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写真家石川武志作品「Naked City Varanasi」

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写真家の石川武志さんが、バラナシの写真集「Naked City Varanasi」を出版されました。石川さんとの出会いは、おそらく2001年にアラハバード(現在名、プラヤーグ・ラージ)市のサンガムで開催された「クンブ・メーラー」の時だったと思います。

「クンブ・メーラー」とは、不死の妙薬「アムリタ」をめぐって、インドの神々(デーヴァ)が魔神(アスラ)と争っていた時代、妙薬アムリタが4滴、地上に落下してしまいました。その落ちた四つの場所(=プラヤーグ、ハリドワール、ナーシク、ウッジャイン)で、インド占星術の計算による、太陽と月と木星の位置関係(これを「会合」と言います)によって決められた時期に開催される、ヒンドゥー教の祭礼です。4カ所それぞれで、12年周期で「クンブ・メーラー」、「クンブ・メーラー」の6年後に「アルド(半分の)・クンブ・メーラー」が開催されます。「クンブ・メーラー」は、12回毎に「マハー・クンブ・メーラー」となり、144年に1度しかやってこないので、特に重要な大祭と見なされます。この祭礼の参加者は膨大で、2001年の「クンブ・メーラー」には4000万人、2007年の「アルド・クンブ・メーラー」には7000万人。2013年の「マハー・クンブ・メーラー」の時には1億人以上が参加したと推定され、『世界最大のギャザリング(人々の集まり)』として、ギネスブック認定されています。

特に衆目を引くのは、この大祭期間中、インド各地で修業している裸形の行者(サードゥ)達が一堂に会することです。様々な風体の修行者が40日ほどの期間、テント生活をして、同じ場所に留まります。大群衆はこの機会に、彼らに会うことができるのです。

「サンガム」とは、三つの河の合流点という意味です。アラハバード市では、ガンジス河とヤムナ河が合流していて、神話的にはさらに、サラスワティ河も地下で合流しているとされ、三つの河が合流するサンガムは、不死の妙薬アムリタが落下した場所に相応しい「神聖な場所」とされ、ここで水浴をすると、業の苦しみから解放され、解脱を得ると信じられています。

「クンブ・メーラー」がアラハバード市で開催されると、裸形の行者達や大群衆は、120キロほど離れたバラナシ市にも大挙してやって来ます。ガンジス河沿いのガート(階段状の沐浴場)にはたくさんのテントが張られ、裸形の行者たちが滞在します。

石川さんは専門学校を卒業された後、「水俣の写真」で有名なユージン・スミスのアシスタントとして水俣に滞在し、ユージンと生活を共にして、写真修行をされました。フリーランスとなって、1980年から渡印が始まり、特に、裸形の修行者「サードゥ」や、トランス・ジェンダー「ヒジュラ」の世界を、精力的に撮影されておられます。

石川さんとは、バラナシの有名レストラン「モナリザ」「メグ・カフェ」で会いしました。きっかけは、レストランのオーナーが、私を石川さんに紹介してくれたように記憶しています。お会いすると、とても気さくに話が始まり、その時点でもう何十年来の友人であったかのような気分になり、さっそくアラハバード市への「サンガム取材」に同行しました。その後も、石川さんがバラナシにやって来ますと必ずお会いして、石川さんが撮った写真を見せてもらいました。東京のお宅に訪ねていくと、撮った写真の中身の文化的意味について、あれこれ白熱した議論になりました。

そんな縁で、今回、石川さんがバラナシの写真集「Naked City Varanasi」を出版されるにあたり、序文と2つのエッセーを寄稿することになりました。

と言いますのも、この写真集は「世界のどこにもない、インド世界」を捉えたものですので、よほどインド好きで、インドの修行者の世界を知っている人でないと、モノクロームの写真一枚一枚は、実写ですけれど、説明がないと、なんだこれは、ただの○○なのか?と驚くことと思います。

ある方が、この写真集の比較的控えめなページをフェースブックに載せたところ、すぐにフェースブックによって削除されてしまい、友人からは忌避のコメントが寄せられたそうです。

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私の寄稿したエッセーは、写真に撮られた「バラナシの聖なる世界」の、漠然とした成立ちについて書いたものです。エッセーを読んだところで、驚きが解消されることはありません。存分に「聖なる世界」を堪能していただきたいと思います。素晴らしいのは、撮られている人たちが、石川さんのカメラのレンズをしっかり見ていることです。望遠レンズではなく、至近距離での撮影。これは、相手が石川さんに撮られることを許している、信用していることを表しています。「生命力」に満ち満ちた修行者達を目前にして、瞬時にその雰囲気に持っていくのは、なかなかできることではありません。

私の場合はレンズではなく、言葉で彼らに迫って行きました。実際は、ヒンディ語が自由に通じるということもあって、どちらかと言うと、向こう側が私に迫って来たんですよ、好奇心旺盛ですからね。特にインド留学時代、ヒンディ語を勉強したのがアラハバード大学で、アラハバードに住んでおりました。クンブ・メーラーの時にはサンガムに出掛けて行って、あれこれとインド哲学議論を彼らに吹っ掛け、その反応を楽しみながら、語学修行に励みました。石川さんの写真集の中は、私の思い出の世界でもあります。

インドは「聖なる世界(神聖世界)」と「俗なる世界(世俗世界)」とが共存しているところです。14億の民が住み、IT産業の最先端を行く世界と同時に、同等に、同格に「一切を捨てて神的存在との合一を目指す人々の世界」が存在し、相互に交流しています。おそらく世界で唯一の場所でしょう。

このNOTEでは、そんなインド世界をさまよった体験と得た知見を、ゆるゆると書いていこうと思っております。合掌。

石川さんの写真集は

でどうぞ。
あるいは、私の方にご連絡下されば、送料別で5000円で頒布(はんぷ)することもできます。

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日本/東南アジア/インドを彷徨するノマド型僧侶[修行者]。人生前半の回想録を書いています。出会った人々、出会った書物、得難い知識、生きる技など、思い出したら直ぐに、ここに書き置きいたします。