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素晴らしきホーキヤロウたち

 雲ひとつ無い快晴だ。ただし、私達の頭上だけは。

 首が痛くなるほどまっすぐ真上に向けていた頭をおろしていくと、すぐに雲の壁が見え始める。普段は綿雲や千切れ雲程度しか見かけない荒野の上を、かつてないなんて言葉が軽く見えてしまうほどの大嵐が覆っている。

 大嵐の中心には目がある。ぽっかりと雲のない竪穴。その周囲は蠢く灰色の岩壁とでも言いたくなるような、ずっしりとした雲が積みあがっている。時折光る稲妻が、その雲壁の間に橋を渡した。

 数十年前、この荒野を訪れた精霊”巡り大喰らい”が威容。全てを吹き飛ばすと言われた強風が目の前にあるとはとても信じられない。周囲の術士達も同じ思いだろう。尖り帽子と外套を強い風にたなびかせながら、誰もが嵐の目を眺めていた。

「一応言っておくが、出発地はここではない。あそこだ」

 ヒューが指差す、大嵐の外れのほうを見る。陽光を遮られ、黒々と盛り上がる丘があった。いや、山というほど高くは無いが、丘というには申し訳ない程度の高さ。大きな岩がごろつき、わずかな草木が斜面を彩るその山は、平素誰の目にもとまらないだろう。

 今日は違う。山は鳴動していた。そして、火を噴いていた。数百年前、現在のこの荒野を作り出した大噴火の根源。地の底より熱と炎と溶け土を迸らせた大精霊”九番星の赤口”が、私達の要請に応じてくれたのだ。このためにいかな代価が支払われたか。私には知る由も無い。

「臆したか?」

 一歩後ろに控えていたクロマが茶化すように笑う。その声が笑いではなく、緊張と恐怖に震えていることを指摘する者は、この場にはいない。私も声を出せば震えるだろう。無言で振り向き、ただ笑み返した。

 みなの手には、この日のために調整を繰り返した逸品が納まっている。

 調整?そんな言葉では生ぬるい。大改造が相応しい。見た目はそのままだが、そこに仮宿る精霊の人数は空前絶後だろう。

 それは一本の箒。私が命を預ける、大切な飛行木。

【彼らの実験は続いていく】

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