X(Twitter)現代川柳アンソロを読む①

このままずっと続くのかと思わされるほどしぶとかった暑さもとうとう退場し、気がつけば夜はぐっと冷えるようになった。ようやく実感のこもった秋の句を作ることが出来そうで嬉しく思う。

このところ日常生活を優先してしまい、川柳EXPOの感想文が滞ってしまっている。楽しみにしてくださっていた方がもしもいらしたら、心より謝罪する。いずれ再開するつもりではあるので何卒ご容赦願いたい。

さて、前置きが長たらしくなったが、今回は成瀬悠氏による現代川柳アンソロへの投句作品について感想文を書かせていただく。

全句に評を書かせていただきたいところではあるが、時間の都合から厳選させていただいた。私の能力、そして知識不足のために深く鑑賞しきれない作品もあり、大変申し訳なく思う。

評は句の掲載順に記載していき、敬称については勝手ながら省略させていただく。また、感想文をしたためるにあたり、他の方の感想・評は一切拝読していない。万が一一部内容が他の方と被っていたら、それは私の鑑賞力が未熟であるがゆえに独創性を欠いてしまった結果であり、決して盗作ではないとあらかじめ言い訳をさせていただく。

うなじから二学期デビューする奇病
青沼詩郎

夏休み明けに印象がガラリと変わる生徒は今も昔も一定数存在するのだろう。私自身は野暮ったさを貫きながら人生を重ねてしまったため、いずれの「デビュー」も経験したことがないのだが、だいたいは頭髪に表われるものと認識している。しかし、この句には「うなじから」とある。いつもつい目線を向けてしまう気になる同級生の綺麗なうなじから、ふと香りが漂う。心惹かれるが、どこか自分も、学校の誰もが知り得ない、遠い世界の痕跡を感じ取る。ああ、あの子は病に侵されてしまったのだ。そんな衝撃を感じさせる。

素麺の帯とるようにうわさ散る
石川聡

噂は人を縛るものだ。他者からの認識を歪め、正しい理解を妨げる。噂が心無いものであれば余計に、当事者自身が己の言動にすら制限をかけられるような不自由な感覚を味わう。その「うわさ」が「素麺の帯」を取るように「散る」という。私は当初「うわさ」が些細な力でもってその拘束力を失うのかと読んでしまった。どれが正解かはわからないが、「うわさ」が解き放たれた「素麺」のように「散る」のだとしたら、なるほどそれはいかにも「うわさ」らしい、あっけない拡散の仕方かもしれない。

助太刀に輪郭だけで来やがって
石畑由紀子

掲載されている句の中で最も滑稽さを感じた句。助太刀といえば実体が伴って当然という、ごくごく当たり前の認識すら川柳はあっさりと覆す。仲間の命の危機を助けるために駆けつけたのではないのか。なんという頼りなさであろうか。気持ちばかり急いて輪郭が先着したとでもいうのか。いずれにせよ、ピンチに次ぐピンチである。しかし、そこに悲壮感はない。輪郭だけで助太刀に来るような奴が平然と存在するような世界なのである。なに、きっと何とかなる。輪郭もそう言っている気がする。

連続という日常のコンボ打てん
大北

日常は連続だ。毎日がまったく同じになるわけではないが、仕事に家事、趣味の時間も含めて、基本的には生活に組み込まれた様々なことを何度も繰り返す。この句は日常生活を「コンボ」、それも「連続」するものと表現している。最後の「打てん」に、ままならない気持ちが強く表れていて微笑ましい。私はほとんどゲームを嗜まないが、音楽ゲームにしろ格闘ゲームにしろ「コンボ」を決めるのはなかなかに技術を要するということは理解している。生活を営むということもまた決して容易なことではない。機械的に流れる日々などない。何度失敗しようとタスクをこなしていくからこそ1日1日が繋がっていくのである。

一人ずつささくれた指見せなさい
小沢史

指を見せろと言われたら、私は出来ることならば拒みたいと思うだろう。私の指は昔からささくれだらけで、およそ美しいとは思えないからである。ささくれはそう誰もにあるものではないと私は感じているが、この句では「ささくれた指」を「一人ずつ」「見せなさい」と命令している。命令者が何者かは判然としないが、命令されているであろう者達は複数いるのだろう。その誰もが「ささくれた指」を持っている。何故なのか。手指を酷使する仕事にあたらされているのかもしれない。「一人ずつ」などと指示されるくらいなので子供かもしれない。しかし指を見せて、それからいったいどうなるのか。出来れば優しくケアしてあげてほしい。

恋人に金継ぎをして撫でている
おだかさなぎ

不慮の事故や病によって失った恋人を甦らせるというストーリーはよく漫画などで目にする。が、「恋人に金継ぎをして」というのはかなりの衝撃だ。恋人をいつまでも愛で、撫でていたいがために、肉体の崩壊を許さない。繊細な技術をもって慈しむようでいて、別個の命を所有物として扱っている。なんという傲慢。なんというエゴ。だがそこに支配欲は臭わない。不思議で魅力的でもある。そもそも恋人は命あるものだったのか。なめらかではあるが謎を呼ぶ句である。




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