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異次元の少子化対策を考えた一年

「少子化を何とかしなければ。」そんな問題提起が、今年はよく見られるようになりました。

今年の初めに、首相が年頭会見で、異次元の少子化対策に挑戦すると打ち上げてから、もうすぐ一年が経とうとしています。その間に、こども未来戦略会議が組織され、6月13日に方針が閣議決定されています。
参考:こども未来戦略会議|内閣官房ホームページ (cas.go.jp)

その後、方針に基づいて、具体的に何をするのか、財源はいったいどこから捻出するのかを、ああでもないこうでもないと議論しているのが今だと理解しています。
岸田首相「異次元」伝わる少子化対策を指示 新藤義孝経済再生相に - 産経ニュース (sankei.com)

この十数年、ずっと日本の未来は暗いと言われ、その最大の原因となっているのは少子高齢化であると考えています。人は必ず老いるので、高齢化は止めようがありませんが、少子化は対策を打てるはずです。

今年は、少子化対策にずっとスポットライトが当たり、多くの人がこの問題に、深くかかわるようになった転換点でした。そこで、1年を振り返って、自分の所感をまとめてみようと思います。

1 政府は何をしようとしているのか

異次元の少子化対策として、打ち出した「こども未来戦略方針」では、基本的な考え方として、「少子化は、我が国が直面する、最大の危機である」と述べています。

そして、出生数にも言及しており、出生数が初めて 100 万人を割り込んだのは 2016 年であり、2019 年に 90 万人、2022 年に 80 万人を切りました。今年は70万人台前半になるとも言われており、ここ数年の減り方の凄まじさが表れています。
日本の出生数8年連続最少へ 2023年は70万人台前半、民間試算 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

少子化によって、人口が減る問題点として
・現在の経済・社会システムを維持することは難しくなる
・労働生産性が上昇しても、国全体の経済規模の拡大は難しくなる
・他国の経済発展が続く中、国際社会における存在感を失う
と、国内外において大きな負の影響があると警鐘を鳴らしています。

さらに、「若年人口が急激に減少する 2030 年代に入るまでが、こうした状況を反転させることができるかどうかの重要な分岐点」であり、ラストチャンスだと述べています。

つまり、少子化を何とかする目途を2030年までに立てないと、色々なマズイことが起きるから、この方針を作ったということだと思います。

方針の柱となる基本理念は3つです。
 ・若い世代の所得を増やす
 ・社会全体の構造・意識を変える
 ・全てのこども・子育て世帯を切れ目なく支援する

基本理念について、少し掘り下げていきます。

2 若い世代の所得は増えそうか

第16回出生動向基本調査によれば、理想の子ども数を持たない、最大の理由は「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」です。教育・子育て費用によって、理想は3人子どもが欲しいが2人を予定(59.3%)、2人欲しいが1人を予定(46.2%)と思う夫婦が多数いることが分かります。

確かに、出生率が高い1950~1970年は戦後復興から高度経済成長期で、今日よりも明日がきっとよくなると多くの人が感じていた時代です。そのため、仕事をしていれば将来の給料も上がると信じられていました。

少子化を食い止める一丁目一番地が若い人の所得を上げることであることは正しいでしょう。そのための一番分かりやすい取組みは賃上げです。

以前のnoteでも記載しましたが、今年の賃上げ率は、記録的な物価上昇を受けたとはいえ、数十年ぶりの高水準となりました。政府や連合、そして労働者は、その勢いが来年も継続することが期待しています。

すでに来年度の賃上げを決めている企業もあり、サントリーホールディングスや第一生命ホールディングスが7%の賃金引き上げを決めるなど、今年以上の勢いがみられるところもあります。
参考:7%賃上げへ 来年度、株式報酬を導入―第一生命HD:時事ドットコム (jiji.com)

賃上げは企業や労働・経済団体が主役ですが、政府も様々な機会をとらえて、賃上げの機運を高めようとしているように思えます。
来年度予算の基本方針に「持続的賃上げ」明記へ (msn.com)
岸田首相「賃上げが最重要課題だ」、参院予算委で締めくくり質疑…補正予算案成立へ (msn.com)

個人としての給料アップだけではなく、全体としての賃金率が上がるかどうかなので、こればかりは来年度の春闘の結果を待つしかないでしょう。

ただ、構造的な賃上げとして「成長分野への労働移動の円滑化」も挙げられています。リ・スキリングによる能力向上支援や職務給の導入、そして、成長分野への労働移動など、個人個人が自ら稼ぐために何をすべきか、主体的に動ける人は所得が増える方向に向かいそうです。

