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大波乱のALGS Championshipを振り返る

世界中のAPEX競技シーン選手たちが待ち望んだ有観客オフラインでの世界大会。

しかし、蓋を開けてみれば夢の舞台は皮肉にもオフライン特有の災難に見舞われることとなった。

国際情勢の影響で特定の国々の選手に開催地アメリカへのビザが下りず、複数のチームがメンバーの変更を余儀無くされ、EMEA1位Team Empireに至ってはチームごと渡航を断念、リージョンから別チームが繰り上げ出場する事態に。

また、現地でのスクリム期間中、APAC Northのチームを中心に新型コロナウイルスに感染する選手が続出し、一度陽性判定を受けた選手には大会中復帰の機会が与えられることはなく、とうとうデュオでの参戦となるチームも発生した。

本番を目前に、もはや3人1組というAPEXの前提すら破綻し、4分の1を超えるチームが本来のメンバーで挑むことが不可能となった現状を悲観するあまり大会の意義すら否定する声が上がる始末であったが、そこから先の出来事は放送をご覧になられていた皆さんならご存じのとおり、あくまで選手たちは持てる限りのパフォーマンスを尽くし、ファンを沸かせるプレーの応酬で大会に熱量を取り戻してくれた。

とりわけ日本のFENNEL(FL)PULVEREX(PVX-UNITE)は今大会デュオの逆境を跳ね返した最も代表的なチームに挙げられるだろう。

FLはPinotr、Shakaboの2名をコロナ陽性で欠き、代理で登録されていたコーチのおとぎも当日朝に陽性が判明。選手のmo-monとコーチのdexyuku(今大会最年長)のデュオでの参戦を強いられたが、グループステージA&Bの5試合目においてmo-monの代名詞であるチャージライフルが炸裂し、8キルデュオチャンピオンを獲得。後に本人も語るように世界大会史上唯一の伝説となった。

PVXは初日にsaku、2日目にはコーチのちゃんりよもコロナ陽性が判明しデュオとなった。前回のスプリット2プレーオフで世界3位に輝き、一気に世界の注目を集め期待されていただけにその不運を惜しまれたが、FtyanとLejettaの息を飲むようなハイドシーンが会場をロックし、ルーザーズ2進出を賭けたルーザーズ1の最終試合で意地のキルポイント獲得によってギリギリ10位へ滑り込み勝ち上がりが確定した瞬間に沸き上がった張り裂けんばかりの歓声は、今大会屈指のハイライトだ。恐らく最も人気を上げたチームではないだろうか。

そしてルーザーズ2以降は各国のチームが洗練されたプレー、熱いドラマで観客を魅せていく。

NAの100 Thievesがニューキャッスルを採用した構成でワールズエッジ3連チャンピオンを奪い文字通り高すぎる壁を見せつけたかと思うと、ストームポイントでNAのTSMが意地のチャンピオン、日本のFNATIC(FNC-元BAKAGAKI、Game With)が大量キルで喰らい付き、最終戦ではボーダー付近で敗退の危機を迎えたEMEAのTeam Liquid、Alliance(ALL)、SCARZ両チームが123フィニッシュを決めて決勝進出を掴んだ。互いのチームで抱き合い生存を喜ぶ姿からは同じリージョンを背負う者としての絆が垣間見えた。デュオチーム唯一の生き残りであったPVXはここで敗退となったが、最後まで決勝進出の可能性が十分に有り得る位置での粘りを見せており、満場一致の拍手に包まれて会場を後にした。

ここで私が個人的に注目したチームはEMEAのGMT Esports(GMT)だ。リーダーのGnaskeは海外のホームドラマにいそうなザ・好青年といった出立ちの選手で、カメラに抜かれるたびに満面の笑顔で歓声に応えて観客を味方につける姿が印象的だ。また、スプリット2プレーオフにおいてランドマーク争いを繰り広げたFENNELとはライバルとして親交を深めており、私はこういった関係性もあるものかと驚かされた。彼らなりのプロ精神に触れて、名門という訳でもないがいつしか密かに応援するチームの一つとなっていた。今回、チームとしてはメンバーのmaydeelolをコロナ陽性で欠き、現地の競技選手RamBeauを迎えての参戦となったが、不安定さを微塵も感じさせない見事な連携でルーザーズを勝ち上がり決勝進出を果たした。

