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エッセイ: 優しさを止める

人生で大きな転居は、これで二度目になるだろう。
最初は24歳で実家を出た時。そして今回の転居は私の、これまでの人生をすべて脱ぎ捨てる為の転居。

1996年。渡米する前の年から2022年の先月まで使い続けて来た頑丈な冷蔵庫は未だ健在で、今も旧宅で静かに小さな小部屋の中に冷風を送り込んで生きている。だが、そろそろ頑丈な昭和の冷蔵庫を手放す時が来たようだ。
独身時代の私を力強く冷たく支え続けて来た冷蔵庫は、今の私(私たち夫婦)にとっては余りに小さすぎる。スイカもゼリーも冷やせない、たかだか葉物が一個か二個、或いは牛乳パックと2本のペットボトルを入れたら満杯になってしまう小さな冷蔵庫と、間もなくお別れする。

2021年12月1日に母が他界し、そこから急変した私の暮らしや食生活、そして金銭状況その他諸々の整理(いわゆる遺産整理或いは遺産相続)が一旦2022年の6月で終了した‥ と思いきや、先日実家で受け取った「或る封書」から母にまだ隠し資産があることが判明し、遺産相続の続きが再開。
さすがにお世話になっていた司法書士さんもこれにはびっくりで、口をポカン‥ とさせて笑いが収まらなかったようだった。
今その続きの真っ最中で、私はちょっとした資産持ちになった。

そもそも私は海外の王室の血を引いているが、第二次世界大戦中に色々な混乱があり、私の祖母の代から家系図が途絶えている。
だが今回母が家族の誰にも分からないように隠し続け、守り続けて来た資産を見る限りそれらが「かの王室」から受け継がれたであろうと言うことが、ひと目で私には分かった。


私を犠牲にする体(てい)で弟・大輔(故)の為に貯めて来た筈の母の個人資産は、遂に誰の為に使われることなく殆ど手つかずのまま私が譲り受けることになった。
何よりの犠牲者は、実は母と心を一つにして私を排除し続け他界した弟だったかもしれない。
弟が人生最悪の持病の悪化と急変で入院し、大掛かりな手術をした際の治療費や入院費用すらびた一文も母は捻出しなかった。
元々「うちにはお金がないのよ。」と言う言葉を完全に信じ切っていた弟だったから、今このタイミングで私が手にしたものを見て誰よりも驚愕し、誰よりも後悔し、そして誰よりも落胆している黄泉の世界の弟・大輔(故)を思うと不憫でならない‥ とはもう思わない。

因果応報。自業自得。


弟の霊体は現在、二度と自力では出ることも戻ることも出来ない、闇深い場所に在る。
何故そんなことになったかと言うと説明が難しいが、弟が死後に及んでまで私に呪詛を仕掛けて来たので夫が(わかりやすく言うところの「霊界のブラックホール」のような場所に)飛ばして封印したからだ。

そこは音一つない、時間も流れない闇だけが広がる場所で、おそらく自力で弟がその空間から這い出ることは不可能だ。
弟の霊体は今そこに居て、幽かな霊魂の力を駆使しながらじっと私の様子を伺っている。
そこで彼自身の人生や言動のすべてを振り返り、後悔しながらこの先きっと数百年~数千年もの時をそこで過ごすことになるだろう。

一方私は未だ心に大きな傷痕を抱えながら、今のこの命を生きている。
トラウマの大きさが日々の悪夢からも感じ取れる。人に対する気遣いはそもそも毒親からの暴力から逃れる為の手段の一つだったが、それが私の対人関係の足枷になることに最近気づき、人生57年目にして私はそれまでの人生のリセットと同時に、人間として最も必要な感情の一つでもある「優しさ」を捨てることにした。

私の優しさはきっと普通の人にとってはただの重荷であり、エネルギーが大きすぎるのだ。それが人をダメにし、私との人間関係をも狂わせてしまう要因だとある日気が付いたのだが、いざ手放すとなるとなかなか勇気が要った。

関わる人すべてに起きる態度の豹変や蔑視の感情は、私と相手とのエネルギーの格差の中で起きていた。それを止めるには、私が「優しい人」をやめる他に方法が見つからないことを、私も又受け入れる必要があった。
そもそも私がJ.S.Bachと言う過去世を生きたことすら受け入れてはくれない相手に、何も私が優しさを傾ける必要などない。

そんな簡単なことが出来なかったのもひとえに私の弱さに過ぎなかった。そうと分かれば、後は行動あるのみ。
当面の間、もしくはこれから死ぬまでずっと、冷血人間をやるのも悪くないだろう。

いざ、ガチで優しさと言う厄介な感情を手放してみると、色々な面で確かに、明らかに身軽になった。
過剰に人に気を遣わなくて良くなった分、余計なメールも会話も激減した。その分多くの時間を得られるようになり、仕事も捗り始めた。
「私と話しがしたければ先ずはそこにひざまずいて頭を下げて、これでもかと言う程恐縮したまえ。」とは言葉にしないまでも、態度でそれを表すだけで、私を下んじようと目論んで近寄って来る人を自動的に蹴散らすことが出来る。

これぞ文明の力。暫くの間、この文明の力を行使しながら私は、新しい流れを自分の内外に巻き起こしたいと願っている。


我が家の転居と部屋作りは、暫くの間続きそうだ。
それが終われば次は実家の大掃除と売却。そして当初は納骨する予定だった母の遺骨を含め、家族の墓じまいに踏み切ることに決めた。
墓があることで私は、今日まで母と一緒になって私一人を家族や親戚の輪から排除し続けて来た人たちとの縁が続いて行く。出来ればそういう煩わしいものは、ない方が良い。

未だ弟が他界してから今年で8年目、母が他界してから一年未満ではあるが、悪しき連鎖をここで私の手で断ち切ることにしようと思う。


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