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【連載小説】新説 桃太郎物語〜第十三章  (毎週月曜日更新)

【第十三章 “犬 対 黒鬼”の巻】

犬と黒鬼は激しく戦いました。

黒鬼はその手に持つ“琵琶”をかき鳴らすことにより、空気中に真空波を巻き起こし、その空気の刃で攻撃を繰り出してきます。その鋭さは尋常ではなく、少し触れただけでも真っ二つになるほどの切れ味でした。

『…これで…。この刃で子イヌは…。』

犬は黒鬼の攻撃を見て全てに合点がいきました。この黒鬼こそが“子イヌの仇”なのだと。

『…お前…、…四年前…森で子イヌを殺ったな…。』

それを聞いた黒鬼は答えました。

「…覚えてるっ?!?!…ちょろちょろうるさい虫けらっ?!?!…喉、かっ斬ったっ?!?!」

『…っ…?!?!?』

「…お前うるさいっ?!?!お前も八つ裂きっ?!?!?」

黒鬼はそう言うと琵琶をかき鳴らし、犬に攻撃を仕掛けるのでした。

孤高の狼との生活により、飛躍的に成長した犬でしたが、この数、この速さの空気の刃を避けきるにはかなりの神経を使いました。それに加えて、溶岩の上に岩の足場が点在するこの場所が、難しさに拍車をかけていました。

「…どうしたっ!?!どうしたっ?!?!」

『…ここだと足場が悪すぎて…避けるのが精一杯だ…。』

犬は攻撃しようと試みましたが、黒鬼の激しい攻撃の前になかなか間合いを詰めることができません。しかし、黒鬼の動きを観察していると、あることに気がつきます。

『…奴は…目が見えない…。』

そうです、黒鬼は攻撃する時に犬の方を見ていないのです。

『…目が見えないってことは…耳と気配で判断しているのか……。………。』

そう予想を立てた犬は黒鬼と一度距離を取りました。

「…んっ…。なんだっ!??…いきなり離れたっ!?!?」

そう言った黒鬼はやはりこちらを見ていません。

黒鬼は耳と気配で判断していると確信した犬は、足を思い切り踏ん張ると、一気に空気を吸い込みました。

そして!

『ワオォォーーーーーーーンっ!!?!?』

耳をつんざく様な大きな遠吠えをはじめました、そして左右に物凄い速さの足捌きを始めます。するとどうでしょう。先ほどまで正確に犬を捉えていた刃の攻撃の精度が落ちていくではありませんか。

『…狼から盗んだこの遠吠えは、相手の聴覚を惑わせる効果がある…。それと同時に早い足捌きで足音も極力消せれば、奴は正確に俺の場所をつかめない………。……今だっ!!』

そう言うと犬は空気の刃を掻い潜りながら、一気に黒鬼との距離を詰めました。

『…いけるっ!!?!?』

犬がそう確信したその時でした。

…ヒュン

『…っな…。』

…犬の目の前には…

先ほどまでなかったはずの…

無数の空気の刃が…

突然迫ってきたのでした…。



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犬は既のところで致命傷は免れましたが、かなりの傷を受けてしまいました。

『…ぐぅ…。…なっ…なぜだ…。』

「…なぜかっ??…音っ…気配っ…目が見えない分感じているのはもう一つ…。温度っ?!?!?」

『…おっ…温度だと…。』

「…近づかれるのがとにかく嫌っ!?!半径四尺(2メートル)に入ればっ自動的に刃の餌食っ?!?」

『…くそっ。…。』

犬は思い知らされました。黒鬼は自分の半径四尺以内に入ったものの温度を感知して自動的に空気の刃を放てるということは、黒鬼を仕留められる間合いに入ることは、相当困難だという事を。

「…ちなみにこの体強靭っ!矢や剣投げても貫く事不可能っ!!お前はこの身に触れることさえ不可能っ?!?!」

『…遠方攻撃も駄目か…。このままでは奴に近づくことさえできない…。…考えろっ…。考えるんだっ…?!?』

犬は必死に考えを巡らせました。

「…いくら考えても無駄っ?!?!」

『…………っ……。』


犬にとってこの状況はかなり難しいものと思われましたが、その眼光は鋭さが増してきている様にも見えます。そして先ほどと同様、足を思い切り踏ん張ると、一気に空気を吸い込みます。

『ワオォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーンっっっっ!!?!?』

犬は先ほど以上に大きな遠吠えをはじめ、さらに早い足捌きを始めました。

「…先ほどと同じ方法っ?!?増しても効かぬっ!?!」
犬は一気に黒鬼に向けて駆け出すのでした。

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黒鬼は琵琶をより一層激しくかき鳴らしました。犬の攻撃に備えて、空気の刃を増やすためです。

「…これだけやれば近づけぬっ…念には念っ?!?」

黒鬼は先ほどよりも集中して犬の音や気配を探しましたが、ほとんど感じることができません。

「…感じれぬっ…増した効果っ?!?…ならばっ?!?!…自動の刃で八つ裂きっ?!?」

不安もよぎりましたが、黒鬼には自動の刃がありました。

その時です!

スパァーーーン!!!!

突然自動の刃が発動し、一刀両断した手応えがありました!黒鬼は叫びます!!

「何人たりともぉぉぉ?!?!この身に触れることぉぉぉぉ?!?!できはせぬぅぅぅ?!?」

黒鬼は琵琶の弦を強く弾き、今まで以上に大きな刃を創り出しました。

「…止めの一撃ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!?!?!?」

ザクっっっ!!!!!

「…かっかっかっかっかっかっかっ…」

勝利を確信した黒鬼は溢れる笑みを抑えることができませんでした。

しかし…

「…かっかっかっ……っ…………っ……???!?!?」

どうも様子がおかしい様です…

「……がっ………がはっ…?!?!?…っなっ……なにっっっ?!?!?」

黒鬼はそう叫ぶと、首筋から大量の血が吹き出し始めました。

そして…訳もわからぬままにそのまま苦しみ悶えるのでした。

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苦しみ悶える黒鬼の目の前には犬が仁王立ちしていました。そしてその傍には、真っ二つに切られた大きな岩が転がっています。

「…ぐぅ…?!?…っなっ……なにっが…おこった?!?!?」

犬は黒鬼を見下ろしながら静かに話し始めました。

『…先ほどと方法は同じだが、俺がお前に突進する直前に足場の岩を使わせてもらった…。お前に近づいても、自動の刃が飛んでくる…。それでこの岩を盾がわりにした…。ただ一番厄介なのは、その一太刀を岩で防いだとしても、お前の間合いに届かないし、そこから入ろうものならまた自動の刃が飛んでくる…。…。…黒鬼…お前の喉元を確認してみろ…。』

「…こっ……、…これはっ……?!?!?」

なんと黒鬼の喉元には“犬の左腕”が、その鋭い爪を立てて深く突き刺さっていました。

『…遠方からの矢や剣では攻撃の重さ鋭さが足らずに貫けない…。…何よりお前は温度を感知する…。ならば方法はただ一つ…。間合いの中に入り攻撃の重さを確保し、温度を感知させないために血の通っていない、矢や剣以上に研ぎ澄まされたその爪を投げて攻撃するしかない…。』

そうです。犬は間合いに入った後に自動の刃で迎撃されない様に、自ら切断して体温をなくした自分の左腕を最強の武器と変えて、黒鬼を攻撃したのです。

「…っおっ…、…おまっ…えっ?!?……っう…うでっ…をっっ?!?!?」

『…お前を倒すためならば…腕の一本や二本くれてやる…。』

「…っそっ…、…そこっ…までしてっ…なっ…なぜっ…。」

『…子イヌは温もりと優しさ…その他多くのことを俺に教えてくれた…。…これで子イヌも少しは報われただろう…。』

「…っぐ…。…だっ…だからっ…、いっ…いやな…よか…んがっ、…してっ……っ……。。。」

喉を潰された黒鬼は、苦しみ悶えながらまさに“鬼の形相”で絶命し、そのまま灰になりました。

流れゆく黒鬼の灰を見ながら、犬は呟きました。

『…子イヌ…。…お前の仇は取ったぞ…。』

子イヌを想い天を仰いだ犬は、左腕の傷口を縛るとそのまま急ぎ洞穴の奥へとかけていきました。

こうして犬と黒鬼の因縁めいた壮絶な戦いは、今まさに幕を閉じたのでした。

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