そしてついに始まった決勝ラウンド、緊張の初戦を手にしたのは、不利なポジションを耐え抜きヘイトを逸らした先で空中から助っ人がトドメを刺した、まさしくGMTそのチームであった。アドレナリン全開の形相で雄叫びを上げるGnaskeたちを目の当たりにし、画面越しにもビリビリと伝わってくる気迫に身が震えた。

もしかすると、あるのでは?

そんな予感が脳裏を過ぎったが、そう簡単にもいかないのが流石の決勝。次戦からは大会を通してランクマッチと見違えるほどのキルムーブを徹底するNAのFURIA Esports、これまでもピンチを巻き返してきたALL、ただただチャンピオンに恵まれてこなかったFNC…と様々なチームが待望のチャンピオンを獲得していき、8試合を終えて9チームがマッチポイントを点灯させる大混戦の様相を呈した。試合が進むごとに興奮も増し、どうせならもう全チームマッチポイントまで行ってしまえ!といった思いも浮かんできた9試合目、予想のつかないドラマは突然に収束を迎える。マッチポイント点灯チームと非点灯チームが1つまた1つと脱落し、誰もが残りチームの分布に注目する中、今大会ずっと鳴りを潜めていたAPAC Southの強豪DarkZero Esports(DZ-Reignite)が残り3部隊最終安置を巧みにコントロールし、敵部隊同士をぶつかり合わせた上で完璧な漁夫を決めて総合優勝を掻っ攫っていった。

試合内容としてはあっさりとした幕切れだったが、これはALGS Year2の流れを振り返ってみると非常によく出来た結末であったようにも思われる。地域別大会となったスプリット1プレーオフをポイント数はダントツながら最後のチャンピオンを逃した経験からリベンジを誓った無観客オフライン世界大会のスプリット2プレーオフ、PAD世界一プレイヤーとの呼び声高いエースGenburtenをコロナ陽性で欠きながらも、助っ人Jmwと共に総合優勝をもぎ取った。その優勝インタビューの際、IGLのZer0は「次はGenburtenと。」と言い残していた。そして1年の締めくくりのチャンピオンシップでこの偉業。まさに有言実行といったところだ。今大会は前述したようにスプリット2プレーオフとは比較にならないほど欠場者が相次いでいたため、正直、どのチームが優勝してもキリのない「たられば」でケチが付いてしまうのではないかと恐れていた。しかし、DZはそんな杞憂を疑いようもない力で吹き飛ばしてしまった。私は競技シーンを愛する一ファンとして心底安心した。


予想を超える盛り上がりを見せたALGS Championshipであったが、それでも美談を美談として終わらせるべきではないだろう。本来出場するべき選手が涙を飲んだ事実は変わらず、ゲームそのもの、会場、スケジュール等に不具合や不満が起こっていたという話もある。大人数が一堂に会するバトロワの仕様上どうしても仕方がない措置もあるだろうが、運営にはAPEXという素晴らしいタイトルを腐らせることのないよう問題点を真摯に改善していただくことを願う。この観点では、日本のFC Destroyのコーチsiglussがnoteを記しており、FPSタイトルの中でAPEXが置かれている現状がよくわかる内容となっているのでぜひ一読してほしい。

それでも、時には「運だけ」なんて言葉で片付けられたりもするバトロワで、バトロワならではの「実力で運命を引き寄せる」無数のチームの思惑が交差する熾烈な駆け引きの連続から不意に生まれるドラマの感動は筆舌に尽くし難いものがある。

APEX競技シーンはオフシーズンへと入るが、国内ではFLが早くも非公式大会の計画を進めるなど動きがあり、選手にとってもファンにとっても楽しみは尽きない。

次に笑うのはどのチームになるのだろうか。

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