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「The Kite Runner(君のためなら千回でも)」おすすめの洋書

今回のご紹介する洋書は、アフガニスタン出身の作家Khaled Hosseini(カーレド・ホッセイニ )さんのデビュー作、2003年発表の小説「The Kite Runner(君のためなら千回でも)」です。

デビュー作ですが、なんと世界中で売り上げ800万部以上の大ベストセラー小説です。ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストには64週間連続でランクインという驚異的な記録を樹立したそうです。それほどに万人の心を打つ美しく切ないストーリーなのです。

2007年には同じタイトルで映画化もされています。

カーレド・ホッセイニ さんは、複雑な経歴の持ち主です。首都カブールで生まれ、お父さんが大使館勤めだったため、イランやフランスはパリなどに住まわれたそうです。ソ連の侵攻が始まったためアフガニスタンに帰国できなくなり、1980年に家族でアメリカに亡命されたそうです。15歳の時だそうです。そこからアメリカの大学の医学部に進み、内科医となられました。15歳でアメリカに行く以前から英語の勉強はされていたでしょうが、それにしてもMother Tongue(母国語)とは違う言語で勉強して医師になり、さらにこんな小説が書けるようになるんですね。とても美しい言葉や表現で綴られた小説です。

あらすじ

アフガニスタンから物語は始まります。カブールに住む少年アミールとハッサンは大の仲良し。いつも一緒に無邪気に遊ぶ大親友です。しかし、実はこの二人には大きな違いがあるのです。アミールは裕福な家庭の子息。そしてハッサンは、アミールの家の使用人の息子、要するに二人は主従関係にあるのです。しかも、ハッサンはHazaraハザーラ人。アミールとは違う民族です。アミール少年の方はひたすら無邪気ですが、無口で賢いハッサンは、小さいなりに自分の立場をわきまえていて、いつもアミールの陰にいて、彼を守ろうとしているのです。

ある日、二人でチームを組んで凧揚げ大会に出たアミールとハッサンは、見事優勝します。遠くまで飛んで行った凧を拾いに行ったハッサンは、ハザーラ人を忌み嫌う敵対民族パシュトゥーン人の男子グループに襲われてしまいます。ハッサンを探しにきたアミールは、暴行される親友を見つけるも、怖さで凍り付いてしまい何もできず、彼を助けずにその場を去ってしまいます……

英語の読みどころ

この本の読みどころは、なんといっても未知の文化に触れられるところです。アフガニスタンの生活が生き生きと描かれ、その文化や歴史的背景を通して、複雑な民族間の軋轢が生々しく伝わってきます。怖くもあり新鮮でもあり、不思議な体験です。そんな異国情緒あふれる描写の中に、二人の少年の微妙な心情やその変化が語られ、夢中で読み進めてしまいます。

カブールの裕福な家に生まれた少年が主人公ですので、ご本人の経験が反映されているのだと思います。だからこそ真実味が深く感じられるのでしょう。アフガニスタンのクーデターや内戦、ソ連軍の侵攻、アメリカからの空爆など、過酷な経験を通して一人の人間として成長する主人公アミールは、ご自身の姿なのかもしれないなと思っています。 

冒頭から少し入った部分に、アミールが子供の頃のハッサンとの思い出を回顧する部分があります。

When we were children, Hassan and I used to climb the poplar trees in the driveway of my father's house and annoy our neighbors by reflecting sunlight into their homes with a shard mirror.  We would sit across from each other on a pair of high branches, our naked feet dangling, our trouser pockets filled with dried mulberries and walnuts.  We took turns with the mirror as we ate mulberries, pelted each other with them, giggling, laughing.  

「子供の頃、ハッサンと私は、父の家の前のポプラの木に登り、鏡に太陽光を反射させては近所の家を照らしたりして、よくいたずらをしていた。ズボンのポケットに桑の実やクルミいっぱいに入れ、二人それぞれが一対の高い枝に登って向かい合って腰かけ、素足をブラブラさせていた。順番に鏡で遊んでは、桑の実をお互いにぺっぺと吹き合って、いつも笑っていたものだった。」

I can still see Hassan up on that tree, sunlight flickering through the leaves on his almost perfectly round face, a face like a Chinese doll chiseled from hardwood: his flat, broad nose and slanting, narrow eyes like bamboo leaves, eyes that looked, depending on the light, gold, green, even sapphire.  I can still see his tiny low-set ears and that pointed stub of a chin, a meaty appendage that looked like it was added as a mere afterthought.  And the cleft lip, just left of midline, where the Chinese doll maker's instrument may have slipped, or perhaps he had simply grown tired and careless.

木の上のハッサンの姿は今でも目に浮かぶ。ほぼ完ぺきな真ん丸に近い顔が木漏れ日がちらついてる。木彫りのチャイナドールのような顔、平らで広い鼻なんだ。竹の葉のような細く垂れた目は、光の具合によって、金色や、緑色、さらにはサファイア色にも見える。普通より下の方に付いている彼の小さな耳だって覚えている。何かの思い付きで後から付け足したようなアゴ先のぽてっとしたとんがり。そして、中心からすぐ左にある口唇裂(こうしんれつ)。彫刻刀を持つチャイナドール人形師の手が滑ったのか、ただ単に疲れて不注意になっていたのかもしれない。

 まるで絵本の挿絵を観ているかのように描写が、美しく目に浮かびます。言葉による芸術ですね。

 Audibleの朗読は男性の声ですが、聴きやすいです。サンプルでは、もう少し先まで朗読が聞けます。

 ストーリーは進むにつれ、心理や情緒的な部分で複雑になってきますが、手ごろな厚さで読み応えのある一冊です。

 個人的には、ハッサンの心の純粋さ美しさ、自分は大好きな親友とは位が違うんだと幼心に受け入れて、だから彼のためなら何だってする……と、懸命につくす姿が健気で孤高で、何にも代えがたい魅力を放っています。

 全く余談ですが、浅田次郎さんの「壬生義士伝」という幕末のとある新選組隊員の姿を描いた小説があるのですが、それにもお殿様の息子と家来の息子の切ない友情物語があって、とても心を打たれます。それを思い出しました。

おまけ

映画「The Kite Runner/君のためなら千回でも」のトレーラーです。

作品データ

著者:カーレド・ホッセイニ Khaled Hosseini
2003年 340ページ
英語:アメリカ英語 
難易度★★★★☆
要注意描写★★★★☆(暴力、差別用語)

本などのラインナップ

Stand.fmでもご紹介しました。


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