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「光で遊ぼう」

あるていどの年配の人は、小学校で先生が使っていたOHP:オーバーヘッドプロジェクターという機械をご存じだと思います。現在は書画カメラやタブレット、大型ディスプレイに置き換わってしまったので、大学の学生に聞いても「見たことがありません」という返事しか返ってみませんが…

数年前にレッジョ・エミリアのマラグッツィ国際センターを見学する機会があったのですが、レッジョの幼児学校では現在でもOHPを探究の道具として活用しているそうです。OHPの皓々と光るテーブルの上におもちゃやセロファンを置くと、鏡と光、レンズの効果によってその映像が壁に映りますが、この機械で遊びながら子どもたちが光の魔法について考えをまとめようとしている様子を、レッジョのアトリエリスタ、ヴェア・ヴェッキが記録しています。

マルコ:「壁に映ったときのイメージは違うね…向きがかわってつづいていて、ぼくがおもうには、このぜんぶのながれが上に行ってから、かべまでとどく電気(電子?)システムがあるんだ。」
ルチア:「このシステムが、物の姿を運ぶの。」
マルコ:「たぶん、小さな管の中にイメージが入っていて、それを鏡(オーバーヘッドプロジェクターについている小さな鏡)に持っていくんだ…それをひみつの通路にもっていくと近道で、できるだけはやく壁にイメージをとどけるんだと思うよ。」
ルチア:「鏡の中のイメージが壁に向かって走っているの。それを鏡がひっくり返してる。」
マルコ:「髪留めが宙返りをするみたい。」
ルチア:「壁の上で宙返りしてる。電球の中に髪留めのイメージがあって…髪留めは壁の上で宙返りをしてる。」
マルコ:「ちがうよ、それ(宙返り)はまず鏡の上でやっているんだ。」
ルチア:「双眼鏡みたいなレンズがいるわ。」
マルコ:「レンズは宙返りをさせるのに役立つんだ」
ルチア:「なぞがとけたわ。」
(Vea Vecchi, 2010, ”Art and Creativity in Reggio Emilia" Routledge)

わたしも日本の乳幼児ワークショップで仕事をしていたとき、子どもたちとOHPを使って遊んだことがあります。面白かったのは、0〜1歳の子どもたちの多くは、光るテーブルの上のおもちゃと壁に投影されたおもちゃの影の関係が頭の中でつながらないようで、壁に映った映像にあまり関心を示さないのですが、4〜6歳の子どもたちは、おもちゃと投影された映像の関係に気づいたり、OHPの機械の仕組みに興味を示したことでした。

レッジョ・エミリア・アプローチでOHPを使った遊びをしていることは日本でもある程度知られていますが、残念なことに、冒頭に書いたようにOHPという機械がいまではほとんど手に入らない、という事情があります。
しかし、OHPはテーブル(ボックス)の中の光源から光がレンズと鏡を通して投影される、というわかりやすい構造なので(だからこそ、子どもたちの探究の対象や道具になるのだと思います)、あるとき「これはもしかしたら、DIY(手づくり)できるのでは?」と思ったのです。

DIYといっても、できればあまりお金をかけたくないのが人情というものです。そんなことを考えながら、大きな100円ショップを回っているときにいろいろと「使えそうな」材料があることに気がつきました。
結論から言えば、OHPは100円ショップで売っている材料だけで作ることができます。

まず光源ですが、できるだけ明るいLEDライトを探します。ここで大切なことは、LEDの光源が一点から光を発する必要があると言うことです。
明るさを重視するならLEDがイボイボのように並んだ懐中電灯もあるのですが、レンズで光を収束したり、映像を拡大するためには光源がいくつもあると像がぼやけてしまいます。
レンズはさしあたって大きめの虫眼鏡を見つけましたが、もっと都合が良いのはタブレットやスマホの画面を拡大してみるためのプラスチックのシート状レンズです。これを二枚入手します。
光のギラつきを押さえるために、工作材料コーナーに売っている半透明のプラスチック板(PPシート)もあるとよいでしょう。
鏡は、コスメ用品コーナーで四角い手鏡をひとつ購入しました。

おおまかにいうと、OHPは光源を中に納めた箱の蓋にあたる部分がテーブルの天板のようになって、シート状のレンズと半透明のシートをテーブル代わりに固定します。箱の中のランプは真上を向けてセットしておきます。
ランプの光はテーブルのシートレンズを通して上方向に収束され、そこからもう一枚のシートレンズと斜めにセットした鏡によって直角に曲がり、近くの壁に光が映ります。
テーブル(本体)と、上方にある二つ目のレンズと鏡の距離を調節することで映像のピントが合うようです。
OHPはこの部分が歯車になっていて調節が用意にできています。しかし100円ショップには歯車調節パーツまでは売っていませんから、細長い金属金物と強力(ネオジム)磁石で代用しました。
金物をテーブル(本体)から縦に伸びるように取り付けた角材にネジ止めし、レンズと鏡を組み合わせた部品を箱状にして強力磁石を固定すれば、磁力でピタッとくっつきますが高さ調節もできる、という訳です。


手づくりOHPの仕組み

むかし学校にあったOHPに比べると光量が弱いせいか、少々頼りないものの(ただし、電池で光るのでコードレスです)、ほぼ100円ショップに売っている材料(2000円分くらい)で手づくりOHPができました。
大学生たちに授業で遊んでみてもらったのですが、書画カメラ世代には新鮮だったようです。

DIYでOHPが作れることがわかってみてふと思ったのは、「これを子ども(幼児)たちと一緒に実験しながら作ってみることができないかな?」ということです。
OHPを使って遊ぶ、探究するのは、レッジョ・エミリアでも長年実践されていますが、もしかしたら「作ってみる」というアプローチはまだ、かもしれません…。
いずれ機会があれば、と思います。


手づくりOHPで遊んでみる


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