見出し画像

「終わらないプロトタイピングを、共に楽しめる人々との出会い」。ライゾマティクス企画・フロウプラトウ開発「HEERE」を投入した、DHUのオータム・トライアウト。

2020年秋、デジタルハリウッド大学(以下:DHU)で”これまでとは違う形"の入学試験が実施されました。その名は、「<オータム・トライアウト>総合型選抜」。例年は夏休みの最中に、対面での面接やグループワークなどを通して行われてきた試験が、コロナ禍の今回はすべてオンライン化しました。その裏側を支えたのが、ライゾマティクスの提供するHEERE(旧:Social Distancing Communication Platform:SDCP)です。

今回の記事では、ライゾマティクス/フロウプラトウとDHUがともにオータム・トライアウトを作り上げていくまでの舞台裏を、インタビュー形式でお届けします。

【インタビュー】
Rhizomatiks Design ディレクター/プロダクトデザイナー>
清水啓太郎(しみず けいたろう)さん
パナソニックで商品デザイン、UX先行開発業務に従事。2013年より現職。
現在は企業のR&D、ブランディングやプロダクト開発、web、イベント、空
間など様々な領域で役割を変えながら、チームメンバーとクライアントと共に本質を突いたクリエイティブワークを目指し試行錯誤している。
<DHU>
藤ノ木有沙(入試広報グループ)
text/photo/interview: TELLING

画像4

▲ライゾマティクスデザイン 清水さん

ライゾマティクスとDHUは「ともに作り上げる仲間」だった

——HEEREとDHUのファーストコンタクトは、緊急事態宣言のさなかだったとうかがっています。どのようなキッカケで連絡をとることに?

DHU:コロナによって「これまでと同じコミュニケーション」が難しくなる中で、DHUとしてもオンラインでの取り組みに力を入れたいと思っていました。そのころはオンラインオープンキャンパスをバーチャル空間でできたら、という構想があり、一緒にやっていただけそうな会社を探していたんですよね。そのタイミングで、こんなのがあるよ!と学内のメンバーから紹介されたのがHEERE(旧SDCP)でした。

——そこからはどのようなやりとりが行われたのでしょう。

清水:DHUから「オープンキャンパスで使いたい」という問い合わせをいただき、現状と展望の説明を行いました。「開発中のβ版ですよ?」という前置きも込みで。思えば、そのミーティングもHEERE上でおこないましたね。まだそのURLが生きているので見てみましょうか……。

画像2

DHU:懐かしい!

清水:こうして見ると、当時と今でかなりインターフェースが変わっていますね。

——オープンキャンパスのような使われ方をすることは想定していたのでしょうか?

清水:想定していたユースケースは、音楽イベントや配信イベントでした。リアルなライブ配信を埋め込んで、それを見ている人たちが雑談するためのシーンをイメージして作っていたんですよね。パブリックビューイングのようなイメージが近いかもしれません。

ですが、β版を使って下さった皆さんから「こんな使い方もできるんじゃないですか?」とさまざま意見をもらい、僕たちとしても「なるほど!」と。DHUさんからの「オープンキャンパスで」というご提案も、想定していた使われ方とは少し違ったもののひとつでした。

——「なるほど」から、具体的なところまで落としこんでいったということですよね。

清水:そうです。結局オープンキャンパスでメインツールとして使うのは難しかったのですが、コンテンツのひとつとして公開デモンストレーションを実施しました。その後、「ぜひ入試」にも使いたい、と。

――大学入試を、HEEREで?

DHU:はい。DHUでは「オータム・トライアウト」と呼ばれる独自の選抜方式の入試を実施していまして。その中にアクティブラーニング型のグループワークがあり、そこでHEEREを使いたいなと思ったんです。

清水:入試で使われるというのは本当に想定外で(笑)。ただ、これをキッカケに「学校」というコミュニティでコミュニケーションを促進するツールとなればいいなとは感じていました。

――実際に入試に向けて準備をしていく中での、DHUに対しての率直な印象は?

清水:一言であらわすと、「積極的」。プロダクト開発を自分たちの仮説ベースで進めていくとどうしても限界があるので、DHUがそこにどんなニーズがあるのかザクザク切り込んでお話してくれたのはすごくありがたかったです。

もちろん「それは難しいなぁ」と思うこともあったけれど、そのニーズはすごくわかるし必要だよねっていうものもたくさん出てきて。イチ提供主イチ顧客、という感じではなく、入試を、そしてHEEREを一緒に作り上げていく仲間なんだなと。

――具体的に、DHUからの要望で搭載された機能などもあるのでしょうか。

清水:「天の声機能」がそうです。HEEREでは、イベントに参加すると複数の部屋があり、一つひとつの部屋はクローズしています。参加者同士は同じ部屋にいると声が届くし会話もできるのですが、イベント主催者がすべての部屋に一度に声を届ける方法はありませんでした。そこで、登場させたのがテキスト版「天の声」です。

機能自体は普遍的なものですが、この機能がつくことで「そろそろ終わります」とか「何時から誰かこの部屋に移動します」とかがお知らせできるようになり、イベント全体の進行がスムーズになりました。そんな風に、生の声を聞きながら改良が続けられました。

会話が漏れ聞こえてくる「生々しさ」が、物理的距離を縮める

画像3

——さまざまなオンラインコミュニケーションツールがある中で、HEEREは特に「空間」「距離」のようなものを意識されている印象があります。

清水:おっしゃる通りで、そこはかなり大切にしていますね。オンラインコミュニケーションツールって、どうしても「ゼロイチ」になりがちだと思うんですよ。

――ゼロイチというと?

