マグマに咲く花
星が落ちて3輪後。その方角から、天を照らすほの明るい赤が目立つようになった。それは井戸が放つ色とそっくりで、ぼくは星が大地に穴を開けて井戸を掘ったのだと考えた。やがて村長たちも同じ結論に達したらしい。井戸のほとりに立つ茶岩積み造りの集会所に旅人が集められ、旅程計画がはじまった。
大昔にも似たようなことがあったらしい。身記によれば3代前のことだ。空から星が落ちてきて騒音があたりを満たし、数輪の間、空が赤色に染まったという。しかしその赤光は長続きせず、じきに消えてしまった。
「今回の光りもそれと同じだろう?期待するだけ無駄だ」
井戸土を碗に盛りながら堀者が言った。だがそれは違うと思う。ぼくは身記を掲げて皆に見せて回った。
「すぐに消えた赤は、浅い色だったらしい。天輪のまわりをゆらめいているのと同じ色だって。でも今回の赤は違う。井戸の赤と同じ色だ」
長老たちは頷き、堀者に手をふった。
「星は間違いなく井戸を掘った。だからこそ急がなければならん」
長老の一人が岩壁の地図前に立ち、節くれだった指で引っかき傷をつける。予想される新井戸の場所だ。
「位置はこのあたりだろう。深緋ほか旅人3名に梔子と柑子の2名で向かうのだ」
旅人3人と師匠が立ち上がり、隣に並ぶ。肌が期待と高揚でぶるりと震えた。ぼくもついに村渡りに加わるのだ。
「他村の者と出会うことは避けよ。必ず争いになる」
「隊商と出会うこともありますが」
「あの色の空の下、動くものは皆、競争相手だ。彼らが君たちよりも遅れるのならそれでよい。構わず進め。一歩でも君たちが遅れるようなら、迷わず引き返すのだ」
長老は自らの花びらの先端をひとつまみ千切り、熱い碗に落とした。ぼくを含めた5名も順に長老にならう。落ちた花弁が碗の中で燃え、ふわりと甘い香りが部屋に満ちた。
そして唱和する。
「旅の無事のために」
「「この香りは、帰りのしるべ」」
(続く)