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劇団ノーミーツのエンタメを支える気配り「Wi-Fiは生命線。オンラインのコミュニケーションは、速度も量も異常」

「ニューノーマル」なんて呼ばれる、新しい働き方が求められはじめた今。
仲間と離れて、一人で働くこともめずらしくなくなりました。そこで、私たちデジタルホールディングスは「一人だけど、孤独じゃない」さまざまな働き方を取材。チームや組織で働く意味を、見つけていきたいと思っています。

"NO密で濃密なひとときを"をテーマに、打ち合わせから本番まで一度も会わずに活動するフルリモート劇団「劇団ノーミーツ」。昨年の緊急事態宣言時に生まれてからユニークなコンテンツをつくりつづけ、「第24回文化庁メディア芸術祭」ではエンターテイメント部門の優秀賞も受賞しています。

ノーミーツの主宰・プロデューサーの広屋佑規さん、テクニカルディレクターの藤原遼さん、俳優のオツハタさんに、リモートで「生のエンタメ」を生み出すコミュニケーションについて聞きました。


「とにかくやってみよう」と、コロナ禍に希望を見い出した

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旗揚げ公演 門外不出モラトリアム

――まずは、ノーミーツの成り立ちを伺いたいです。演劇という生モノをオンラインですることに、当初どんな可能性を感じていたんでしょうか?

広屋:最初は「Zoomで人と会話ができるなら、もしかしたら芝居もできるかもな……」くらいの、淡い感じでした。僕はライブエンタメに関わる仕事をしていたので、はじめて緊急事態宣言が発令された当時、動かしていた企画がすべてストップしてしまったんです。そこで、演劇や映画をやっていたメンバーと「いまできること」を模索していたら“リモート演劇”が出てきた。Zoomで最初のブレストをした4日後には、初の短編作品を発表しました。

――恐るべきスピード感……! 一切会わずに進めていくことに不安はなかったですか?

広屋:まずは、とにかくやってみようという感じでしたね。主宰の小御門や林にくわえ、俳優のオツハタさんにも声をかけて、ひとまず1作品つくってみようと。あのころのエンタメ業界は、ほとんどの作品が延期・中止になって、本当に暗い雰囲気でした。だから不安よりも、コロナ禍のなかでなんとか可能性を見い出せたことのほうがうれしかったんです。

オツハタ:2月末くらいまではステージに立てていたのに、どんどんリアルな場での表現が難しくなってきて……そんな4月にノーミーツに誘ってもらい、演劇ができた。トンネルの中で出口が見つかったというか、こういう形でならエンタメを続けていけると思えて、僕らキャストもすごく前向きになれました。


オンラインの打ち合わせや芝居は、もちろん手探り

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――不安よりも希望が勝ったとはいえ、すべてオンラインでの制作は前代未聞。どのように進めていったのでしょうか?

広屋:これまでリアルな場を中心にしていたエンタメなので、情報共有のやり方ひとつとっても、手探りでしたね。最初のうちはLINEでやりとりしていたんですが、どうしても情報が埋もれてしまうし、毎回スタッフが変わるたびにグループを作り直すのも現実的じゃない。3週間くらい経つころには、連絡はSlack、データ共有はGoogleドライブを使うようになりました。

オツハタ:これまでSlackを使ったことがないメンバーもいたけれど、みんなが新しいツールを拒否せずに受け入れていってくれたのは嬉しかったよね。

広屋:そうだね(笑)。Zoomの打ち合わせにしても、一年くらい経ったいまこそ慣れてきているけど、当時はやっぱり難しく感じる場面が多かったです。たとえば、誰かが話しているところに会話を重ねられない。だからいつのまにか、音声通話に対するリアクションはチャットで送るようになりました。

藤原:そもそもZoomは会議用に開発されたツールだから、それをエンタメに使っていく難しさはすごくありましたね。芝居のうえでも台詞をかぶせられないから、途中の公演からは別のソフトウェアを併用して、音を重ねられるように調整しました。

――Webカメラでは話していても目が合わないし、お芝居自体もかなり難しいのではないかと思います。

オツハタ:リアルのお芝居と決定的に違うのは、目の前に人がいないことなんですよね。それこそ「話している相手と目が合わない」「相手が自分の顔を見ているかわからない」みたいな、普通なら気にしなくていいようなことに意識を向ける必要がある。そこはちょっと慣れが必要なので、長編などで外部から出演してくださるキャストの方々には、「いまは戸惑うけど絶対できるようになるから大丈夫です」と丁寧に伝えるようにしていました。

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Wi-Fiが切れたら終わり。公演を生配信する緊張

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――公演の配信にはテクニカルの大変さがありそうですが、いかがですか?

