際に,食品の購買意識に関する世論調査<概要> 東京都生活文化局における調査を見てみると,同じ質問内容ではないが「同じ値段なら国産を選ぶ」と回答した消費者は年度を経るにし違って増加しているなどの傾向が見られる。これは,「知らないブランドを買うのに躊躇がない」のではなく,ブランドに対してこだわりを持つという逆の意味になってくる。
3)ビール類カテゴリーについて
これはビールについても同様である。ビールのマーケティングの歴史(例えば,キリンとアサヒどのビール戦争)を見てみるとよくわかるが,以前は「ビールは何を飲んでも同じである」と考えられていた。したがって,販売力や生産量などがそのシェアの行方を担っていたが,アサヒドライ戦争以降,味やフレッシュさ,あるいはイメージ戦略などの要素が加わった。さらには,税制改革によるビール,発泡酒,第三のビールというカテゴリーの増大や,地ビールやクラフトビールなどによってビール内でのブランドやカテゴリーが増加し,消費者の選択肢は爆発的に増えていった。したがって実際の消費者の選択としては,マーケットの変化に伴い自ずと「何を飲んでも同じ,という買い方から嗜好に合わせた選択」へと変化してきていると言える。
そう考えてみると,生鮮食品とビール類は未知のブランドを買うのに躊躇しないのではなく,品質や嗜好をもとに個別の商品やブランドの取捨選択を行なっていると判断できるのではないだろうか。
以上,カテゴリー別の考察をまとめると,
・洋服→以前より未知のブランドに対して躊躇はなかった。
・生鮮食料品→以前はブランドに対して気にをしていなかったが,近年は産地やブランドが気になるようになった。
・ビール→以前はどれを飲んでも同じ味であったが,最近はビールカテゴリーを始め多くのアルコール飲料が登場した為に,購入時にこだわりを持つようになった。
ということができる。だからこそ,生鮮食料品やビール類のカテゴリーは「人は買う瞬間まで知らなかったブランドを買うことに躊躇がない」という項目の数値が他のカテゴリーより低く,洋服カテゴリーは他のカテゴリニーと比較して高いのだと考察することができる。
また,ネット時代・スマホ時代には以前と比べて消費者の入手する情報量が圧倒的に増えたと言われている。従来よりも情報が増えたのだから,ブランドを気にするようになったというカテゴリーと,ブランドを気にしなくなったというカテゴリーがあらわれても起きていても不思議ではないのである。
つまり,一概には「今の時代、多くの人は未知の商品を買うことに躊躇しない」とは言えないのだ。
(考察−4に続く)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?