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「マスター・オブ・ゼロ」シーズン3 この気持ちを言葉にできるだろうか

先日、このドラマのシーズン3を観終わりました。

かねてよりNetflixで人気シリーズだったこの作品。私も大好きでした。

しかし、制作、脚本、話によっては監督、そして主演まで務めてるアジズ・アンサリがシーズン2終了後に大変なことになってしまい、、、。

以下に今回のシリーズ3の評とアジズに何が起こったか書いてありました。気になる方はご覧ください。

先に書いておくと、今回のシーズンは今までの一応コメディだったシーズンとは別物です。

※ここからは思いっきりネタバレしながら感想書いていきます。結末を知りたくない方はご注意下さい。


「マスター・オブ・ゼロ シーズン3が配信される」と知った時は嬉しかったです。そして観た予告。

これがもうとても良くて。この予告で誰がどう観ても、今回は主役はアジズ演じるデフじゃない事は分かります。

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主役はデフの親友のデニース。そして彼女の妻アリシアです。

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第一話では、田舎の素晴らしい内装の一軒家で二人で幸せに暮らす佇まいから描かれます。始まってしばらくして、もうこの二人が愛らしく、そして美しい。先に書いちゃうとこのドラマ、絵が本当に美しいんです。特に二人でいるシーンは、極力人物に寄り切らず、定点から撮るような画面なのですが、部屋の美しさや二人の密な関係がかえって強調されて。さりげないシーン(洗濯のシーンやベッドでの会話のシーン)はとても微笑ましいです。

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デニースは作家として成功し、インタビューまで受けるような売れっ子に。アリシアはインテリアデザインを勉強中の身。お互いを補完し合うかのような完璧なカップルに見えたのが、ある出来事で一変します。

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子供を望むアリシアはデニースと相談し、彼女の親友の男性から精子を提供してもらい、妊娠を試みて成功しますが、流産してしまうのです。

その出来事から二人の関係は石が転がり落ちるように崩れていきます。浮気、生活やお互いへの不満、信頼関係が失われていた事が明らかになり、アリシアが望み、二人は離婚を選択します。

ここまでだけでも、今までのシーズンを楽しんでた者からすると、めちゃくちゃキツいです。「マスター・オブ・ゼロ」って一応コメディだったのに。笑えるどこか二人の悲しい展開に呆然。1話がとても幸せそうだっただけに。ただでさえ、流産だけでも辛いのに。。。

しかし、本当にキツいのはここからでした。


第4話が本当に凄いんです。

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第4話ではほぼアリシアしか出てきません。一人でも子供を持とうとアリシアが向かうのは不妊治療専門のクリニック。医師との最初の面談で聞かされるのは妊娠までの想像を超えた厳しい道のりでした。

年齢による妊娠の確率の低さ、性的嗜好(同性愛者)へのあまりに配慮のない保険システム、費用がかかり、日々の薬や注射など日常の過酷さ。

自分のインテリアの店を持つ夢すらお預けにし、体外受精による不妊治療を選択したアリシアが、大量の薬をキッチンに広げながら、怖い思いを抑えて初めて注射を自分にするシーンは胸が痛くて。

第4話は不妊治療、体外受精がいかに過酷かがひたすら描かれます。精子を提供してもらう男性にクリニックに行ってもらうことを話すところから、描写は凄く細かく、リアルです。病院で卵子をとる、体外で受精させた卵子を子宮に入れる。その度に病院に入院します。一回で成功するとは限らないため、失敗したらまた同じ事の繰り返し。お金も自分もすり減らします。パートナーもいないため、一人で奮闘しなくてはなりません。

疲弊していくアリシアがとても印象的です。

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病院で受精卵を子宮に戻す手術室のシーンで、看護師に慰められるアリシア。このシーンは私はずっと泣きっぱなしでした。

二回目の施術でアリシアはやっと妊娠に成功します。医師の報告に喜びの涙を流し、泣きながらずっと支えてくれた母親に電話をする。観ている側もホッとします。

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ラストの第5話はデニースとアリシアが再会し、かつて一緒に暮らした一軒家に一晩だけ泊まりにいく様子が描かれています。今の持ち主により変わり果てた内装の部屋で、お互いに別のパートナーと暮らしながら、自分達の関係や人生を振り返る。正解も不正解も決めつけることなく、ただ話すだけの二人。ラストは今までのシーズンに共通するように、答えをはっきり出さない形で終わります。

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このシーズン、恐らく結構好き嫌いは分かれるかなと思います。

アジズのコメディの要素が好きな人は、今回全くと言っていいほどないので(デフが出てくるシーンがかろうじて笑えるかな)、ダメかもしれません。

でも私には、このシーズンだけでアジズの監督としての力、デニース演じるリナの素晴らしい脚本、何よりアリシアを演じたナオミ・アッキーの演技にすっかり魅了されました。

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私にはこのシーズン3の主役はアリシアでした。

彼女の選択、行動、起きた出来事の捉え方。愛について。

「女性は強い」なんて簡単な言葉では済ませたくありません。

ただ彼女に圧倒されると同時に、どこかで「そうだよね」と頷いてみたり。

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アジズとリナはどこまでどういう脚本の作業をとっているかは分かりませんが、このシーズンを作ってくれて「ありがとう」という気持ちでいっぱいです。

このシーズンを観た感情を上手く表現するのは難しいです。

ただ私は観て本当に良かったし、今回ほぼ監督に徹したアジズに。

絵や音楽、間の多いシーン作りにこだわり抜いたその手腕に。

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おかえりなさい。

次もあるよね?楽しみにしています。

おまけ アラン・ヤンのこちらも観なければ。




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