藤原:とにかく通信状態を良好に保たないといけないのが、一番気を遣います。役者の家が配信元になるので、公演中にほかの家族がWi-Fiや電子レンジを使うと、とたんに通信が悪くなったりするんですよ。練習ではずっと問題なく通信できていた役者が、本番だけ妙に不安定だなと思ったら、旦那さんが別室でその公演を見ていたからだ、なんてこともありました(笑)。

――たしかに、家でいきなり通信が切れるときありますもんね……! オンライン公演中にそうなったら、まずい。

藤原:そうなんですよ。僕らはWi-Fiが生命線の劇団なので、いまはそういうトラブルが起きないように、役者とそのご家族に細かく注意事項を伝えています。何台ものWebカメラを切り替えるメインキャストには、その動作に耐えうるスペックのパソコンをレンタルしたりもしますね。人事を尽くしたら、近くの神社に祈りに行くのが公演中のルーティンです。

広屋:Wi-Fiの神にね(笑)。

――出来たての神様ですね(笑)。


ノーミーツのコミュニケーションは、量もスピードも異常

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――離れていながらよいものを作っていくために、劇団内のコミュニケーションで心がけていることはありますか?

広屋:オンラインではコミュニケーションがとにかく多いですね。去年の4月なんて、大人の部活動みたいな感じで毎日Zoomをつなげていました。深夜まで熱く語り合ったり、企画・練習・撮影を毎日繰り返したりして。

藤原:あと、誰かの発信にちゃんとリアクションすることは、みんな自然と心がけていると思います。専門職が集まったチームで、お互いへのリスペクトがちゃんとあるからかもしれませんね。Zoomと並行したチャットもそうだし、Slackではスタンプを多用して、リアクションしあっています。

オツハタ:本業でCMディレクターをやっているスタッフが、変なSlackスタンプをいっぱい作るんですよね。そのうち、この投稿に対してどのスタンプを押せばウケるか……って大喜利みたいになったりとか(笑)。みんな根っこがエンターテイナーだからか、オンラインで不文律のやりとりでも、相手を楽しくするコミュニケーションができている気がします。

広屋:前に外部のスタッフさんから「ノーミーツのSlackの量とスピードは異常。そりゃあれだけアウトプットするわ」って言われたことがあります(笑)。数えてみたら、多いときで一日3,800件以上のメッセージをやりとりしていました。

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第2回長編公演 むこうのくに


相手の立場を尊重し、信頼して、前のめりに動く

【1225_2-1】劇団ノーミーツ 第3回長編公演 「それでも笑えれば」.mp4_snapshot_01.36.43_[2021.01.09_01.35.04]

――ものづくりにとって、リモートで動くメリットは何ですか?

広屋:僕はまず、できる仕事の総量が絶対的に増えました。移動しないから一日に何件も打ち合わせを詰められるし、時間の無駄が減って、アウトプットの質も上がったと思う。

藤原:テキストコミュニケーションが増えたことで、情報を正確に共有するスキルもめちゃくちゃ上がったと思いますね。人に伝わるように書くには、内省してしっかり内容を詰めたり、使う言葉をブラッシュアップしたりしておかないといけませんから。

――離れていても協力してひとつのものを作り上げていくために、一番大切なことは何だと思いますか?

オツハタ:相手の立場を尊重してコミュニケーションをとることでしょうか。リモートだとどうしても生活のなかにビジネスがまじりあってくるけれど、仕事が入り込みすぎると、相手の暮らしを侵食してしまいかねない。だからほどよいバランスが保てるように、相手の立場や状況を、きちんと想像するようにしています。もちろん想像には限界があるから、「大丈夫ですか?」って声をかけたり、「こうしてほしいです」って具体的に伝えたり、言葉のコミュニケーションも大切にしないといけないですね。

藤原:僕が一番大事にしているのは、動くことです。リモートだと、一緒に働いている相手が何をしているかって見えないんですよね。だからこそ、「相手も行動してくれる」という信頼のもとでしか、お互い前に進めません。「お互いにどんどん動く」というのは、ノーミーツらしいリズムでもあると思う。この一年は考えることも多かったけれど、とにかく動いたから、道を切り拓いてこられました。

広屋:前のめりに動き合うことはすごく大事だよね。みんなが前のめりになるためにできることって、いまみんなで何を目指しているか、何を作り上げているかはっきりさせることだと思っています。目的が共有されていれば、じつはオンライン/オフラインは関係なく、失敗しながらも進んでいくだけ。ノーミーツのプロジェクトがそういう空気を持ち続けていられるように、2021年も歩んでいきたいですね。

【1225_2-1】劇団ノーミーツ 第3回長編公演 「それでも笑えれば」.mp4_snapshot_03.18.53_[2021.01.09_01.37.28]

第三回長編公演 それでも笑えれば

お互いのことを思いやりながら、面白いものをつくるために、膨大なコミュニケーションを重ねている劇団ノーミーツ。それぞれがやりたいエンタメを追求できる場だからこそ、離れていてもそのモチベーションを保ち続けられるのかもしれません。

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インタビュー/ 執筆:菅原さくら

企画/ 編集:サカイエヒタ(ヒャクマンボルト)

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