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「途上国ニュースの深読みゼミ」がスタート、反米国家なのに国民は米国へ移民する皮肉

一番人気と評判のオンラインプログラム途上国ニュースの深読みゼミ(8月=9期。全4回)が今週スタートしました。初日に取り上げた記事(7月27日付の朝日新聞から)はこちら。

金正恩氏は「兄弟」 ニカラグア、北朝鮮と双方が大使館を設置

「(ともに反米国家で小国の)ニカラグアと北朝鮮が互いに大使館を設置する」という、一見すると凡庸な記事。これをベースに受講者の皆さんと一緒に思考を広げていくのが「途上国ニュースの深読みゼミ」のおもしろさ!

参考までに、2時間超の深読みでわかった/気づいたことのほんの一部をご紹介します。

・ニカラグアのオルテガ大統領はもともと左派ゲリラ(サンディニスタ。いまは政党)で、親米の独裁政権を倒した。まさに「ザ左派」。だがいまや、自分がゴリゴリの独裁者に。妻も副大統領。

・親米政権を倒したこともあって、またこれに加えて人権侵害を米国などに批判されることもあって、オルテガ政権は反米。ただし貿易をみると、米国が輸出の56%(ゴールド、繊維製品、巻きたばこなど)、輸入の23%(製油、原油、トウモロコシなど)を占める。経済的には米国に依存。

・国の経済状況(庶民レベルでいえば生活)が厳しいこともあって、ニカラグア国民は皮肉にも「政府レベルでは敵対する米国」に移民する(これはキューバやベネズエラも同じ傾向。最近ではロシアも。ニカラグア人はまた、隣国コスタリカにも出稼ぎへ)。*下の表を参照

・国の経済状況が悪いのは、米国の経済制裁が効いている可能性もある。もちろん制裁の種類にもよるし、原因はそれだけとは言い切れない。ただ経済制裁が庶民を苦しめている側面があるのはおそらく否定できないだろう。その結果、国を出て、米国を目指すことになる。

アメリカ大陸の人権について研究・政策提言する組織「The Washington Office on Latin America」(WOLA)から引用

・国家財政が厳しいからか、ニカラグアは左派政権なのに社会保障費を削った。そのため2018年には大規模な抗議デモが起きた。オルテガ政権はこれを鎮圧。死者は約80人とみられる。

・中南米はかつて「米国の裏庭」と比喩されるほど、米国の影響力が強かった地域。ところがいまや、左派政権がどんどん誕生する。これをピンクタイド(ピンクの波=共産主義のような真っ赤ではなく、もうちょっと緩やかな社会主義ということでピンク)と呼ぶ。左傾化した国がすべて反米ではないが、ニカラグア・キューバ・ベネズエラの3カ国は「反米左派」の代表格。東アジアの北朝鮮も同様。

・民主主義の後退が世界で目立つようになった。北朝鮮は言うまでもなく、ニカラグアもそのひとつ。オルテガ大統領(かつては独裁政権を倒した)は有力な敵対候補を排除して当選してきた。世界的には実は「(独裁などの)権威主義」はマジョリティ(世界人口のおよそ7割が権威主義の国に住んでいるとの説も)。権威主義の多くは途上国にある(途上国から世界を見る意義はここにもある)。

・ニカラグアが海外に設置する大使館(領事館は除く)は32しかない。中国にも置いていない(中国はニカラグアに大使館を置いている)。なのに北朝鮮。なぜ?

・遠く離れたニカラグアと北朝鮮の間で貿易が増えるとも思えないし(現時点の統計を見ても)、どんなプラスがあるのだろう? 「反米国家」という共通項しかないように映る。

・ニカラグアや北朝鮮といった「反米の小国」は今後どうやって生き延びていくのか。中国、ロシア頼み? 中国やロシアもそれなりの見返りを得られないと連帯してくれないような気がしなくもない(たとえば資源とか)。ちなみに北朝鮮の輸出品目で3番目に多いのが電力(途上国には「電力立国」がいくつかある)で、輸出先は100%中国。

・米国から経済制裁を受けている国は想像以上に多い。ただ「その1点」で連帯できるのか?

 こんな具合です。1本の記事からこんなふうに思考を広げていくと、世界の動きがおもしろいな、と感じませんか(国際ニュースのことをganasは「筋書きのない大河ドラマ」と形容しています)? たった2時間超でニカラグアについて、権威主義について“ちょっと語れるぐらい”になりました。

次回(10期)の「途上国ニュースの深読みゼミ」はおそらく10月、11月ごろに開講します。興味を持っていただいた方、ganasのサイトにある「お知らせ欄」をぜひチェックしておいてください。