清水:たとえば、トークルームに「入るか、入らないか」。マイクをミュートに「するか、しないか」。リアルな場だと、テーブルの近くにいるからうっすら聞こえてくるとか、しようと思えば盗み聞きできちゃうみたいなこともありますよね。そんな風に、できる限りシームレスに距離感が変わる世界を目指しました。

——同じ場にいて、他のグループの会話も聞こうと思えば聞けてしまう、というのは特徴的ですよね。

清水:そうかもしれません。会話が漏れ聞こえてくるような「そこに人がいる」というフィジカル体験が、なんとなく人の距離感を縮めるものがあると思っています。実際に、入試のときに受験生同士が仲良くなるスピードには驚かされました。

DHU:そうそう、仲良くなるスピードは本当に早かったですよね!フィジカルで会っていると、空気を読んだり何らかの処理を経たりしながらコミュニケーションを進めたりしなければならないじゃないですか。今年はそれがないからこそ、ダイレクトにコミュニケーションが進められているような印象がありましたね。

清水:僕たちも、実際にお会いするのは今日が初めてなわけですが(笑)。

DHU:それでも、半フィジカルのような感じで接点を持ち続けていたからか、初めてという感じがしなかった。昔から会ったことがあったかのような。

清水:HEEREを使ったことで、学生たちも似たような体験をしていたのでしょうね。

——清水さんも、当日の入試の様子はご覧になられていた?

清水:もちろんです。「見ていた」というよりも、HEEREの構築からゲスト講義までほぼフルコミットさせていただいて(笑)。色々な環境制約もあり、すべてのグループワークをHEEREで……というのは実現できませんでしたが、端末環境や通信状況など条件の合う受験生たちがグループワークの課題を考える際の題材として使ってもらったり、グループワーク終了後の雑談ルームとして利用してくれたりました。

——どのような印象を受けましたか?

清水:純粋に「良かったな」と思いました。入試というものは、緊張感のある時間が流れますよね。オンラインだとどうしても、試験が終わった後に気持ちを解放する場所がなかったりしますが、HEERE上で「実はこう思っていた」とか「人前で喋るのは苦手だったけどオンラインでよかった」とか言葉を交わしている受験生を見て、あぁ、「ふっと息をつく場」の役割を果たせたんだなと。イベント本編をどのように楽しむか、という部分をテストケースとしていた僕たちからすると思わぬ発見です。

――受験生からの「オンラインで良かった」という感想は印象的ですね。

清水:フィジカルなコミュニケーションが当たり前だったころは、空気を読むのが得意な人、会話のテンポを掌握するのが得意な人が「コミュニケーションの上手い人」とされていたような気がします。一方で、フィジカルな場だと逆に話せない子もいる。そういう子が、オンラインだからこそ自分らしさを発揮できる、みたいなのはいいことだなと思いました。

大学生活は「振れ幅の中に身を投じ、やりたいことを探る旅」

画像4

――ところで、清水さんはどんな受験生だったんですか?

清水:僕が高校生のときは、本当に腑抜けでしたよ。保健室に行って先生と仲良くなって、保健室で絵を描いて、「予備校に行くので早退させてください」っていう日々で(笑)。スケボーと絵を描くしか能のない生徒でした。

だから、実際にオータム・トライアウトの受験を目にしたとき、その優秀さに「この子たちは何をやってきた子なんだろう」と驚いたんですよ。コミュニケーション能力が高いし、口下手な子もボディランゲージを駆使しながら一生懸命コミュニケーションをとっている。グループワークで各々がオーナーシップを持って議論を進めていくのをみて「これ本当に高校生だよね?」と。

――就職活動のグループディスカッションのような……?

清水:そうです。大学卒業くらいのコミュニケーションレベルだなと。もちろん僕の印象は「面」で見たものなので、「個人」としてみればおとなしい子もいっぱいいるのかもしれません。それでも、オンライン上で議論を短時間でまとめていくということ自体、旧態依然とした頭ではできない。現代の若者がオンラインでも社会を動かしているという姿に、感動がありました。

――ありがとうございます。この記事を読む学生たちにとって大きな力になるのではないかと思います。清水さんからこれから大学生になる人たちに伝えたいことはありますか?

一口に「クリエイター」と言っても、本当に幅の広い仕事です。僕自身は新卒で入社したメーカーでは「デザイナー」として働いてきたし、ライゾマでは、アーティストと”協業”をすることもあります。逆に、自身ではアーティストだと思っている人が、問題解決型のアウトプットを求められるよう場面も多々ある。クリエイターにとっては「自己表現を突き詰めるもの」と「課題を解決しなければならないもの」の間での揺れ動きはつきものなんですよね。

二択というわけではないのですが、自分にとってどちらのスタンスの方がが向いているかは、モノづくりを続けてその振れ幅の中に身を投じないとわからなかったりもします。大学生活は、どういうクリエイターになりたいのか、何が好きかを探る最初の旅。とことん自由に突き詰めて、向き合ってほしいなと思います。

――最後に、DHUとの今回のプロジェクトに対しての感想をいただければと思います。

教育というシステムも、結局はソフトウェアのひとつです。完成はないし、常にプロトタイピングだと考えています。今回の入試も、開発さなかのツールを投入したひとつのプロトタイピング。そういう、僕たちの追いかける「進化」を、共に楽しんでくれる学生たちと出会えたということを嬉しく思っています。ありがとうございました!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?