ダグラス

何処かの街に棲むプログラマーです。 物書きを目指していたあの頃を思い出して、徒然なるま…

ダグラス

何処かの街に棲むプログラマーです。 物書きを目指していたあの頃を思い出して、徒然なるままに。

最近の記事

【短編小説】逆光の中で

iPhoneの画面が明滅する。通知が次々と流れていく。仕事のSlack、友人からのLINE、Twitterのメンション。僕は何も開かない。ただ眺めている。これが日課だ。朝、目覚めてすぐに確認する習慣がついてしまった。でも、本当に大切な通知はめったに来ない。 朝日を浴びながら歩く通勤路。コンビニの前では制服姿の高校生たちが笑い合っている。彼らの声が風に乗って僕の耳に届く。懐かしい気持ちになる。高校生の頃、僕もあんな風に笑っていただろうか。記憶が曖昧だ。 オフィスに着く。Ma

    • 【短編小説】最後のコミット、君への未送信メッセージ

      彼が最後の荷物を梱包したとき、夏の日差しが鋭く照りつけていた。MacBookの箱を閉じる音が、部屋に響く。その音は、これまでの日々に終止符を打つようだった。 退職を決意したのは、春の終わり頃だった。桜の花びらが舞う中、彼は自分の将来について考えていた。「このまま続けるべきか、それとも新しい挑戦をすべきか」という思いが、彼の心の中でぶつかり合っていた。 画面に映る顔々。Google Meetの窓越しに見える東京のオフィス。「お世話になりました」という言葉が、何度も繰り返され

      • 【短編小説】寝台特急に揺られて - 遠い夏の日々

        子どもの頃、毎年夏休みになると、家族で祖父母の家に向かうのが恒例だった。祖父母の家は遠く、寝台特急に乗って深夜に到着するまで8時間もの旅路が続いた。その旅は、私にとって特別な時間だった。 列車に乗り込むと、独特のガタンゴトンという音が響き渡る。鉄の車輪がレールに触れる音は、まるで子守唄のように心地よかった。列車が出発する前、車内に流れるあの素朴なメロディーが鳴り響く。そのメロディーは何度も耳にしたもので、懐かしさが胸に広がった。アナウンスが流れ、旅の始まりを告げるその瞬間が

        • 【短編小説】iPhoneの風景、港町の夏休み

          暑い夏の日差しは、港町の街並みを煌めかせていた。舗道に敷かれた石の上に、陽光が踊るように揺れている。プログラマーの大樹は、久しぶりの帰省に微笑まずにはいられなかった。背中に感じるそよ風は、まるで故郷からの歓迎の抱擁のようだった。 町を歩く人々の笑顔や、アイスクリームを舐める子供たちの幸福そうな表情。そんな風景を、大樹は淡々と見つめながら歩いていた。道すがら、路地裏の小さなカフェが目に留まった。昔、友人とよく訪れたその場所に、懐かしい思い出が蘇る。 扉を開ければ、そこはまる

        【短編小説】逆光の中で

          【短編小説】My feelings thinking of you.

          空の色が変わり始める。 静謐な朝の灰色から、ふわりと穏やかな朝焼けへ。信号機が赤から緑へ切り替わり、そのタイミングでコーヒーショップの電気がつく。街は微かに息づき、新しい一日が始まる。 彼の名前は渡辺智也。青白いMacの画面に映る彼の姿は、彼が誰であるかを一瞬で示している。他人を一定距離で保つプログラマーという仮面。 彼が生み出すコードの破片たちは、丁寧に並べられたパズルのピースのよう。それぞれがひとつの物語を紡ぎ、全体として一つの世界を描く。慎重に選んだ言葉と共に、彼の

          【短編小説】My feelings thinking of you.