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障害者の助けになろうと思った|児童指導員 竹下由紀子さん 1

千葉県富里にある多機能型事業所 SEIKO PLUS富里 さんにお邪魔しました。
多機能型事業所とは、障がい福祉に関する2つ以上のサービスを提供している施設のこと。こちらでは児童発達支援をはじめ、放課後等デイサービスや保育所等訪問支援と多岐にわたった福祉サービスを行っています。
今回お話を伺った施設長の竹下さんには、製品開発のアドバイスを頂いたり、試作品のモニタリングにご協力いただいたりと、普段からとてもお世話になっています。インタビューは「Didit」森行正です。

SEIKO PLUS富里
運動プログラムと学習プログラムを通して基礎的な力を育み、コミュニケーション力や適応力の発育を促します。お子様が社会で必要なスキルを身に付けることができるよう支援して参ります。
https://seikokai.life/facility/seiko-plus-tomisato/

竹下 由紀子(たけした ゆきこ)
児童福祉に従事して8年、自分の気持ちを伝えること、相手の話を聞くことなど、コミュニケーション力を育む事を目的とした集団活動を中心に支援を行う。「自身の気持ちを伝えることができない為集団活動に馴染めず、一人で過ごす事が多いお子様にトランポリンや縄跳びなどの運動を行うことで感覚が整理され自身の気持ちを少しずつ伝えることができるようになる事があることを経験しました。気持ちを伝えることが出来るようになるとお友だちとのコミュニケーションも次第に増え、集団活動に少しずつ参加できるようになります」。

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平日の朝9時30分。施設を訪問すると子供たちの元気な声が聞こえてきます。さっそく運動しているクラスを案内していただきました。ちょうど巧技台を使って台によじ登ったり飛び降りたり、はしごを渡ったりと、かなりアクティブに身体を動かしているところです。

── みんなすごく上手ですね。

竹下:毎日やってますからね(笑)。いろんな動きがあるんですけど、最近は、「跨ぐ」という動きを意識して取り入れてます。股を開いてよじ登るっていう動きができない子が多いので。

── 日常にそういったシチュエーションがないということでしょうか?

竹下:そうですね。外で遊ぶことも少なくなった上、公園にもそういったタイプの遊具がないので。ここでは巧技台を使って「台に右足を乗っけたら、次は上半身を上にあげる」という体の動かし方を最初に教えて、自然にできるように指導をしています。

「股を開いて」かなりの高さの台によじ登る。

股を開く、というのはやっぱり大切で、例えばトランポリンもペンギンみたいにピョンピョンって跳ぶ子がいるんですね。股関節や膝の曲がりが少ないからそうなっちゃう。よじ登る、という動きができる子はトランポリンも上手に跳びますね。

── 見ていると腹筋も握力も脚力も、、全身運動ですね。体幹もすごい。やっぱり身体を動かすというのは大事ですか?

竹下:そう思います。身体を動かすことによって(脳や気持ちも)活性化されるみたいで。気持ちの切り替えもだいぶ早くなりましたね。これまでは色んなことが「できないできない」って言われてきたんですけど、運動に関しては「できる」ことも増えてきました。

あとは会話ができるようになったりとか。ここに来たばかりの頃は先生からの一方通行で終わりだったんですが、今では「先生こうだよね」とか自分から話すようになったので会話が続くんです。呼び方もそれまでは「先生」だけだったのに、「誰々先生」って名前を覚えて言えるようになりました。

── それは筋肉を使う、汗をかく、ということが影響しているのでしょうか?

竹下:たぶんそうだと思います。普段の生活を見ていても、運動に参加している子の方が落ち着いてるんですよね。参加しない子は、わりと成長がのんびりさん。積極的に参加した子は成長の伸びが早い。

参加しない子というのは、やりたがらない、もしくは好きなものだけ。例えばトランポリンだけとか。でもその場合は成長の度合いが少ないように感じます。

ハシゴは結構な角度を付けてセットしてあるので、渡るには握力だけでなく腹筋や背筋も必要。

── 保護者の方からも「変わった」と言われますか?

竹下:言われます、全然違うと。例えば保育園に迎えに行っても、これまでは「帰りたくないー!」って言ってたのが、今はもう「スッ」て帰るって(笑)。あとはしょっちゅう癇癪おこして、もうどうにもならなかったのが、「こうだよ」っていうと、「じゃあこうすればいいの?」って。落ち着いてやりとりができるようになったという話も聞いています。

── それはすごい変化ですね。

竹下:一番大きく変わったのは、(運動している男の子を指して)あの男の子です。ここに来たときは言葉をしゃべらない、何かを訴えるときは噛みつき。それから一年経って言葉はしっかりしてますし、訴えたいこともちゃんと言葉で言えるようになりました。

── その要因はなんだと思いますか?

竹下:実はこの子の場合、家庭がちょっと複雑ということもあって。やっぱり運動とか学習を通してスキンシップを取りながら、かけられるだけの愛情をかけて言葉もかけて、とやっていったら切り替えがはやかったですね。半年後には普通に喋っていました。

── それは本人の問題というよりも、境遇がその状態を引き起こしていた可能性が高いということでしょうか?

竹下:そうだと思います。だから一番多いのが二次障害といって、育った環境によって障害が生まれてしまっているという状況だと思います。

── 運動によってそんな状態を丁寧にほぐしていくという感覚でしょうか。

竹下:実際に体を動かしながら、褒めたりすごいねって声をかける。そのことが子どもの成長につながっていくのだと私は捉えてますね。


実際に運動を行っている様子を見学しながらお話を伺いました。


── こちらに来ているお子さんは保育園にも行って、ここにも来ているということですか?

竹下:そうです。1日の中で保育園とウチを行き来する感じですね。保護者さんも忙しいので、保育園までの送迎はウチで行っています。

── 小学校にあがるまではずっとそんな感じなんですか?

竹下:はい。でも最終的にはここに来るのを例えば週5から週3に減らしていって、なるべく保育園で見てもらえる状態に変えていければ良いかなと思っています

── でもこっちだけの方が良いってお子さんもいるんじゃないですか?

竹下:はい、います(笑)

── 先生もほぼマンツーマンで見てくれるし。子どもにとって「ちゃんと見てくれてる」っていうのはやっぱり嬉しいし、楽しいものですよね。

竹下:悪い意味ではないんですけど、やっぱり保護者さんも忙しくてそこまで面倒を見きれない時代というか。ごはん食べてお風呂入れて寝かせて、それが子育て、みたいになっちゃう方が多いんですね。でもここでは「ちゃんと見てるよー」とか「がんばってたねー」とかできるだけ声をかけるようにしてます。

保護者さんには「今日はこういうことができたんで、ぜひ褒めてあげてください」とか「これ得意にやってたので、お家でも同じようなことやってみてください」といった形での支援をさせていただいています。

── (部屋を見渡して)鉄棒がありますが、これも日々の運動に取り入れているんですか?

竹下:おもに「ぶら下がり」に使っています。前後にブラブラ揺れるのを10回やってみたり。最初はうまくできなくても、自分の前の子が10回できたのを見ると、悔しいから頑張ったりして。みんなでやるとそういった効果もありますね。あと、できない子は下にトランポリンをおいて「バーを握ってジャンプする」という使い方をしています。

おもにぶら下がり運動に使用している、折りたたみ式の鉄棒。

── 握力も結構付きますよね。

竹下:ここに通い始めたばかりの子は手を握ってもふわふわしてるけど、鉄棒していると、しっかり握り返してくるようになりますよ。

(続きます)

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