流転因果

流れ転がる果てに因り-環紡術士道中記-

 丘陵地が星空に照らされて、稜線が闇の中から浮かび出ている。一方、空を回る巨大な光の環は地上を照らしはしない。ただ私の目に眩しいだけだった。空をゆっくりと回転する幾重もの光環。それは徐々にすぼんでいき、先端は深い森の中に沈んでいた。

 そこを目指して暗い林の中を駆ける。土を蹴るたび、早駆けの指輪が淡く灯る。

 先を行く師匠が、直棒で右手方向を指した。

「御同輩が集まってきたよ!」

 夜の林はその先を見通させまいと濃く暗く、師匠の指す先が森なのか山なのかすら判然としない。だがその闇の中を微かな灯が動いている。私達の指輪と同類の輝きだ。その動きを見るに、行く先は私達と同じらしい。

「やはりねぇ!なにしろあの光環の大きさだ!王師なら竜の卵、浮島なら第七等級の太鼓判ものだろう!」

 師匠は笑って振り向き、皺だらけの美貌を見せながら駆けていく。置いていかれないよう必死に地を蹴ると、風切り音が頭巾を叩いた。

「おっしょさん!なんでこんなお急ぎに!」
「光環を取られちまうからだよ!」

 私に並走するライヘルはその言葉を飲み込めていない。ぼんやりと首を傾げて呟いた。

「術士さんってのは万能の神様かと思ってましたよ」
「違うわよ。見りゃわかるでしょ」

 まだなにか言いたげな護衛を黙殺し、首からぶら下げた眼鏡をかける。小さな硝子越しの視界で、彼方の山中を動く灯が輝きを増す。その小さな輪の数と重なりが読み取れた。

「不揃いです。製作者不明!」
「ハハッ、王帥でも浮島でもなし。なお負けるわけにはいかないねぇ!」

 師匠が速度を落とし、大柄のライヘルと肩を並べる。木の幹や岩が通り過ぎていく合間を縫って、愛用の直棒と鈴を手渡した。

「奴らのもとへお行き!節度を持って、全力でいたずらしてやりな!」
「合点!」

 彼は笑顔を浮かべ、敬礼するように手を挙げると瞬く間に姿を消した。まさかと思い先を見やると、小さくなっていく長身の後ろ姿が夜の森に溶けていった。

【続く】

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