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【連載小説】新説 桃太郎物語〜第十六章  (毎週月曜日更新)

【第十六章 “赤鬼との決戦”の巻】

紅蓮の洞穴を抜けた先には、真ん中に開けた場所がありました。
桃太郎一行が今入ってきた入り口のちょうど真正面の奥には、数段の階段があり、その先に、それはそれは大きく立派な椅子があり、その周りの壁沿い全てが、下が見えないほどの崖になっていました。また、その椅子の後ろには、それはそれは綺麗な“藤の花”が咲き誇っておりその中央に、古びた“着物”が飾られています。

そして…

椅子には、今まで感じたことのない様な、一種見惚れてしまうほどの狂気に満ちた、赤く大きな鬼が鎮座していました。

『………っ?!?!?』

桃太郎一行は、誰一人として言葉を発することができません。

それほどまでに、赤鬼の力が圧倒的だということを皆、肌で感じていたのでした。

…………………………………………………………………………………………………………………

重苦しい沈黙が支配する中、桃太郎は意を決して口を開きました。

『…お前が赤鬼だなっ?!この世の中を混沌に陥れるお前達の所業っ!絶対に許せないっ!!今ここでお前を倒して、世界に平和を取り戻すっ!!!』

それを聞いた赤鬼は、

「…小賢しい人間よ…。お前が何をもって、我らが世の中を混沌に陥れていると思っているのか…、世界を救うなどと言っているかはさした問題ではない…。ワシはこの世から人間を排除すると決めた…。ただそれだけのことだ…。」

そう言うとゆっくりと顔を上げ、桃太郎一行を一人ずつ凝視しました。

『…っ?!…やベェーぞ…。』

『…っ?!…こんなに…っ…。』

『…っ?!…くっ…っ…。』

猿、雉、犬は赤鬼のその視線に圧倒され、それぞれ呟きました。
「…ほう…。そっちの三人は半人半動か…。ここまで来たと言うことは、黄鬼、緑鬼、黒鬼、青鬼を退けてきたと…なるほど。…少しはやるようだな…。……だが………………………………。
四人いればこのワシに勝てるとでも思ったかっっっ?!?!?!?!?!?!?!?!?!!」

赤鬼はそう言うと、一気に襲いかかってきました。

『…っ?!…くるぞっ!?!?』

桃太郎がそう叫んだ瞬間、一筋の風を頬に感じたかと思うと、後方の壁より大きな破壊音が立て続けに三回聞こえてきました。

『…っ?!…なにっ…?』

桃太郎は壁を振り返りました…。

そこには…。

無残にも壁に叩きつけられて、虫の息になった猿、犬、雉の姿がありました。

『…みんなっ?!?!』

三人はなんとか生きているようですが、かなりの深傷を負っているようです。その時、後ろで声が聞こえてきました。

「…人間…。…半人半動…、我ら鬼の中にもいろいろな術を使うものは五万といる…。」

赤鬼は気がつくと、いつの間にか正面の椅子に座っていました。


「…その数多の術の中で、一番強い能力とは一体なんだかわかるか…。…それは…、圧倒的な“力”と“素早さ”…。圧倒的な“力”で全てを破壊し、圧倒的な“素早さ”で全てを見通す…。そんな単純な“能力”が圧倒的なら、どんな術も当たらず、他全てを破壊できる…。それが私の唯一無二の“能力”だっ!!」

そうです。赤鬼は、今までの黄鬼、緑鬼、黒鬼、青鬼とは比べ物にならないほどの“圧倒的な身体能力”の持ち主だったのです。

「…お供の三人はもう戦えまい…。…あとはお前一人だ…。せいぜいワシを退屈させるでないぞっ!?!」

赤鬼は一気に桃太郎に向かって襲いかかってきました。

桃太郎はなんとか赤鬼の一太刀をすんでの所で受け止めましたが、後ろに吹き飛びました。
その後も赤鬼は怒涛の攻撃を繰り出してきましたが、赤鬼の姿を捉えることはできません。しかし桃太郎は、宮本武蔵との修行によって、“気配を読む術”を会得していたので、なんとか攻撃を受け続けられました。