3 社会全体の構造・意識を変える

これは、以前は、女性(母)が中心となっていた子育てを、夫婦ともに協力し、そして社会全体でそれを支えていこうという試みです。

最初に思い付くのは育休です。以前は、母親だけが産休を取る、または専業主婦となって育児をしていたものを、男性の取得を当たり前にしていこうとしています。それでも、令和5年度の厚生労働白書によると、男性の育児休業の取得率は、令和3年度時点で13%と、女性に比べれば六分の一以下です。

一方で、潮目が大きく変わったようにも感じます。13%とはいえ、たった3年で倍以上となっていることは特筆すべきですし、旗振り役である国家公務員は取得率が70%を超えるなど、徐々に男性の育児休暇の取得は当たり前になっているようにも感じさせます。
男性国家公務員の育休取得、初の7割超え…「2週間~1か月」が最多の48% (msn.com)

また、政府の子育て施策においては、「こどもまんなか社会」の実現を目指しています。こども家庭庁のサイトを見ると、政府は、こどもや子育て中の方々が誰にはばかることなく暮らせるような、社会の実現を目指しているようです。

そのための細かな施策も様々実行されています。
・公共施設や商業施設などの受付において、妊婦やこども連れの方を優先するこどもファスト・トラック
こどもファスト・トラック|こども家庭庁 (cfa.go.jp)

・2022年の「こどもみらい住宅支援事業」や2023年の「こどもエコすまい支援事業」のような、子育て世帯が住宅を購入する際の補助金(来年は「子育てエコホーム支援事業」を行うようです。)

住宅購入の際の金利引き下げや、公営住宅ストックを活用し、子どもを産み育てやすい環境を整備する取組を進めるなど、子どもを育てる住宅にも着目した施策も進めています。

総じてみると、雰囲気作りであるように思います。子どもを育てることは尊いことだ、社会皆で支えるのだという雰囲気を醸成して、環境を整えようとしている、そのような印象を受けました。

4 全てのこども・子育て世帯を切れ目なく支援

支援は、教育費といった経済的な支援から専門家からの相談といった精神的なケアも含むようです。

経済的な支援は、昔からある児童手当などの給付が改善されています。
 ・今年から50万円に増額した出産育児金
 ・多くの自治体が無償化に舵を切っている小児医療費
 ・支給額が増額し支給期間も延長する方向で進められている児童手当
思いつくだけでも、数年前から改善が図られました。

また、最近のニュースを騒がせている
東京都の私学を含めた高校の実質授業料無償化
多子世帯の大学授業料 無償化
といった 当事者として喜ぶべき事柄ですが、「ここまでやって大丈夫か?」と心配になるような少子化対策がどんどん進められています。

経済的な支援でなく、当事者のケアも重要な要素です。伴走型相談支援では、妊娠中から出産まで、保健師などの専門家に何でも相談できる体制が整えられています。

さらに、この事業は無料であるどころか、3回相談に乗ってもらうことで、今年から始まった妊娠・子育て応援給付金の受給資格を得ることができ、相談に乗ってもらうことでお金がもらえるというシステムになっています。

他にも、こども誰でも通園制度では、誰でも子どもを保育士に預けたり、相談に乗ってもらえますし、子どもが小学校に上がった後も、放課後児童クラブがあることで、フルタイムで働いた後に迎えに行くこともできます。
以上参考:こども未来戦略方針(リーフレット等)|こども家庭庁 (cfa.go.jp)

5 まとめ

総じて、自分が子どもの時よりも、子どもへの支援は大きくなっているように思います。もちろん、社会保険料等が増額していることから、現役世代の負担も大きくなっていることを加味しなくてはいけませんが、ありがたいことだと感じます。

もちろん、全部が全部、素晴らしい政策であるとは思いません。生命保険料控除の子育て世帯を対象とした拡大や、転落防止や対面キッチンのリフォームをした際の減税措置の検討については、「なぜそこに?」と疑問符がつくものもあります。

ただ、どんな政策を進めようとも、反対する人はいます。
・高校を無償化にすれば「大学が一番費用が掛かるから意味がない」
・多子世帯への大学の無償化には「一人目を生む環境を整えることが大事」
・妊娠子育て応援給付金に対しては「10万円では少なすぎる」
どんな事柄にも文句はつけられます。

一番よくないのは、なし崩しとなって中途半端な制度になってしまうことです。少子化対策が目的であったにもかからず、年収○00万円以下の人限定などと所得制限をつけてしまったり、5年間の時限的措置としてしまったり、妙な落としどころに嵌ってしまわないことを心から願います。

形にして事業化して実行することが大事です。少子化対策が待ったなしであるとは心から思うので、今よりも一歩でも前に進む施策を打ち出して迅速に実行に移してほしいと思います。

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