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きょうのお客さま日記。

大きなキャリーケースを持ち、狭い高い階段を登って、彼は1人カフェにきた。

席に着くやいなや、うちの店の看板メニュー「白玉みずあんみつ」を注文したので、私は「TVで見て、あらかじめ食べるものを決めてきたお客様なのかな?」と思いつつ、調理を始めた。商品を提供し、食べ方の説明をして後ろに下がると、パシャッとスマートフォンで写真を撮る音が聞こえる。

食事を終えた後、ほどなくして会計を頼まれた。人懐っこそうな雰囲気を持った人だったので、「大きな荷物ですね。ご旅行ですか?」と話しかけてみた。

なんでも仕事を辞めて時間ができたので、鹿児島から友人の家を頼りに東京旅行にきたらしい。

「一生に一度の東京なんです」
「東京なんてなかなかこれないし。もう一生こないから、めちゃくちゃ楽しみで。思いっきり楽しんで帰ります!」

そうか。この人はこの店はおろか、もう二度と東京にもこないのか。
というか、九州の人にとって、東京ってそんなに遠い場所なのか。

私にとっての日常が、誰かにとっては一生に一度の瞬間なんだ。
きらきらとした笑顔で話す彼は、私が勧めた桜色のカラトリーを4本買って帰っていった。

きっとこの旅行は、彼にとって生涯の思い出になるんだろう。
「目の前の人の、人生のきらきらとした瞬間に、今自分は立ち会っている」
そう思ったら胸がいっぱいになって、少しだけ泣きたいような気持ちになった。

暑かった先週とはうって変わり、東京は過ごしやすい気候になった。
彼の一生に一度の東京旅行が、どうかいいものでありますように。

読んでいただきありがとうございました!