「…ほう…。なんとか受けることはできるようだな…。ワシの攻撃をここまで耐え忍んだ人間はお前が初めてだ…。」

しかし、赤鬼のその攻撃の“重さ”に桃太郎の体は軋むように悲鳴を上げています。

「…ならば…これではどうだっ!?!」

赤鬼はそう叫ぶと渾身の一撃を繰り出しました。

『…っぐわぁぁぁーーーっ?!?!』

流石の桃太郎もこの一撃には耐えきれず、とうとう物凄い勢いで飛ばされ、壁に叩きつけられてしまいました。

…………………………………………………………………………………………………………………

一瞬の静寂の中、桃太郎は起き上がりました。

『…っくっ…。』

「…よく立ち上がって来た…。…そうでなくてはワシは満足せんぞ…。」

桃太郎は、赤鬼を睨みつけました。

「…ほう…この状況でそんな目ができるとは…。…まだ心も“死んでいない”と言うことか…。…面白い、…それではお前にもっと本気になってもらう事にしよう…。」

赤鬼はそう言い、一瞬身を翻すと、その大きな片手で猿、雉、犬を吊るし抱えてしまいました。

『…っ?!?!……なにをっ?!?』

「…お前の仲間達をこうしてやるのさ…。」

『…ぐわぁーーーーーーーーーっ?!?!??!』

『…きゃーーーーっ?!?!??!』

『…ぬわぁぁーーーーーーーーっ?!?!??!』

赤鬼は3人をそのまま痛めつけ始めるのでした。

『……っ?!?!…やっ…やめろっーーーーー?!?』

桃太郎は烈火の如く怒りましたが、怪我が酷すぎてうまく動けません。

赤鬼は構わず痛め続けました。すると三人はとうとう声も発しなくなりました。

「…人間よ…。この状況でお前になにができる…。ワシの動きも見えず…、仲間の窮地に動くことすらままならない…。そんな半端者が、世界を救うだと…。…片腹痛いわっ?!?!?」

桃太郎はあまりにも無力な自分に、怒りすら覚えるほどの感情になっていました。

その時、桃太郎の耳に消え入りそうな小さな声が聞こえて来ました。

『…おっ…おい、おいっ…。…なっ…なんだ…おっ…お前らしくもねぇ…。…こんっ…こんなやつ…、早く…やっつけちまえ…。』

『…あっ…赤鬼…さんっ…。…もっ…もう少し…女性には…やっ…優しくしないと…。…あっ…あなた…もてないわよ…。』

『…っこっ…、…これしきの攻撃…。』

そうです、猿、雉、犬は瀕死の状態でしたが、まだ生きていたのです。

『…っ?!?!…みっ…みんなっ?!?!?』

「…ほう…こいつらもまた、しぶといか…。…それでは…、一思いに仕留めてやる…。」

『…やめろっ?!?』

桃太郎は懇願しました。

「…元はと言えば、お前たちがワシに戦いを挑んだのだ…。勝機がないから逃してくださいなどと…そんな虫のいい話があるか?」

すると三人は桃太郎に向かって静かに話始めました。

『…今まで楽しかったぜっ。…お前と…旅ができて…、お前と出会えて本当によかった…。…親父とお袋にもよろしく言っておくぜ…。』

『…猿っ…。』

『…あの時私を助けてくれて…本当にありがとう…。…猿…犬…みんなと…旅ができて…、…仲間と出会えて本当に楽しかったよ…。』

『…雉っ…。』

『…子イヌの仇は取れた…、悔いはない…。…最後がお前たちと一緒で…思い残すこともない…。』

『…犬っ…。』

「…仲間の覚悟は決まったみたいだな…。」

『…やめろっ…。』

「…それでは最後のお別れだ…。」

『…やめろっ…!?!』

「…せめて苦しまぬ様に…。」

『…やめろっっっ…!?!?!?!』

「…一思いに決めてやる…。」

『…やめろっっっっっ…!?!?!?!??!?!』

「…死ねぇーーーー?!?!?」

『やめろっっーーーーーーーーーーっ!??!?!?!?!?!??!?!』

ドォーーーーーーーーーーーーン

「……っく?!?!」

突然の大きな爆発音とともに、あたり一面が凄まじい光と砂煙で満たされました。

赤鬼は目が眩み、その場に立ち尽くします。

徐々に目が眩しさに慣れてくると、今まで自分で掴んでいた三人がどこにもいません。

不思議に思いながらも、あたりを充満している砂煙が晴れてくるのを待ちました。

すると…

戦さ場の中央に、並々ならぬ気配を感じとります…

そこには…

“赤い妖気”を身にまとい…

強大な力を放出し…

猿、犬、雉を抱えた…

桃太郎が立っていました…。

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